29 / 66
第一章
二十八話
しおりを挟む
リンナの家に入る前にミランダさんは虚空に向かって何かを呟いた。
それをじっと見ていると私の視線に気づいたのか「エミリアにかけた消音魔法を解いていた」と説明してくれる。
確かにミランダさんがエミリアさんの声量を抑える為にその魔法をかけていたことは覚えている。
けれどどうして今それを解除したのだろう。疑問が表情に出ていたのかミランダさんが言葉を発した。
「少しでもあの娘の声が聞こえやすいようによ」
リンナの家と墓地は一本道だがそれなりに距離がある。
普通ならこの場にいて墓地からの声なんて聞こえる筈がない。
ないのだが、相手はエミリアさんである。
きっと抑制が解かれた今なら、それなりに気合を入れて叫べばここまで聞こえてくるに違いない。
だから私はそれ以上の疑問を抱くことなくミランダさんをリンナの家へと招いた。
森へ繋がる方の扉は開かれていたというのに一歩足を踏み入れると土と植物の濃い匂いがした。余りいい香りではない。
それは隠し切れない腐臭があるからだ。
けれど先ほどエミリアさんと通った時はここまで不快さを感じなかった。それは何故だろう。
その時とは状況が変わっているのだろうか。私はゆっくりと室内を見渡す。
真っ先にリンナの父親の人面花が目に飛び込んできた。正直姿が惨すぎて視線を逸らしたいぐらいだ。
「おじさん……」
それでも勇気を振り絞り話しかける。ミランダさんは観察の姿勢に入ったのか私の背後で無言を貫いていた。
墓地に向かったが結局彼の願い通りにリンナの母親を救うことはできなかった。
なぜなら墓地に彼女が存在しなかったからだ。いたのはリンナの姿をした魔物とレン兄さんとライルだけだった。
だから私は彼に尋ねる。
「おじさん、おばさんは一体どこにいるの?」
「アディ、ツマヲ、ツマハ……」
その体から生えている葉は先程のように森を指し示さない。
ぐったりと力なく下へと垂れ下がっている。
そう、下へだ。
「……地下室に、いるのね?」
「アディ、ツマハ、ムスメハ……」
バツヲ、ウケルノダロウカ。
そう苦し気な声で呟いたきり、人面花は言葉を発しなくなった。
それをじっと見ていると私の視線に気づいたのか「エミリアにかけた消音魔法を解いていた」と説明してくれる。
確かにミランダさんがエミリアさんの声量を抑える為にその魔法をかけていたことは覚えている。
けれどどうして今それを解除したのだろう。疑問が表情に出ていたのかミランダさんが言葉を発した。
「少しでもあの娘の声が聞こえやすいようによ」
リンナの家と墓地は一本道だがそれなりに距離がある。
普通ならこの場にいて墓地からの声なんて聞こえる筈がない。
ないのだが、相手はエミリアさんである。
きっと抑制が解かれた今なら、それなりに気合を入れて叫べばここまで聞こえてくるに違いない。
だから私はそれ以上の疑問を抱くことなくミランダさんをリンナの家へと招いた。
森へ繋がる方の扉は開かれていたというのに一歩足を踏み入れると土と植物の濃い匂いがした。余りいい香りではない。
それは隠し切れない腐臭があるからだ。
けれど先ほどエミリアさんと通った時はここまで不快さを感じなかった。それは何故だろう。
その時とは状況が変わっているのだろうか。私はゆっくりと室内を見渡す。
真っ先にリンナの父親の人面花が目に飛び込んできた。正直姿が惨すぎて視線を逸らしたいぐらいだ。
「おじさん……」
それでも勇気を振り絞り話しかける。ミランダさんは観察の姿勢に入ったのか私の背後で無言を貫いていた。
墓地に向かったが結局彼の願い通りにリンナの母親を救うことはできなかった。
なぜなら墓地に彼女が存在しなかったからだ。いたのはリンナの姿をした魔物とレン兄さんとライルだけだった。
だから私は彼に尋ねる。
「おじさん、おばさんは一体どこにいるの?」
「アディ、ツマヲ、ツマハ……」
その体から生えている葉は先程のように森を指し示さない。
ぐったりと力なく下へと垂れ下がっている。
そう、下へだ。
「……地下室に、いるのね?」
「アディ、ツマハ、ムスメハ……」
バツヲ、ウケルノダロウカ。
そう苦し気な声で呟いたきり、人面花は言葉を発しなくなった。
12
お気に入りに追加
6,089
あなたにおすすめの小説

