勇者の帰りを待つだけだった私は居ても居なくても同じですか? ~負けヒロインの筈なのに歪んだ執着をされています~

砂礫レキ

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第一章

三十七話

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 ミランダさんに助けられ地下に移動する。

 土臭さを感じ持っていたハンカチで鼻と口を覆う。

 肌に触れる空気がひんやりとしているのは地下だからか。

 
「アディちゃんにも視(み)やすくするわね」


 ミランダさんが言葉とともに私の髪に触れると、室内がにわかに明るくなった。 

 どういう仕組みなのかはわからない。

 太陽が照り付ける外を散々歩いて家の中に入った時に感じる奇妙な薄暗さを感じた。


「これは……魔法ですか?」

「そうよ。貴女の視力を少しの間だけ弄らせてもらったわ」


 気味の悪いことをしてごめんなさいね。

 謝罪を受け私は首を振る。見えないよりは見えた方が当然いいに決まっている。

 後遺症が残るというなら別だが、そうでないというのなら全く問題はない。

 私がそう返答すると彼女は目に見えてほっとした表情を浮かべた。

 先程から薄々感じていたがミランダさんは魔女としての技能とその立場に比べどこか気弱なところがある。

 いや、気弱とは違うかもしれない。不安になりやすい傾向があるというか。

 それも亡霊綿毛の影響だろうか。

 そんなことを考えながらも地下室の中を見渡す。

 戦いの後だというのはわかったが、予想したような血生臭さはなかった。植物の魔物だからかもしれない。

 ただやはり寒い。地下だからというのを差し引いてもどこからか冷気がする。


「氷の魔法を使ったんですか?」


 私はミランダさんに質問した。先程、鉢植えに潜んだ魔物を氷漬けにした姿を見ている。


「ええ、手っ取り早く氷漬けにして砕いていいものは砕いて隅に集めたわ」


 彼女が指さす方向に視線をやると確かに氷の塊が寄せ集められている。

 生きたまま凍らされ砕かれた魔物たちの残骸だが、植物なのでそこまで残酷さは感じられなかった。 


「ただ、本当に厄介なのはそれにじゃなくこっちの方ね」


 そう彼女は溜息を吐くと壁に近づく。所々煉瓦が剥がれ土の色が見えている。

 いや、よくよく見ると土ではない。奇妙にぼこりと盛り上がっているそれは……根だ。

 一番小さい物でも私の腿よりも太い。煉瓦を落とさないまま内で盛り上がっているものもある。

 地下室の主(ぬし)の一部でしょうね、そうミランダさんは言う。

 嫌な予感がして逆の壁も見る。やはりそちらも同じような状況だった。

 つまりこの部屋は、巨大な植物の根に抱きしめるように囲まれているのか。

 私の発言に今度はミランダさんが首を振った。


「この部屋だけではないわ、恐らく……この家だけでもない」

「それって、退治した魔物の死体が、この根も含めて腐って無くなってしまったら……」

「……村でそれなりの規模の地盤沈下が、起こるかもしれないわね」


 そうしない為に対策を講じる必要がある。彼女の発言に私は強く頷いた。

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