勇者の帰りを待つだけだった私は居ても居なくても同じですか? ~負けヒロインの筈なのに歪んだ執着をされています~

砂礫レキ

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第一章

二十六話

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 私は、弱者だ。

 物語の中の人間だとしたら、きっと名前すらない。

 勇者にも戦士にも魔法使いにもお姫様にもなれない。

 でも、だから、逃げていい。

 私はただの村娘で戦う力も勇気もないのだから。

 化け物を前にして逃げるのは何一つおかしいことじゃない。


 ――― そう、リンナ魔物は思うだろう。



「ッ、ハアッ」


 森の中を全速力で駆ける。

 通い慣れた道の筈なのに、まるでゴールのない迷路に放り込まれたような恐怖がついてくる。

 たとえば、後ろから魔物姿のリンナが追いかけてきたら。

 そんなことを考えるだけで背筋がぞっとした。

 でも恐らくそれはない。墓地にはライルがいる。エミリアさんやレン兄さんもいる。

 彼らよりも私を優先する理由なんてリンナにはないだろう。

 もし、私がしようとしていることに気づいたら話は別だけれど。

 二本だけ残った根を踏まないようにしながら、必死で走る。

 リンナの家から墓地に延々と続いているそれを。

 一本は家にあるおじさんの人面花と繋がっている。

 では、もう片方は?

 残りの一本は何と繋がっているのだろう。

 家にあった複数の植木鉢たち、それらから確かに根は伸びていた。

 あるものは小動物の死体に絡みつき栄養を吸い取っているようだった。

 けれど今残っている二本の内、一本は人面花になったおじさんの頭と墓場にある胴体を繋いでいるとして。

 同じように墓場へと続いていたもう一本は『何』と繋がっているのだろう。

 私はそれを確かめる必要がある。

 そして予想通りなら、その後のことも、果たさなければいけない。


「はっ、リンナ、待ってなさいよ……!」


 私は走る。勇者じゃなく、戦士じゃなくても。

 できることをやる為に。

 油断させて、逃げて、辿り着いて見せる。

 これが私の戦い方だ。
 

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