42 / 66
第一章
四十一話
しおりを挟む
「嘘でしょう……」
なんという悪趣味ことを考え付くのだろう。
自分の親を脅して人殺しをさせようだなんて。
そして、おじさんをあのような惨い姿にしたのは矢張りリンナの仕業だった。
おばさんは別人のようにやせ細っているけれどまだ人間の姿をしている。
なぜ片方だけそうしたのかはわからない、身の回りの世話をさせていたのかもしれない。
「ごめんなさい、ごめんなさい……」
そう呟きながら少しずつ彼女はこちらに近づいてくる。震えた手はナイフを握っていた。
当然だが大人しく刺殺されるわけにはいかない。今の弱り切ったおばさんにそれができるとも思わない。
何より、先程リンナの攻撃を止めてくれたのは彼女だったじゃないか。
できるなら言葉での説得で思い留まって欲しい。
だが相手の目には魔物となった娘に対する恐怖が強く浮かんでいた。
「アディーちゃんにそれ以上近づかないで」
村の住人でも容赦しないわよ。そう凛とした声でミランダさんが言う。
その言葉と同時に目の前の薄い壁が今度は赤い色に輝き出した。まるで警告のようだと私は思う。
これがある限りリンナの母親は私を指すどころか接近することすらできないだろう。
「先程の私の戦いを知らないわけではないでしょう魔物さん。こんなお年寄りを私たちにけしかけてどうにかできると思っているの?」
自信の表れというよりは冷静に事実を指摘するようにミランダさんはリンナに尋ねる。
確かにそれはそうだろう。村娘である私一人ならともかく、勇者と肩を並べ魔王と戦った最強の魔女が今ここにいるのだから。
私を刺すのは無理だと言外に告げられおばさんはどことなく安堵した表情を浮かべたようだった。
「思ッているワ」
「あら、どうして」
ミランダさんの更なる問いかけにリンナは答えなかった。
代わりに酷くおぞましい表情を浮かべ私を見た。
それは魔物となった彼女が浮かべた表情で最も人間らしいものだった。
憎悪、だ。
「アディー、ママに殺されなけレばライルを殺すわ」
ライルだけでない。今墓場にいる者を全員殺す。
そう命じるリンナから感じる怒りの理由が私には全くわからなかった。
なんという悪趣味ことを考え付くのだろう。
自分の親を脅して人殺しをさせようだなんて。
そして、おじさんをあのような惨い姿にしたのは矢張りリンナの仕業だった。
おばさんは別人のようにやせ細っているけれどまだ人間の姿をしている。
なぜ片方だけそうしたのかはわからない、身の回りの世話をさせていたのかもしれない。
「ごめんなさい、ごめんなさい……」
そう呟きながら少しずつ彼女はこちらに近づいてくる。震えた手はナイフを握っていた。
当然だが大人しく刺殺されるわけにはいかない。今の弱り切ったおばさんにそれができるとも思わない。
何より、先程リンナの攻撃を止めてくれたのは彼女だったじゃないか。
できるなら言葉での説得で思い留まって欲しい。
だが相手の目には魔物となった娘に対する恐怖が強く浮かんでいた。
「アディーちゃんにそれ以上近づかないで」
村の住人でも容赦しないわよ。そう凛とした声でミランダさんが言う。
その言葉と同時に目の前の薄い壁が今度は赤い色に輝き出した。まるで警告のようだと私は思う。
これがある限りリンナの母親は私を指すどころか接近することすらできないだろう。
「先程の私の戦いを知らないわけではないでしょう魔物さん。こんなお年寄りを私たちにけしかけてどうにかできると思っているの?」
自信の表れというよりは冷静に事実を指摘するようにミランダさんはリンナに尋ねる。
確かにそれはそうだろう。村娘である私一人ならともかく、勇者と肩を並べ魔王と戦った最強の魔女が今ここにいるのだから。
私を刺すのは無理だと言外に告げられおばさんはどことなく安堵した表情を浮かべたようだった。
「思ッているワ」
「あら、どうして」
ミランダさんの更なる問いかけにリンナは答えなかった。
代わりに酷くおぞましい表情を浮かべ私を見た。
それは魔物となった彼女が浮かべた表情で最も人間らしいものだった。
憎悪、だ。
「アディー、ママに殺されなけレばライルを殺すわ」
ライルだけでない。今墓場にいる者を全員殺す。
