44 / 66
第一章
四十三話
しおりを挟む
私を罵ったリンナの台詞はまるで人間の時のように流暢だった。
だからこそ余計に腹立たしい。
しかし三十近くにもなってぶりっこ呼ばわりされるとは思わなかった。
「貴女に私の何がわかるの」
「わかルわ。あんたがアタシのことを嫌いなことぐラい」
まるで子供の口喧嘩だ。そう感じる位リンナはむきになっていた。
先程までの言葉でこちらを弄ぼうとする様子はない。
彼女は私を偽善者だと言った。侮辱ではあるが発言者を考えれば呆れる気持ちもある。
盗癖で家族を含め周囲に迷惑をかけ、今は魔物と化して村を脅かしているリンナ。
寧ろそちらこそ偽物でいいから一度でも善行をするべきではないだろうか。
「あんたはアタシをあの時以来二度と家に上げなかった」
「……は?」
「嫌なら嫌って言えばいいのに、欲しいならあげるなんてウソついて」
前半意味が分からなかったリンナの言葉を脳が徐々に把握し始める。
子供の喧嘩だと思ったが、実際彼女が詰っているのは子供時代のことについてだろう。
姉と一緒に我が家を訪れた幼いリンナが私物を盗んだ件について何故かこちらを責めているのだ。
欲しいならあげるは確かに言った。だがそれには『だから黙って取らないで』と言う窘めが続いていた筈だ。
そしてそれが出来なかったからリンナを家に招くことはできなくなったのだ。全て彼女の自業自得だった。
アタシが悪いとおもっているんでしょう。拗ねた口調で言われて開いた口がふさがらなかった。
「みンなみんナ、あんたがいい子でアタシは悪い子扱いする。レンさんの時だってそう」
「レン兄さん?」
「恋人でもないのにベタベタして、亡くなった姉の代わりに尽くしテいるなンて褒められて」
ベタベタなんてした覚えはない。レン兄さんに対して恋なんて意識したことはない。
彼が今でも姉さんの月命日に欠かさず墓参りをしていることを知っている。
隻腕で雑貨屋を経営する彼を姉の代わりに手助けしたい気持ちはあるししている。ただそれは家族愛というものではないだろうか。
私とレン兄さんに確かに血は繋がっていない。けれど私と彼の間には『姉さん』がいたのだ。
いや、今でもいる。彼女の存在が私たち二人を繋いでいた。
しかし、私たちの関係についてそんな評価がされているなんて初耳だった。
皆とは、いったい誰なのだろう。リンナと親しい村人は限られている筈だが。
「ライルくンだってそう。行き遅れの癖に、嫌味も言われなイで。勇者とケッコン?身の程知らず!」
「……それは本当に余計なお世話だわ」
「ババアの癖に、清純ぶッて。尽くすオンナ気取りで。男目当てでやッてる癖に。腹立つのよアンタ」
陰でみんなそう言っているわ。せせら笑うリンナに私は首を傾げる。
皆って誰よ。口から出た言葉は自分でも意外な程淡々としていた。
「貴女そんな陰口に混ざれる程、この村で近づいてくれる人がいないでしょう」
もしかしてリンナも亡霊綿毛の幻聴を聞いているのかもしれない。そう仕込んだ本人なのに。
だとしたら少しだけ滑稽だ。私は内心でひっそりと笑った。
だからこそ余計に腹立たしい。
しかし三十近くにもなってぶりっこ呼ばわりされるとは思わなかった。
「貴女に私の何がわかるの」
「わかルわ。あんたがアタシのことを嫌いなことぐラい」
まるで子供の口喧嘩だ。そう感じる位リンナはむきになっていた。
先程までの言葉でこちらを弄ぼうとする様子はない。
彼女は私を偽善者だと言った。侮辱ではあるが発言者を考えれば呆れる気持ちもある。
盗癖で家族を含め周囲に迷惑をかけ、今は魔物と化して村を脅かしているリンナ。
寧ろそちらこそ偽物でいいから一度でも善行をするべきではないだろうか。
「あんたはアタシをあの時以来二度と家に上げなかった」
「……は?」
「嫌なら嫌って言えばいいのに、欲しいならあげるなんてウソついて」
前半意味が分からなかったリンナの言葉を脳が徐々に把握し始める。
子供の喧嘩だと思ったが、実際彼女が詰っているのは子供時代のことについてだろう。
姉と一緒に我が家を訪れた幼いリンナが私物を盗んだ件について何故かこちらを責めているのだ。
欲しいならあげるは確かに言った。だがそれには『だから黙って取らないで』と言う窘めが続いていた筈だ。
そしてそれが出来なかったからリンナを家に招くことはできなくなったのだ。全て彼女の自業自得だった。
アタシが悪いとおもっているんでしょう。拗ねた口調で言われて開いた口がふさがらなかった。