敗戦して嫁ぎましたが、存在を忘れ去られてしまったので自給自足で頑張ります!
桗梛葉 (たなは)
恋愛
タイトルを変更しました。
※※※※※※※※※※※※※
魔族 vs 人間。
冷戦を経ながらくすぶり続けた長い戦いは、人間側の敗戦に近い状況で、ついに終止符が打たれた。
名ばかりの王族リュシェラは、和平の証として、魔王イヴァシグスに第7王妃として嫁ぐ事になる。だけど、嫁いだ夫には魔人の妻との間に、すでに皇子も皇女も何人も居るのだ。
人間のリュシェラが、ここで王妃として求められる事は何もない。和平とは名ばかりの、敗戦国の隷妃として、リュシェラはただ静かに命が潰えていくのを待つばかり……なんて、殊勝な性格でもなく、与えられた宮でのんびり自給自足の生活を楽しんでいく。
そんなリュシェラには、実は誰にも言えない秘密があった。
※※※※※※※※※※※※※
短編は難しいな…と痛感したので、慣れた文字数、文体で書いてみました。
お付き合い頂けたら嬉しいです!

選ばれたのは私ではなかった。ただそれだけ
暖夢 由
恋愛
【5月20日 90話完結】
5歳の時、母が亡くなった。
原因も治療法も不明の病と言われ、発症1年という早さで亡くなった。
そしてまだ5歳の私には母が必要ということで通例に習わず、1年の喪に服すことなく新しい母が連れて来られた。彼女の隣には不思議なことに父によく似た女の子が立っていた。私とあまり変わらないくらいの歳の彼女は私の2つ年上だという。
これからは姉と呼ぶようにと言われた。
そして、私が14歳の時、突然謎の病を発症した。
母と同じ原因も治療法も不明の病。母と同じ症状が出始めた時に、この病は遺伝だったのかもしれないと言われた。それは私が社交界デビューするはずの年だった。
私は社交界デビューすることは叶わず、そのまま治療することになった。
たまに調子がいい日もあるが、社交界に出席する予定の日には決まって体調を崩した。医者は緊張して体調を崩してしまうのだろうといった。
でも最近はグレン様が会いに来ると約束してくれた日にも必ず体調を崩すようになってしまった。それでも以前はグレン様が心配して、私の部屋で1時間ほど話をしてくれていたのに、最近はグレン様を姉が玄関で出迎え、2人で私の部屋に来て、挨拶だけして、2人でお茶をするからと消えていくようになった。
でもそれも私の体調のせい。私が体調さえ崩さなければ……
今では月の半分はベットで過ごさなければいけないほどになってしまった。
でもある日婚約者の裏切りに気づいてしまう。
私は耐えられなかった。
もうすべてに………
病が治る見込みだってないのに。
なんて滑稽なのだろう。
もういや……
誰からも愛されないのも
誰からも必要とされないのも
治らない病の為にずっとベッドで寝ていなければいけないのも。
気付けば私は家の外に出ていた。
元々病で外に出る事がない私には専属侍女などついていない。
特に今日は症状が重たく、朝からずっと吐いていた為、父も義母も私が部屋を出るなど夢にも思っていないのだろう。
私は死ぬ場所を探していたのかもしれない。家よりも少しでも幸せを感じて死にたいと。
これから出会う人がこれまでの生活を変えてくれるとも知らずに。
---------------------------------------------
※架空のお話です。
※設定が甘い部分があるかと思います。「仕方ないなぁ」とお赦しくださいませ。
※現実世界とは異なりますのでご理解ください。

