勇者の帰りを待つだけだった私は居ても居なくても同じですか? ~負けヒロインの筈なのに歪んだ執着をされています~

砂礫レキ

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第一章

二十五話※エミリア視点

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「勇者を守る?村人が?意味わからない」


 何を言っているのレンさん。 

 魔物が心底不思議そうに言う。

 確かに、本来なら逆だろう。

 勇者は弱き人々の剣となり盾となり魔族に立ち向かわなければいけない。

 守る者であって、守られるべき者ではないのだ。


「別にそんなおかしいことじゃないさ」


 やれることをやるだけだ、レンと呼ばれた青年はいっそ淡々と告げる。

 ライルが死者を斃せないなら己が葬ると。


「村人だから、勇者だからとか関係ない。戦える奴が戦うんだ」

「あはは、寧ろレンさんの方が勇者っぽいね。我儘で泣き虫なんライル君なんかよりずっと……ああ」 


 そっか。そうだったんだね。そう自らと会話するようにリンナがブツブツと繰り返す。

 だからライルはいらないんだ。

 そう最後に言い切ると女の魔物は義手の青年へと向き直った。 


「そういえばアデリーンはレンさんと一緒に家に帰ってきたよね。やっぱりライルじゃなくてレンさんが本命だったんだ」


 だったら奪わなくちゃ。

 そう赤い唇が吊り上がった途端リンナを中心に太い根が何本も地上に這い出す。

 植物の筈なのに血の管のようなものが浮くグロテスクなそれらが宣言通りにレンへと襲い掛かる。

 エミリアは庇う様に彼の前に出て、複数を同時に叩き落とした。地面でまだ蠢く物は容赦なく足で踏み潰していく。


「レンさんはここで殺して食べてあげるね。その次はアデリーン。ライル君はぁ……一番最後♪」


 すぐに殺さず二人の声と姿で絶望させてあげる。そう下卑た笑みを浮かべリンナは自身の腹を擦った。

 恐らく今墓地に湧いている死者のようにレンとアデリーンを操るつもりなのだろう。

 どこまでライルを追い詰めたいのか。エミリアはリンナを睨む。


「全部を食べる必要はないから、二人の生首はライル君にあげる。ちゃんと喋るように手入れしてからねええええ」

「勝手なことを、私の首は私だけの物ですわ!!」


 太い根の一本を捩じ切るようにへし折りエミリアはリンナへと放る。

 魔物は表情を変えることなく死者を盾にしてそれを避けた。

 地面から生えた根はリンナの体の一部なのではと予想していたが違うのかも知れない。

 痛みを浮かべない女の顔にエミリアは僅かな失望を感じた。

 けれどだからといって襲ってくるものを無視はできない。

 お返しとばかりに新たな根が襲い掛かってくる。

 迎え撃とうと一歩前に踏み込んだエミリアは、しかし次の瞬間には素早く身を引こうとした。

 土が、柔らかすぎたのだ。

 しかし、その反応よりも半瞬早く地面から別の根が飛び出てきた。
 
 眠っていた死者が地上に出た代わりとでもいうようにエミリアの足首に巻きつき共に土の下へ潜ろうとする。

 それに気付いたレンが短剣で根を断ち切ろうとした。

 だが、それは魔物の思う壺だった。エミリアはそう気づく。


「勇敢なお二人を歓迎いたしますわ。さあ、お揃いでいらっしゃいな」


 あたたかく冷たい、土の中へ。
 
 リンナの上品ぶった招待の声と共に、おびただしい数の根が地面から飛び出てくる。

 それらは絡まり合い鳥籠のように男女を囲い込むと再び地中へと戻っていった。

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