そう命じるリンナから感じる怒りの理由が私には全くわからなかった。
1
お気に入りに追加
6,090
あなたにおすすめの小説
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
聖女の私が追放されたらお父さんも一緒についてきちゃいました。
重田いの
ファンタジー
聖女である私が追放されたらお父さんも一緒についてきちゃいました。
あのお、私はともかくお父さんがいなくなるのは国としてマズイと思うのですが……。
よくある聖女追放ものです。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
姉妹差別の末路
京佳
ファンタジー
粗末に扱われる姉と蝶よ花よと大切に愛される妹。同じ親から産まれたのにまるで真逆の姉妹。見捨てられた姉はひとり静かに家を出た。妹が不治の病?私がドナーに適応?喜んでお断り致します!
妹嫌悪。ゆるゆる設定
※初期に書いた物を手直し再投稿&その後も追記済
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
いっとう愚かで、惨めで、哀れな末路を辿るはずだった令嬢の矜持
空月
ファンタジー
古くからの名家、貴き血を継ぐローゼンベルグ家――その末子、一人娘として生まれたカトレア・ローゼンベルグは、幼い頃からの婚約者に婚約破棄され、遠方の別荘へと療養の名目で送られた。
その道中に惨めに死ぬはずだった未来を、突然現れた『バグ』によって回避して、ただの『カトレア』として生きていく話。
※悪役令嬢で婚約破棄物ですが、ざまぁもスッキリもありません。
※以前投稿していた「いっとう愚かで惨めで哀れだった令嬢の果て」改稿版です。文章量が1.5倍くらいに増えています。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
とある元令嬢の選択
こうじ
ファンタジー
アメリアは1年前まで公爵令嬢であり王太子の婚約者だった。しかし、ある日を境に一変した。今の彼女は小さな村で暮らすただの平民だ。そして、それは彼女が自ら下した選択であり結果だった。彼女は言う『今が1番幸せ』だ、と。何故貴族としての幸せよりも平民としての暮らしを決断したのか。そこには彼女しかわからない悩みがあった……。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
私と母のサバイバル
だましだまし
ファンタジー
侯爵家の庶子だが唯一の直系の子として育てられた令嬢シェリー。
しかしある日、母と共に魔物が出る森に捨てられてしまった。
希望を諦めず森を進もう。
そう決意するシャリーに異変が起きた。
「私、別世界の前世があるみたい」
前世の知識を駆使し、二人は無事森を抜けられるのだろうか…?
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
【完結】精霊に選ばれなかった私は…
まりぃべる
ファンタジー
ここダロックフェイ国では、5歳になると精霊の森へ行く。精霊に選んでもらえれば、将来有望だ。
しかし、キャロル=マフェソン辺境伯爵令嬢は、精霊に選んでもらえなかった。
選ばれた者は、王立学院で将来国の為になるべく通う。
選ばれなかった者は、教会の学校で一般教養を学ぶ。
貴族なら、より高い地位を狙うのがステータスであるが…?
☆世界観は、緩いですのでそこのところご理解のうえ、お読み下さるとありがたいです。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
【完結】あなたに知られたくなかった
ここ
ファンタジー
セレナの幸せな生活はあっという間に消え去った。新しい継母と異母妹によって。
5歳まで令嬢として生きてきたセレナは6歳の今は、小さな手足で必死に下女見習いをしている。もう自分が令嬢だということは忘れていた。
そんなセレナに起きた奇跡とは?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる