勇者の帰りを待つだけだった私は居ても居なくても同じですか? ~負けヒロインの筈なのに歪んだ執着をされています~

砂礫レキ

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第一章

三十六話

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 村人(なかま)の悪口を言うのは良くないことだ。

 でも負の感情を抱くのは止められない。

 私は今回の件が起こるよりずっと前からリンナを心の奥底で『盗人』だと見下していたのだ。 

 彼女がレン兄さんやライルの近くにいるのを見るだけで嫌な気持ちになっていたのだ。

 奪わないで欲しいと。奪わせはなしいと。

 二人とも、私のものではないのに。

 口の中の丸薬を噛む。苦くて辛い。その刺激が泥に沈みそうな思考を引き上げてくれる。

 多分、私と同じように、いやそれ以上にライルも亡霊綿毛の影響を受けているだろう。

 墓場での怯えた子供のような表情を思い出す。

 ただ、彼がおかしくなったのは毒草の影響だけではない。きっと。

 そのことにもっと早く気づけたなら何かが変わっていたのだろうか。

 先程から後悔ばかりしている。それは取り返しがつかないことを知っているからだ。

 私の心はもうライルから離れている。情は残っているかもしれない。けれど恋しく思うことはない。

 勿体ないような清々したような悔しいような、すっきりしたような不思議な気分だ。

 この事件が終わった後、私はもうライルにしがみつくことはない。

 面倒を見て尽くしている振りをして愛して欲しいと縋り付くようなことはしないだろう。

 亡霊綿毛により互いが変わってしまったことに私もライルも気づかなかった。そのまま関係を悪化させていった。

 ほぼ毎日一緒に暮らしていたのに。それが答えなのだ。 

 私たちは二人きりでいるときっと二人で堕ちていってしまう。

 だから、この嫌な事件をきっかけにしてでも、距離を取って変わらなければいけない。

 ミランダさんが私を呼ぶ声が聞こえた。
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