勇者の帰りを待つだけだった私は居ても居なくても同じですか? ~負けヒロインの筈なのに歪んだ執着をされています~

砂礫レキ

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第一章

二十四話※エミリア視点

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 少女の死体に捕らえられている長身の男性。

 確かレンという名前のライルとアデリーンの幼馴染の人物だ。

 彼の物言いたげな瞳と目が合う。

 リンナの挙動を観察すると、今はこちらから視線を外し派手に苦しむライルを見ることに興じているようだった。

 死者を使い勇者の精神を存分に痛めつけることができた今、人質の存在などどうでもよくなっているのかもしれない。

 エミリアは素早く青年の元に駆け寄ると、彼を捕らえている少女の体を力ずくで引き剥がした。

 男性の背中に回された腕や愛おし気に胸に寄せられた頭部。そしてその華奢な体から生えている幾つもの根や枝のようなもの。

 力を込めれば意外な程呆気なくその肉体は損壊し、だからこそレンという青年に間近で惨い光景を見せてしまったことにエミリアの胸が痛む。

 取り外しに苦労したのは青年の肉体に絡みついた根の方だった。

 細かな棘が生えているらしく口元や耳の辺りまで伸びていたものをなるべく丁寧に取り払ったが、やはり肌は赤く蚯蚓腫れし痛々しい有様になってしまう。

 これが体内に入り込んでいたらもっと辛いことになっていただろう。エミリアは青年が数度叫んだきり口を噤んでいた理由を今頃になって察した。

 少女の頭や体が土人形のようにもぎ取られていく様を、自らがそうされているかのような痛切な表情で見つめていた青年は口が自由になってもエミリアを責めることはなかった。

 ただ、数度激しく咳込んだ。そして叫ぶ。


「ライル、そいつらは偽物だ!その声も全部嘘だ!倒すんだ!!」

「……気軽に言うな!」


 レンの激にライルはヒステリックに返す。顔は涙でぐちゃぐちゃだ。


「嘘じゃなかったら、嘘じゃなかったら俺が殺すんだぞ!父さんや母さんや、皆を!!」


 そして俺が責められる!!誰も守ってくれない!!

 勇者の叫び声が墓場を震わせる。 

 エミリアが怒鳴ろうとするのを青年が手で制止した。

 ふらふらと歩き始める彼をはらはらと見守るしかできない。

 途中で拾った短剣を握りながらレンはライルに近づいた。

 そして、彼の前に直立している中年の男女を見据える。

 隻腕とは思えない程鮮やかな一振りで男の死者の首が落ちた。 
 
 
「わかったライル、俺が守ってやる」


 俺はお前らの兄ちゃんだからな。

 酷く疲れ切った顔で、それでも青年は笑った。

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