「みンなみんナ、あんたがいい子でアタシは悪い子扱いする。レンさんの時だってそう」
「レン兄さん?」
「恋人でもないのにベタベタして、亡くなった姉の代わりに尽くしテいるなンて褒められて」
ベタベタなんてした覚えはない。レン兄さんに対して恋なんて意識したことはない。
彼が今でも姉さんの月命日に欠かさず墓参りをしていることを知っている。
隻腕で雑貨屋を経営する彼を姉の代わりに手助けしたい気持ちはあるししている。ただそれは家族愛というものではないだろうか。
私とレン兄さんに確かに血は繋がっていない。けれど私と彼の間には『姉さん』がいたのだ。
いや、今でもいる。彼女の存在が私たち二人を繋いでいた。
しかし、私たちの関係についてそんな評価がされているなんて初耳だった。
皆とは、いったい誰なのだろう。リンナと親しい村人は限られている筈だが。
「ライルくンだってそう。行き遅れの癖に、嫌味も言われなイで。勇者とケッコン?身の程知らず!」
「……それは本当に余計なお世話だわ」
「ババアの癖に、清純ぶッて。尽くすオンナ気取りで。男目当てでやッてる癖に。腹立つのよアンタ」
陰でみんなそう言っているわ。せせら笑うリンナに私は首を傾げる。
皆って誰よ。口から出た言葉は自分でも意外な程淡々としていた。
「貴女そんな陰口に混ざれる程、この村で近づいてくれる人がいないでしょう」
もしかしてリンナも亡霊綿毛の幻聴を聞いているのかもしれない。そう仕込んだ本人なのに。
だとしたら少しだけ滑稽だ。私は内心でひっそりと笑った。
1
お気に入りに追加
6,090
あなたにおすすめの小説
聖女の私が追放されたらお父さんも一緒についてきちゃいました。
重田いの
ファンタジー
聖女である私が追放されたらお父さんも一緒についてきちゃいました。
あのお、私はともかくお父さんがいなくなるのは国としてマズイと思うのですが……。
よくある聖女追放ものです。
姉妹差別の末路
京佳
ファンタジー
粗末に扱われる姉と蝶よ花よと大切に愛される妹。同じ親から産まれたのにまるで真逆の姉妹。見捨てられた姉はひとり静かに家を出た。妹が不治の病?私がドナーに適応?喜んでお断り致します!
妹嫌悪。ゆるゆる設定
※初期に書いた物を手直し再投稿&その後も追記済
勇者の幼馴染は、いつも選ばれない。
柑橘 橙
恋愛
「家族を迎えに行ってくる」
そういって、連れていかれた母と弟を追いかけた父。
「魔王を倒してくる」
そういって、魔王の一人を倒しに旅立った幼馴染。
――え?私は?
※思い付いて、頭から離れなかったストーリーです。
※※他サイトにも掲載しています。
※※※お読みくださってありがとうございます!
原産地が同じでも結果が違ったお話
よもぎ
ファンタジー
とある国の貴族が通うための学園で、女生徒一人と男子生徒十数人がとある罪により捕縛されることとなった。女生徒は何の罪かも分からず牢で悶々と過ごしていたが、そこにさる貴族家の夫人が訪ねてきて……。
視点が途中で切り替わります。基本的に一人称視点で話が進みます。
[完結] 邪魔をするなら潰すわよ?
シマ
ファンタジー
私はギルドが運営する治療院で働く治療師の一人、名前はルーシー。
クエストで大怪我したハンター達の治療に毎日、忙しい。そんなある日、騎士の格好をした一人の男が運び込まれた。
貴族のお偉いさんを魔物から護った騎士団の団長さんらしいけど、その場に置いていかれたの?でも、この傷は魔物にヤられたモノじゃないわよ?
魔法のある世界で亡くなった両親の代わりに兄妹を育てるルーシー。彼女は兄妹と静かに暮らしたいけど何やら回りが放ってくれない。
ルーシーが気になる団長さんに振り回されたり振り回したり。
私の生活を邪魔をするなら潰すわよ?
1月5日 誤字脱字修正 54話
★━戦闘シーンや猟奇的発言あり
流血シーンあり。
魔法・魔物あり。
ざぁま薄め。
恋愛要素あり。
【完結】捨て去られた王妃は王宮で働く
ここ
ファンタジー
たしかに私は王妃になった。
5歳の頃に婚約が決まり、逃げようがなかった。完全なる政略結婚。
夫である国王陛下は、ハーレムで浮かれている。政務は王妃が行っていいらしい。私は仕事は得意だ。家臣たちが追いつけないほど、理解が早く、正確らしい。家臣たちは、王妃がいないと困るようになった。何とかしなければ…
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる