勇者の帰りを待つだけだった私は居ても居なくても同じですか? ~負けヒロインの筈なのに歪んだ執着をされています~

砂礫レキ

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第一章

二十七話

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 予想よりも時間がかかりながらもリンナの家が視界に捉えられるまで近づく。

 今のところ墓場から続く根は途切れていない。

 途中でいっそこの根を爪先で踏み潰してしまえばとも考えたが、どうしても思い切れなかった。

 その内の一本がリンナの父親の命綱になっていることもある。

 ただ、それだけでなく……予想通りなら、私は相手の目を見て『終わり』を選びたかった。

 そんなことを考え走っている内に目的地はいよいよ近くなる。

 その時になって初めて私は分かれ道に誰かが立っているのに気付いた。

 墓地へは当然村人の誰でも参ることができる。

 手前に存在する鎮魂の森に一番近い民家はリンナの家だが、その脇には断りなく出入りできる通り道があった。
 
 そこに、女性が一人立っている。


「ミランダさん!」


 私は思わず叫んだ。

 エミリアさんの声よりは小さいけれど彼女は気づいたようで手を振って駆け寄ってくる。

 声を張り上げずに会話ができる距離まで歩み寄る。

 彼女の豊満な胸が呼吸に合わせ上下しているのが見えた。急いでここまで来てくれたのだろうか。


「ごめんなさいね。遅くなって」


 もう大丈夫よ。そう告げられただけで膝から力が抜け落ちそうになる。

 私が幼い子供だったなら彼女に縋り付いて泣き出していただろう。

 けれど私は年齢だけは十分すぎるぐらい大人だった。何より私には役目がある。

 この高名な魔女に得た情報を伝えなければいけない。

 だから自らの太腿を拳で殴りつけ、気合を入れる。


「ミランダさん、植物の魔物が、ライルたちを襲っています」

「……そう。命に別状は」

「今のところは、まだ。ライルを虐めるのを楽しんでいるみたいでした」   

「魔物はここの村の人間の姿をしていた?」

「姿も声も、多分記憶もリンナでした、でも……」


 リンナ本人ではなかった。そう私は伝える。

 双子草という魔物が告げた名前をそのままミランダさんに答えると彼女は少しだけ怪訝そうな表情を浮かべた。

 私はすぐ傍の屋敷を指さす。扉は開かれたままだ。一緒に来て欲しい、そう言いかけて舌先が固まる。

 ミランダさんは強力な魔法使いだ。ここで時間を取らせるより墓場に向かってライルたちの加勢をしてもらった方がいいかもしれない。

 リンナの姿をした魔物の気が変わって、もしかしたら弄ぶことを止めライルやレン兄さんたちを殺そうとするかもしれない。

 墓場への道を振り返る。まるでそれに合わせたように向こうから一陣の風が吹いた。


『……迷わ いで、 ディー。自信を……って』


 そう、酷く微かに少女の囁き声が聞こえた気がした。

 幻聴かもしれない、けれど。姉さんの声が聞こえた。

 私は美しい魔女に向かって声を張り上げる。彼女の知識と魔法が私の目的にもきっと必要だ。 


「ミランダさん、リンナの家についてきてください!!」


 そこに本物のリンナがいる筈です。

 手招きするように扉がキィキィと鳴った。
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