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第一章
四十二話
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「なあンて、嘘」
「は?」
「ママもアディーもレンさんも大切な村の仲間だもンね?殺さなイわ」
リンナの台詞に戸惑ったのは恐らく私だけではないだろう。
大切な村の仲間? 先程母親に私を刺せと命じていたのに?
何より自分の父親をあのようにしておいてよく言えるものだ。
おばさんもミランダさんも困惑しているのが気配でわかる。
リンナが何を考えているのかがわからないのは私も同じだ。
ただ異形と化した体に満ちる悪意を疑うことはなかった。
「でもォ……ライルくンは殺していいよね?」
「……っ、いいわけないでしょう」
その心構えがあったせいか、驚きからすぐ立ち直ることが出来た。
私はリンナの言葉を否定する。当然だ。
「どうして?いらないッて言ったじゃない」
「そんな事言ってない」
「いいえ言ったわ、居ても居なくても同じだッて」
それは確かに発言した。だからといってライルが死んでいいなんて断じて思っていない。
大体その発言だって、ライルとリンナの会話を聞いて半ば意趣返しのように吐き出したものだ。
しかもその会話自体が毒草の影響による幻聴だった可能性が高い。
そしてそれを仕掛けたのは恐らく目の前にいるこの魔物なのだ。
「……リンナ、ライルの家の庭に亡霊綿毛を植えたのは貴女ね?」
どさくさに紛れて聞きたかったことを聞く。馬鹿にするような笑みで肯定された。
それは今日の朝、人間の姿のリンナが見せたものと酷く似通っていた。
あの時もさぞかし私の愚かさが愉快だったのだろう。
毒草に惑わされ一人で感情を爆発させて、今まで尽くしてきた相手をむきになって貶す私を。
そうなるように差し向けたこの魔物はきっと嘲笑っていたのだ。
奥歯を噛み締める。苦くて辛い。胃が熱くなる。喚き出すのを堪えた。
「貴女は何がしたいの?何が目的なの?ライルを殺したいの?ならなぜ今までそうしなかったの?」
「質問が、多いわァ」
「聞きたいことなんて幾らでもあるわよ。墓場にいたリンナと貴女はどういう関係なの。そしていつから貴女は……そうなったのよ」
どうして私たちは、それに気づかなかったの。
絶対に言うつもりのなかった本音が口から零れ出る。
リンナなんて大嫌いだ。でも確かに村の仲間だった。ライルだってそうだ。
でもこうやって手遅れになるまで私は気づかなかった。
「アディーちゃん……」
ミランダさんの気遣うような声が聞こえる。誰かの嗚咽が聞こえた。おばさんだった。
ナイフを地面に落として両手で顔を覆い慟哭している。娘が魔物になってしまったのだ。泣きたくもなるだろう。
けれどリンナは表情一つ動かさなかった。
「本当、キライ。そういうところ。偽善者っていうのよ。いいこぶりっこのアデリーン」
あんたのせいでアタシはこうなったのに。
リンナの言葉に私は目を見開いた。
「は?」
「ママもアディーもレンさんも大切な村の仲間だもンね?殺さなイわ」
リンナの台詞に戸惑ったのは恐らく私だけではないだろう。
大切な村の仲間? 先程母親に私を刺せと命じていたのに?
何より自分の父親をあのようにしておいてよく言えるものだ。
おばさんもミランダさんも困惑しているのが気配でわかる。
リンナが何を考えているのかがわからないのは私も同じだ。
ただ異形と化した体に満ちる悪意を疑うことはなかった。
「でもォ……ライルくンは殺していいよね?」
「……っ、いいわけないでしょう」
その心構えがあったせいか、驚きからすぐ立ち直ることが出来た。
私はリンナの言葉を否定する。当然だ。
「どうして?いらないッて言ったじゃない」
「そんな事言ってない」
「いいえ言ったわ、居ても居なくても同じだッて」
それは確かに発言した。だからといってライルが死んでいいなんて断じて思っていない。
大体その発言だって、ライルとリンナの会話を聞いて半ば意趣返しのように吐き出したものだ。
しかもその会話自体が毒草の影響による幻聴だった可能性が高い。
そしてそれを仕掛けたのは恐らく目の前にいるこの魔物なのだ。
「……リンナ、ライルの家の庭に亡霊綿毛を植えたのは貴女ね?」
どさくさに紛れて聞きたかったことを聞く。馬鹿にするような笑みで肯定された。
それは今日の朝、人間の姿のリンナが見せたものと酷く似通っていた。
あの時もさぞかし私の愚かさが愉快だったのだろう。
毒草に惑わされ一人で感情を爆発させて、今まで尽くしてきた相手をむきになって貶す私を。
そうなるように差し向けたこの魔物はきっと嘲笑っていたのだ。
奥歯を噛み締める。苦くて辛い。胃が熱くなる。喚き出すのを堪えた。
「貴女は何がしたいの?何が目的なの?ライルを殺したいの?ならなぜ今までそうしなかったの?」
「質問が、多いわァ」
「聞きたいことなんて幾らでもあるわよ。墓場にいたリンナと貴女はどういう関係なの。そしていつから貴女は……そうなったのよ」
どうして私たちは、それに気づかなかったの。
絶対に言うつもりのなかった本音が口から零れ出る。
リンナなんて大嫌いだ。でも確かに村の仲間だった。ライルだってそうだ。
でもこうやって手遅れになるまで私は気づかなかった。
「アディーちゃん……」
ミランダさんの気遣うような声が聞こえる。誰かの嗚咽が聞こえた。おばさんだった。
ナイフを地面に落として両手で顔を覆い慟哭している。娘が魔物になってしまったのだ。泣きたくもなるだろう。
けれどリンナは表情一つ動かさなかった。
「本当、キライ。そういうところ。偽善者っていうのよ。いいこぶりっこのアデリーン」
あんたのせいでアタシはこうなったのに。
リンナの言葉に私は目を見開いた。
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