勇者の帰りを待つだけだった私は居ても居なくても同じですか? ~負けヒロインの筈なのに歪んだ執着をされています~

砂礫レキ

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第一章

四十一話

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「嘘でしょう……」


 なんという悪趣味ことを考え付くのだろう。

 自分の親を脅して人殺しをさせようだなんて。

 そして、おじさんをあのような惨い姿にしたのは矢張りリンナの仕業だった。

 おばさんは別人のようにやせ細っているけれどまだ人間の姿をしている。

 なぜ片方だけそうしたのかはわからない、身の回りの世話をさせていたのかもしれない。


「ごめんなさい、ごめんなさい……」


 そう呟きながら少しずつ彼女はこちらに近づいてくる。震えた手はナイフを握っていた。

 当然だが大人しく刺殺されるわけにはいかない。今の弱り切ったおばさんにそれができるとも思わない。

 何より、先程リンナの攻撃を止めてくれたのは彼女だったじゃないか。

 できるなら言葉での説得で思い留まって欲しい。

 だが相手の目には魔物となった娘に対する恐怖が強く浮かんでいた。

  
「アディーちゃんにそれ以上近づかないで」


 村の住人でも容赦しないわよ。そう凛とした声でミランダさんが言う。

 その言葉と同時に目の前の薄い壁が今度は赤い色に輝き出した。まるで警告のようだと私は思う。

 これがある限りリンナの母親は私を指すどころか接近することすらできないだろう。


「先程の私の戦いを知らないわけではないでしょう魔物さん。こんなお年寄りを私たちにけしかけてどうにかできると思っているの?」


 自信の表れというよりは冷静に事実を指摘するようにミランダさんはリンナに尋ねる。

 確かにそれはそうだろう。村娘である私一人ならともかく、勇者と肩を並べ魔王と戦った最強の魔女が今ここにいるのだから。

 私を刺すのは無理だと言外に告げられおばさんはどことなく安堵した表情を浮かべたようだった。


「思ッているワ」 

「あら、どうして」


 ミランダさんの更なる問いかけにリンナは答えなかった。

 代わりに酷くおぞましい表情を浮かべ私を見た。

 それは魔物となった彼女が浮かべた表情で最も人間らしいものだった。

 憎悪、だ。


「アディー、ママに殺されなけレばライルを殺すわ」


 ライルだけでない。今墓場にいる者を全員殺す。

 そう命じるリンナから感じる怒りの理由が私には全くわからなかった。

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