ある平民生徒のお話
よもぎ
ファンタジー
とある国立学園のサロンにて、王族と平民生徒は相対していた。
伝えられたのはとある平民生徒が死んだということ。その顛末。
それを黙って聞いていた平民生徒は訥々と語りだす――
お前など家族ではない!と叩き出されましたが、家族になってくれという奇特な騎士に拾われました
蒼衣翼
恋愛
アイメリアは今年十五歳になる少女だ。
家族に虐げられて召使いのように働かされて育ったアイメリアは、ある日突然、父親であった存在に「お前など家族ではない!」と追い出されてしまう。
アイメリアは養子であり、家族とは血の繋がりはなかったのだ。
閉じ込められたまま外を知らずに育ったアイメリアは窮地に陥るが、救ってくれた騎士の身の回りの世話をする仕事を得る。
養父母と義姉が自らの企みによって窮地に陥り、落ちぶれていく一方で、アイメリアはその秘められた才能を開花させ、救い主の騎士と心を通わせ、自らの居場所を作っていくのだった。
※小説家になろうさま・カクヨムさまにも掲載しています。

前世の記憶が蘇ったので、身を引いてのんびり過ごすことにします
柚木ゆず
恋愛
※明日(3月6日)より、もうひとつのエピローグと番外編の投稿を始めさせていただきます。
我が儘で強引で性格が非常に悪い、筆頭侯爵家の嫡男アルノー。そんな彼を伯爵令嬢エレーヌは『ブレずに力強く引っ張ってくださる自信に満ちた方』と狂信的に愛し、アルノーが自ら選んだ5人の婚約者候補の1人として、アルノーに選んでもらえるよう3年間必死に自分を磨き続けていました。
けれどある日無理がたたり、倒れて後頭部を打ったことで前世の記憶が覚醒。それによって冷静に物事を見られるようになり、ようやくアルノーは滅茶苦茶な人間だと気付いたのでした。
「オレの婚約者候補になれと言ってきて、それを光栄に思えだとか……。倒れたのに心配をしてくださらないどころか、異常が残っていたら候補者から脱落させると言い出すとか……。そんな方に夢中になっていただなんて、私はなんて愚かなのかしら」
そのためエレーヌは即座に、候補者を辞退。その出来事が切っ掛けとなって、エレーヌの人生は明るいものへと変化してゆくことになるのでした。

もう散々泣いて悔やんだから、過去に戻ったら絶対に間違えない
もーりんもも
恋愛
セラフィネは一目惚れで結婚した夫に裏切られ、満足な食事も与えられず自宅に軟禁されていた。
……私が馬鹿だった。それは分かっているけど悔しい。夫と出会う前からやり直したい。 そのチャンスを手に入れたセラフィネは復讐を誓う――。
将来を誓い合った王子様は聖女と結ばれるそうです
きぬがやあきら
恋愛
「聖女になれなかったなりそこない。こんなところまで追って来るとはな。そんなに俺を忘れられないなら、一度くらい抱いてやろうか?」
5歳のオリヴィエは、神殿で出会ったアルディアの皇太子、ルーカスと恋に落ちた。アルディア王国では、皇太子が代々聖女を妻に迎える慣わしだ。しかし、13歳の選別式を迎えたオリヴィエは、聖女を落選してしまった。
その上盲目の知恵者オルガノに、若くして命を落とすと予言されたオリヴィエは、せめてルーカスの傍にいたいと、ルーカスが団長を務める聖騎士への道へと足を踏み入れる。しかし、やっとの思いで再開したルーカスは、昔の約束を忘れてしまったのではと錯覚するほど冷たい対応で――?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる