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第一章
二十二話※エミリア視点
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「……嘘を吐くな」
凍てつくような声が聞こえた。
リンナものでもエミリアの物でもない低い青年の声。
それはライルから発せられたものだった。
その表情には憤りと不快感が明確に浮かんでいる。
癇癪を起す直前の子供のようだとエミリアは思った。
「アディが、あいつが俺の事をどうでもいいなんて……言うかよ!!」
「だって言ったもん」
「嘘吐くんじゃねぇ!!」
ライルの怒鳴るような大声にリンナは顔色一つ変えず言い返す。
怒っている男は魔王を討伐した勇者で、それを受け流す女は魔王軍幹部の手下。
それなのにまるで子供の口喧嘩のようだ。そうなっている原因が勇者側にあることにエミリアは頭痛を感じた。
「あいつは俺の幼馴染で、昔からずっと傍にいたんだ、どうでもいいなんて、あるわけないだろ!!」
「それって単純にライル君がひっついていただけじゃない?どうでもいいって言うより寧ろ迷惑だったかもねー」
「部外者は黙ってろ!!」
「あっ、アタシ知ってるよ。そういう台詞って言い返せない時に言うんだって」
「いい加減にしなさいライル!!!!」
余りにぐだついた会話に我慢できずエミリアが割って入る。
木に止まっていた鳥たちが一斉に飛び立つ羽音が聞こえた。
自分でもかなりの大声を出した実感はある。これは余りよくない事だ。
先程からミランダにかけられた静音魔法も解けている。恐らく村まで聞こえただろう。
魔物のいる場所に無力な人々を呼び込みかねない。
さっさとこの女型の魔物を倒してしまおう。人質については、可能なら助けたいが無理なら諦めるしかない。
しかしリンナが余りにも人間らしい物言いをするので、普段の討伐と比べて調子が狂っているのは確かだ。
ライルなどはもはや言葉だけで弄ばれてすらいる。
魔王討伐の長旅の中で勇者の人となりや美点や欠点なども知ることは出来たと思っていたが、ここまで幼い男だとは。
使命を終え故郷に戻ることで張りつめていた気が緩んだにしても、これではただの短気な青年ではないか。
「アデリーンさんの気持ちは後で本人に確かめなさい!!今は魔物を倒して村を守るのが先決です!!」
アデリーンの本音がリンナの発言と変わりがないことをエミリアは察している。
けれどそれは今口にすることではない。
叱咤に表情を引き締めたライルにエミリアは内心頷く。
リンナが村を壊滅させるのが目的だと告げた事で、彼も覚悟を決めている筈だ。
だが気になるのは物理攻撃だけでリンナを倒しきれるのかということだ。
先程エミリアの攻撃で魔物の腹に穴をあけることが出来た。
しかし平然と会話を続けるリンナを見ているとそれがダメージに直結したとエミリアには思えなくなっていた。
痛覚がない魔物の可能性はある。その場合痛みで躊躇うことがないので厄介な敵ではある。
けれどリンナの余裕はそれが原因ではないような気がした。戦士の勘というものかもしれない。
「あれあれ~へなちょこライル君もとうとう戦っちゃう?ま、確かにアタシのパパとレンさんの二人じゃ人質としては弱かったかもね」
だから人質、沢山追加しちゃうね。
そうリンナが告げた途端、地面から大量の手が生えてきた。
いや手だけではない、レンと言う青年に絡みついている少女のように人間の姿を保っているものもいる。
「ライル君とアデリーンのパパママと~あと死んだ人全員」
もう一度殺さないとアタシとは戦えないよ?
そう悪魔のような表情で口にしてリンナは高らかに笑った。
凍てつくような声が聞こえた。
リンナものでもエミリアの物でもない低い青年の声。
それはライルから発せられたものだった。
その表情には憤りと不快感が明確に浮かんでいる。
癇癪を起す直前の子供のようだとエミリアは思った。
「アディが、あいつが俺の事をどうでもいいなんて……言うかよ!!」
「だって言ったもん」
「嘘吐くんじゃねぇ!!」
ライルの怒鳴るような大声にリンナは顔色一つ変えず言い返す。
怒っている男は魔王を討伐した勇者で、それを受け流す女は魔王軍幹部の手下。
それなのにまるで子供の口喧嘩のようだ。そうなっている原因が勇者側にあることにエミリアは頭痛を感じた。
「あいつは俺の幼馴染で、昔からずっと傍にいたんだ、どうでもいいなんて、あるわけないだろ!!」
「それって単純にライル君がひっついていただけじゃない?どうでもいいって言うより寧ろ迷惑だったかもねー」
「部外者は黙ってろ!!」
「あっ、アタシ知ってるよ。そういう台詞って言い返せない時に言うんだって」
「いい加減にしなさいライル!!!!」
余りにぐだついた会話に我慢できずエミリアが割って入る。
木に止まっていた鳥たちが一斉に飛び立つ羽音が聞こえた。
自分でもかなりの大声を出した実感はある。これは余りよくない事だ。
先程からミランダにかけられた静音魔法も解けている。恐らく村まで聞こえただろう。
魔物のいる場所に無力な人々を呼び込みかねない。
さっさとこの女型の魔物を倒してしまおう。人質については、可能なら助けたいが無理なら諦めるしかない。
しかしリンナが余りにも人間らしい物言いをするので、普段の討伐と比べて調子が狂っているのは確かだ。
ライルなどはもはや言葉だけで弄ばれてすらいる。
魔王討伐の長旅の中で勇者の人となりや美点や欠点なども知ることは出来たと思っていたが、ここまで幼い男だとは。
使命を終え故郷に戻ることで張りつめていた気が緩んだにしても、これではただの短気な青年ではないか。
「アデリーンさんの気持ちは後で本人に確かめなさい!!今は魔物を倒して村を守るのが先決です!!」
アデリーンの本音がリンナの発言と変わりがないことをエミリアは察している。
けれどそれは今口にすることではない。
叱咤に表情を引き締めたライルにエミリアは内心頷く。
リンナが村を壊滅させるのが目的だと告げた事で、彼も覚悟を決めている筈だ。
だが気になるのは物理攻撃だけでリンナを倒しきれるのかということだ。
先程エミリアの攻撃で魔物の腹に穴をあけることが出来た。
しかし平然と会話を続けるリンナを見ているとそれがダメージに直結したとエミリアには思えなくなっていた。
痛覚がない魔物の可能性はある。その場合痛みで躊躇うことがないので厄介な敵ではある。
けれどリンナの余裕はそれが原因ではないような気がした。戦士の勘というものかもしれない。
「あれあれ~へなちょこライル君もとうとう戦っちゃう?ま、確かにアタシのパパとレンさんの二人じゃ人質としては弱かったかもね」
だから人質、沢山追加しちゃうね。
そうリンナが告げた途端、地面から大量の手が生えてきた。
いや手だけではない、レンと言う青年に絡みついている少女のように人間の姿を保っているものもいる。
「ライル君とアデリーンのパパママと~あと死んだ人全員」
もう一度殺さないとアタシとは戦えないよ?
そう悪魔のような表情で口にしてリンナは高らかに笑った。
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