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第一章
三十八話
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伐根を怠った結果、土中で根が腐り数年後に建てた家が傾くことがある。
ただ、大きく育った根の場合抜くことで逆に土が緩むことがある。
だから家を建てる場合、その土地がどんな状態かを知らなければいけない。
今は亡き祖父が昔そう話していたことを思い出す。
この家はそんな風に気を使って建てたから何十年経っても問題ないのだと。
死体は腐る。それは当たり前のことだ。
魔物だってきっとそれは同じことなのだろう。
ただ、巨大な根を地下に張り巡らせた植物が腐り果てたなら。
それは村に住むものとして非常に困る。
凍らせた根の一本に火の魔法を使い、彼女は器用に周りの氷だけ溶かした。
途端にそれなりの太さだった根は徐々に細く萎びてしまう。腐敗とは又違うが同じぐらい悪質だ。
しかも先程想定していたものより更に緊急性が高い。すぐにこうなってしまうなどと。
「……厄介な相手ね」
ミランダさんが忌々し気に呟く。その気持ちは共感できる。
腐敗しなくても大幅に縮むなら、その分の空洞が地中に出来る。現状維持しかない。
「こんなの、村を人質にしているようなものよ」
人質を取る。それは恐らくリンナの戦法の一つなのだろう。
墓場でおじさんの肉体を使ってライルを足止めし、私の姉さんの外見を使ってレン兄さんを惑わした。
それは魔物が勇者を相手取る為に必要なことなのかもしれない。
けれどリンナはそのこと自体を楽しんでいるように私には思えた。だからこそ許せなかった。
ミランダさんがいるとは言え、目と鼻の先にいる私たちに新しく手出しをしてこないのも苦悩させる時間を与える為だろう。
一時撤退をして村人を避難させるべきか。だが、気になることがある。
なぜリンナはさっさと村を壊さなかったのだろう。
村全体を地中から掌握していたというのなら住民が寝静まった夜に幾らでもやりようはあった筈だ。
勇者であるライルを確実に仕留める為?絶望させる為?
「でも不思議ね、ここまで巨大な魔物が何故今まで暴れなかったのかしら」
「それは……」
私も知りたいことだ。ただ考え続ければ理解できそうなもどかしさもある。
ミランダさんが魔法で凍り付かせた根の一部に触れる。
可能ならば地中にある物も同じようにしてしまえばいいのではないか。
そう提案したところ、土ごと凍ることになると難しい顔で言われた。
「それに流石に村全体は無理ね。この根は飛び出して私を襲ってきたから凍結できたの」
「……つまり、土から出ている部分ならある程度の大きさでも大丈夫ということですか?」
私の問いかけに美しい魔女は首肯した。
凍る。凍り付かせ続ける。それができるならきっと地中の根が萎びることも腐ることはない。土が緩むこともない。
けれど土に埋まった部分は難しいという。ミランダさんが魔法の対象にしやすいよう突出していないと駄目だ。
いや、駄目ではない。恐らく駄目ではないのだ。
この根が全て、リンナに繋がるものならば。
「私に、考えがあります」
そう口に出して宣言する。これも彼女は聞いていることだろう。
でもきっと見くびっている。私が無力なただの村娘だから。
「私が、この根をどうにかして見せます」
だから氷の魔法をいつでも使える準備をお願いします。
私はミランダさんに頭を下げる。
彼女がそれに頷いたのを合図に私は奥へ続く扉に手をかけた。
ただ、大きく育った根の場合抜くことで逆に土が緩むことがある。
だから家を建てる場合、その土地がどんな状態かを知らなければいけない。
今は亡き祖父が昔そう話していたことを思い出す。
この家はそんな風に気を使って建てたから何十年経っても問題ないのだと。
死体は腐る。それは当たり前のことだ。
魔物だってきっとそれは同じことなのだろう。
ただ、巨大な根を地下に張り巡らせた植物が腐り果てたなら。
それは村に住むものとして非常に困る。
凍らせた根の一本に火の魔法を使い、彼女は器用に周りの氷だけ溶かした。
途端にそれなりの太さだった根は徐々に細く萎びてしまう。腐敗とは又違うが同じぐらい悪質だ。
しかも先程想定していたものより更に緊急性が高い。すぐにこうなってしまうなどと。
「……厄介な相手ね」
ミランダさんが忌々し気に呟く。その気持ちは共感できる。
腐敗しなくても大幅に縮むなら、その分の空洞が地中に出来る。現状維持しかない。
「こんなの、村を人質にしているようなものよ」
人質を取る。それは恐らくリンナの戦法の一つなのだろう。
墓場でおじさんの肉体を使ってライルを足止めし、私の姉さんの外見を使ってレン兄さんを惑わした。
それは魔物が勇者を相手取る為に必要なことなのかもしれない。
けれどリンナはそのこと自体を楽しんでいるように私には思えた。だからこそ許せなかった。
ミランダさんがいるとは言え、目と鼻の先にいる私たちに新しく手出しをしてこないのも苦悩させる時間を与える為だろう。
一時撤退をして村人を避難させるべきか。だが、気になることがある。
なぜリンナはさっさと村を壊さなかったのだろう。
村全体を地中から掌握していたというのなら住民が寝静まった夜に幾らでもやりようはあった筈だ。
勇者であるライルを確実に仕留める為?絶望させる為?
「でも不思議ね、ここまで巨大な魔物が何故今まで暴れなかったのかしら」
「それは……」
私も知りたいことだ。ただ考え続ければ理解できそうなもどかしさもある。
ミランダさんが魔法で凍り付かせた根の一部に触れる。
可能ならば地中にある物も同じようにしてしまえばいいのではないか。
そう提案したところ、土ごと凍ることになると難しい顔で言われた。
「それに流石に村全体は無理ね。この根は飛び出して私を襲ってきたから凍結できたの」
「……つまり、土から出ている部分ならある程度の大きさでも大丈夫ということですか?」
私の問いかけに美しい魔女は首肯した。
凍る。凍り付かせ続ける。それができるならきっと地中の根が萎びることも腐ることはない。土が緩むこともない。
けれど土に埋まった部分は難しいという。ミランダさんが魔法の対象にしやすいよう突出していないと駄目だ。
いや、駄目ではない。恐らく駄目ではないのだ。
この根が全て、リンナに繋がるものならば。
「私に、考えがあります」
そう口に出して宣言する。これも彼女は聞いていることだろう。
でもきっと見くびっている。私が無力なただの村娘だから。
「私が、この根をどうにかして見せます」
だから氷の魔法をいつでも使える準備をお願いします。
私はミランダさんに頭を下げる。
彼女がそれに頷いたのを合図に私は奥へ続く扉に手をかけた。
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