39 / 66
第一章
三十八話
しおりを挟む
伐根を怠った結果、土中で根が腐り数年後に建てた家が傾くことがある。
ただ、大きく育った根の場合抜くことで逆に土が緩むことがある。
だから家を建てる場合、その土地がどんな状態かを知らなければいけない。
今は亡き祖父が昔そう話していたことを思い出す。
この家はそんな風に気を使って建てたから何十年経っても問題ないのだと。
死体は腐る。それは当たり前のことだ。
魔物だってきっとそれは同じことなのだろう。
ただ、巨大な根を地下に張り巡らせた植物が腐り果てたなら。
それは村に住むものとして非常に困る。
凍らせた根の一本に火の魔法を使い、彼女は器用に周りの氷だけ溶かした。
途端にそれなりの太さだった根は徐々に細く萎びてしまう。腐敗とは又違うが同じぐらい悪質だ。
しかも先程想定していたものより更に緊急性が高い。すぐにこうなってしまうなどと。
「……厄介な相手ね」
ミランダさんが忌々し気に呟く。その気持ちは共感できる。
腐敗しなくても大幅に縮むなら、その分の空洞が地中に出来る。現状維持しかない。
「こんなの、村を人質にしているようなものよ」
人質を取る。それは恐らくリンナの戦法の一つなのだろう。
墓場でおじさんの肉体を使ってライルを足止めし、私の姉さんの外見を使ってレン兄さんを惑わした。
それは魔物が勇者を相手取る為に必要なことなのかもしれない。
けれどリンナはそのこと自体を楽しんでいるように私には思えた。だからこそ許せなかった。
ミランダさんがいるとは言え、目と鼻の先にいる私たちに新しく手出しをしてこないのも苦悩させる時間を与える為だろう。
一時撤退をして村人を避難させるべきか。だが、気になることがある。
なぜリンナはさっさと村を壊さなかったのだろう。
村全体を地中から掌握していたというのなら住民が寝静まった夜に幾らでもやりようはあった筈だ。
勇者であるライルを確実に仕留める為?絶望させる為?
「でも不思議ね、ここまで巨大な魔物が何故今まで暴れなかったのかしら」
「それは……」
私も知りたいことだ。ただ考え続ければ理解できそうなもどかしさもある。
ミランダさんが魔法で凍り付かせた根の一部に触れる。
可能ならば地中にある物も同じようにしてしまえばいいのではないか。
そう提案したところ、土ごと凍ることになると難しい顔で言われた。
「それに流石に村全体は無理ね。この根は飛び出して私を襲ってきたから凍結できたの」
「……つまり、土から出ている部分ならある程度の大きさでも大丈夫ということですか?」
私の問いかけに美しい魔女は首肯した。
凍る。凍り付かせ続ける。それができるならきっと地中の根が萎びることも腐ることはない。土が緩むこともない。
けれど土に埋まった部分は難しいという。ミランダさんが魔法の対象にしやすいよう突出していないと駄目だ。
いや、駄目ではない。恐らく駄目ではないのだ。
この根が全て、リンナに繋がるものならば。
「私に、考えがあります」
そう口に出して宣言する。これも彼女は聞いていることだろう。
でもきっと見くびっている。私が無力なただの村娘だから。
「私が、この根をどうにかして見せます」
だから氷の魔法をいつでも使える準備をお願いします。
私はミランダさんに頭を下げる。
彼女がそれに頷いたのを合図に私は奥へ続く扉に手をかけた。
ただ、大きく育った根の場合抜くことで逆に土が緩むことがある。
だから家を建てる場合、その土地がどんな状態かを知らなければいけない。
今は亡き祖父が昔そう話していたことを思い出す。
この家はそんな風に気を使って建てたから何十年経っても問題ないのだと。
死体は腐る。それは当たり前のことだ。
魔物だってきっとそれは同じことなのだろう。
ただ、巨大な根を地下に張り巡らせた植物が腐り果てたなら。
それは村に住むものとして非常に困る。
凍らせた根の一本に火の魔法を使い、彼女は器用に周りの氷だけ溶かした。
途端にそれなりの太さだった根は徐々に細く萎びてしまう。腐敗とは又違うが同じぐらい悪質だ。
しかも先程想定していたものより更に緊急性が高い。すぐにこうなってしまうなどと。
「……厄介な相手ね」
ミランダさんが忌々し気に呟く。その気持ちは共感できる。
腐敗しなくても大幅に縮むなら、その分の空洞が地中に出来る。現状維持しかない。
「こんなの、村を人質にしているようなものよ」
人質を取る。それは恐らくリンナの戦法の一つなのだろう。
墓場でおじさんの肉体を使ってライルを足止めし、私の姉さんの外見を使ってレン兄さんを惑わした。
それは魔物が勇者を相手取る為に必要なことなのかもしれない。
けれどリンナはそのこと自体を楽しんでいるように私には思えた。だからこそ許せなかった。
ミランダさんがいるとは言え、目と鼻の先にいる私たちに新しく手出しをしてこないのも苦悩させる時間を与える為だろう。
一時撤退をして村人を避難させるべきか。だが、気になることがある。
なぜリンナはさっさと村を壊さなかったのだろう。
村全体を地中から掌握していたというのなら住民が寝静まった夜に幾らでもやりようはあった筈だ。
勇者であるライルを確実に仕留める為?絶望させる為?
