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第一章
十八話
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ライルは抵抗しなかった。
彼の唇からリンナの真っ赤な唇が離れる。
私はそれを茫然と見ていた。
リンナはそんな私を見て馬鹿にしたように笑う。
「勇者の癖に情けないって、今思ったでしょ」
勇者でもないそこの男は自分の恋人だろうと刺し殺そうとしたのね。
そうリンナが指さす先にはレン兄さんがいた。
よく見ると彼の脚には幾つもの茨のような物がきつく巻きついている。
棘のせいかそれとも抵抗した際に傷ついたのかレン兄さんの服には所々血が滲んでいた。
彼を拘束しているそれはルーナ姉さんの形をした存在から生えているようだった。
「抱き締めたと思ったら容赦なくナイフ背中にぶっ刺してさ。そんな事しといて泣いてるのまじうける」
大体背中刺した位で死ぬ魔物なんていないのにね。馬鹿にしたように笑う女を殴りたいと思った。
「でも勇者様ならさぁ、村に犠牲なんて出さず魔物ぐらい即見つけて殺せって話だよねえ?」
無能過ぎない?そう嘲りながらもリンナはライルから離れようとしなかった。
恐らくエミリアさんを警戒しているのだろう。
リンナの父親を人質にライルの動きを封じて、エミリアさんに対してはそのライルを盾にする。
ただその狡猾な策はライルが抵抗すればあっさりと打ち破ることができるだろう。
抵抗すればだが。
「でもライル君が私を見つけられなかったのはまあ仕方ないのよね。私が目覚めたのってつい最近だし」
『……目覚めたということは、貴様はどこかに封印でもされていたのですか』
「封じられていたっていうかータネみたいな感じで栄養貰いながら埋まってた感じね。良い頃合いだから出てきたけど」
エミリアさんの言葉に飄々とした調子でリンナが回答する。
種状態で埋まっていたということは、やはり植物系の魔物なのだろうか。
「良い頃合いって、どういうことよ」
今度は私からリンナに話しかける。
待ってましたとばかりに魔物は唇を吊り上げた。
「アデリーン、あんたからライル君を盗みたい。それがリンナの願いだった」
「は……?」
「そしてアタシはそれを叶えた。聞いてたんでしょ、アデリーン」
自分の部屋の前で。そう言われて体から血の気が引く。
あの時の会話を思い出す。
私の部屋で逢引きをしていたリンナとライルの会話を。
「アンタさあ、ライル君にすっごく尽してたよね。大事な宝物を手入れするみたいに」
だから欲しくなったんだって。そう手をひらひらと動かしてリンナが言う。
私は彼を見た。ライルは私から目を逸らした。頭に血が上る。
「ねえ、今でもライル君が大事?いなきゃ死んじゃう?便利に使われてるだけでも?」
挑発だとわかっているのにリンナの言葉が私の脳みそを煮え滾らせる。
こんなことに感情を動かしている場合じゃない。私は足元を見た。二本の根。一つはおじさんの命をつなぐもの。
この通り、人の命がかかっている。冷静になれアデリーン。
そう自分に言い聞かせている私の心にリンナは止めを刺そうとした。
「アンタなんてさぁ、居ても居なくても同じなんだよ」
お姫様でもなんでもないただの村娘なんだから。
私はその場から全力で逃げ出した。
彼の唇からリンナの真っ赤な唇が離れる。
私はそれを茫然と見ていた。
リンナはそんな私を見て馬鹿にしたように笑う。
「勇者の癖に情けないって、今思ったでしょ」
勇者でもないそこの男は自分の恋人だろうと刺し殺そうとしたのね。
そうリンナが指さす先にはレン兄さんがいた。
よく見ると彼の脚には幾つもの茨のような物がきつく巻きついている。
棘のせいかそれとも抵抗した際に傷ついたのかレン兄さんの服には所々血が滲んでいた。
彼を拘束しているそれはルーナ姉さんの形をした存在から生えているようだった。
「抱き締めたと思ったら容赦なくナイフ背中にぶっ刺してさ。そんな事しといて泣いてるのまじうける」
大体背中刺した位で死ぬ魔物なんていないのにね。馬鹿にしたように笑う女を殴りたいと思った。
「でも勇者様ならさぁ、村に犠牲なんて出さず魔物ぐらい即見つけて殺せって話だよねえ?」
無能過ぎない?そう嘲りながらもリンナはライルから離れようとしなかった。
恐らくエミリアさんを警戒しているのだろう。
リンナの父親を人質にライルの動きを封じて、エミリアさんに対してはそのライルを盾にする。
ただその狡猾な策はライルが抵抗すればあっさりと打ち破ることができるだろう。
抵抗すればだが。
「でもライル君が私を見つけられなかったのはまあ仕方ないのよね。私が目覚めたのってつい最近だし」
『……目覚めたということは、貴様はどこかに封印でもされていたのですか』
「封じられていたっていうかータネみたいな感じで栄養貰いながら埋まってた感じね。良い頃合いだから出てきたけど」
エミリアさんの言葉に飄々とした調子でリンナが回答する。
種状態で埋まっていたということは、やはり植物系の魔物なのだろうか。
「良い頃合いって、どういうことよ」
今度は私からリンナに話しかける。
待ってましたとばかりに魔物は唇を吊り上げた。
「アデリーン、あんたからライル君を盗みたい。それがリンナの願いだった」
「は……?」
「そしてアタシはそれを叶えた。聞いてたんでしょ、アデリーン」
自分の部屋の前で。そう言われて体から血の気が引く。
あの時の会話を思い出す。
私の部屋で逢引きをしていたリンナとライルの会話を。
「アンタさあ、ライル君にすっごく尽してたよね。大事な宝物を手入れするみたいに」
だから欲しくなったんだって。そう手をひらひらと動かしてリンナが言う。
私は彼を見た。ライルは私から目を逸らした。頭に血が上る。
「ねえ、今でもライル君が大事?いなきゃ死んじゃう?便利に使われてるだけでも?」
挑発だとわかっているのにリンナの言葉が私の脳みそを煮え滾らせる。
こんなことに感情を動かしている場合じゃない。私は足元を見た。二本の根。一つはおじさんの命をつなぐもの。
この通り、人の命がかかっている。冷静になれアデリーン。
そう自分に言い聞かせている私の心にリンナは止めを刺そうとした。
「アンタなんてさぁ、居ても居なくても同じなんだよ」
お姫様でもなんでもないただの村娘なんだから。
私はその場から全力で逃げ出した。
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