「でも不思議ね、ここまで巨大な魔物が何故今まで暴れなかったのかしら」
「それは……」
私も知りたいことだ。ただ考え続ければ理解できそうなもどかしさもある。
ミランダさんが魔法で凍り付かせた根の一部に触れる。
可能ならば地中にある物も同じようにしてしまえばいいのではないか。
そう提案したところ、土ごと凍ることになると難しい顔で言われた。
「それに流石に村全体は無理ね。この根は飛び出して私を襲ってきたから凍結できたの」
「……つまり、土から出ている部分ならある程度の大きさでも大丈夫ということですか?」
私の問いかけに美しい魔女は首肯した。
凍る。凍り付かせ続ける。それができるならきっと地中の根が萎びることも腐ることはない。土が緩むこともない。
けれど土に埋まった部分は難しいという。ミランダさんが魔法の対象にしやすいよう突出していないと駄目だ。
いや、駄目ではない。恐らく駄目ではないのだ。
この根が全て、リンナに繋がるものならば。
「私に、考えがあります」
そう口に出して宣言する。これも彼女は聞いていることだろう。
でもきっと見くびっている。私が無力なただの村娘だから。
「私が、この根をどうにかして見せます」
だから氷の魔法をいつでも使える準備をお願いします。
私はミランダさんに頭を下げる。
彼女がそれに頷いたのを合図に私は奥へ続く扉に手をかけた。
1
お気に入りに追加
6,090
あなたにおすすめの小説
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
聖女は祖国に未練を持たない。惜しいのは思い出の詰まった家だけです。
彩柚月
ファンタジー
メラニア・アシュリーは聖女。幼少期に両親に先立たれ、伯父夫婦が後見として家に住み着いている。義妹に婚約者の座を奪われ、聖女の任も譲るように迫られるが、断って国を出る。頼った神聖国でアシュリー家の秘密を知る。新たな出会いで前向きになれたので、家はあなたたちに使わせてあげます。
メラニアの価値に気づいた祖国の人達は戻ってきてほしいと懇願するが、お断りします。あ、家も返してください。
※この作品はフィクションです。作者の創造力が足りないため、現実に似た名称等出てきますが、実在の人物や団体や植物等とは関係ありません。
※実在の植物の名前が出てきますが、全く無関係です。別物です。
※しつこいですが、既視感のある設定が出てきますが、実在の全てのものとは名称以外、関連はありません。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
1人生活なので自由な生き方を謳歌する
さっちさん
ファンタジー
大商会の娘。
出来損ないと家族から追い出された。
唯一の救いは祖父母が家族に内緒で譲ってくれた小さな町のお店だけ。
これからはひとりで生きていかなくては。
そんな少女も実は、、、
1人の方が気楽に出来るしラッキー
これ幸いと実家と絶縁。1人生活を満喫する。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
叶えられた前世の願い
レクフル
ファンタジー
「私が貴女を愛することはない」初めて会った日にリュシアンにそう告げられたシオン。生まれる前からの婚約者であるリュシアンは、前世で支え合うようにして共に生きた人だった。しかしシオンは悪女と名高く、しかもリュシアンが憎む相手の娘として生まれ変わってしまったのだ。想う人を守る為に強くなったリュシアン。想う人を守る為に自らが代わりとなる事を望んだシオン。前世の願いは叶ったのに、思うようにいかない二人の想いはーーー
隣国が戦を仕掛けてきたので返り討ちにし、人質として三国の王女を貰い受けました
しろねこ。
恋愛
三国から攻め入られ、四面楚歌の絶体絶命の危機だったけど、何とか戦を終わらせられました。
つきましては和平の為の政略結婚に移ります。
冷酷と呼ばれる第一王子。
脳筋マッチョの第二王子。
要領良しな腹黒第三王子。
選ぶのは三人の難ありな王子様方。
宝石と貴金属が有名なパルス国。
騎士と聖女がいるシェスタ国。
緑が多く農業盛んなセラフィム国。
それぞれの国から王女を貰い受けたいと思います。
戦を仕掛けた事を後悔してもらいましょう。
ご都合主義、ハピエン、両片想い大好きな作者による作品です。
現在10万字以上となっています、私の作品で一番長いです。
基本甘々です。
同名キャラにて、様々な作品を書いています。
作品によりキャラの性格、立場が違いますので、それぞれの差分をお楽しみ下さい。
全員ではないですが、イメージイラストあります。
皆様の心に残るような、そして自分の好みを詰め込んだ甘々な作品を書いていきますので、よろしくお願い致します(*´ω`*)
カクヨムさんでも投稿中で、そちらでコンテスト参加している作品となりますm(_ _)m
小説家になろうさん、ネオページさんでも掲載中。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
いっとう愚かで、惨めで、哀れな末路を辿るはずだった令嬢の矜持
空月
ファンタジー
古くからの名家、貴き血を継ぐローゼンベルグ家――その末子、一人娘として生まれたカトレア・ローゼンベルグは、幼い頃からの婚約者に婚約破棄され、遠方の別荘へと療養の名目で送られた。
その道中に惨めに死ぬはずだった未来を、突然現れた『バグ』によって回避して、ただの『カトレア』として生きていく話。
※悪役令嬢で婚約破棄物ですが、ざまぁもスッキリもありません。
※以前投稿していた「いっとう愚かで惨めで哀れだった令嬢の果て」改稿版です。文章量が1.5倍くらいに増えています。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
召喚をされて期待したのだけど、聖女ではありませんでした。ただの巻き込まれって……
にのまえ
ファンタジー
別名で書いていたものを手直ししたものです。
召喚されて、聖女だと期待したのだけど……だだの巻き込まれでした。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる