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第一章

十六話

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 リンナの家にあった人面花の鉢植え。そこから伸びている根を私達は辿った。

 薄暗い森の中で目を凝らして地面を見続ける。

 たまに根が分岐している時は前進するのを止めその先を見に行った。

 根に絡めとられてる兎を発見した時は思わず叫び声を上げてしまうところだった。

 今更言うべきことではないけれど、この植物は一体何なのだろう。

 どこかの森には虫を食べたりする花が存在するらしいが、そんなレベルではない。

 幸いにも兎は捕まったばかりらしく、エミリアさんが根を外してやると跳んで逃げていった。


『あの兎……耳が欠けていましたわね』


 それが重要なことのように彼女が言うので、私も先程の兎の姿を思い出してみる。

 確かに胴体よりも頭側に根は多く絡みついていたようだった。あのまま時間が経っていれば窒息死していたかもしれない。

 そういった方法で獲物を殺して栄養にする植物かもしれないと私はエミリアさんに言った。

 しかし私の予想はその後裏切られることになる。

 森を抜けるまでの間に私たちは幾つかの根の先を見つけた。

 しかし、この根を辿って先を確認するという行為はまるで悪趣味なクジのようだ。

 木に巻きついて小鳥を捕らえていたり、知らずに踏んだ私の脚に蛇のように巻きつこうとした時には流石に悲鳴を上げた。

 エミリアさんが目にも見えない動きで阻止して引きちぎってくれなければ、寧ろ一人の時に捕らえられていたらどうなっていたか。

 考えただけでぞっとする。 

 私が身を震わせていると、エミリアさんは懐から取り出した綺麗な紙を突然ビリビリと破り出した。

 不思議なことに千切られた紙は地面に落ちず、逆にひらひらと高く浮き上がり数匹の蝶へと変わった。


『ミランダから渡された魔法道具ですわ。これが彼女に私たちの居場所を知らせてくれるでしょう』


 いざとなったら彼女の火炎魔法が必要になるかもしれませんから。

 そうエミリアさんに言われて私はよくわからないまま頷いた。

 根を回収しながら元の広い道に戻る。

 残された根は、太めの物が二本だ。

 それは横道にそれずまっすぐに伸びていた。

 森を抜けた先には、先程エミリアさんに告げた様に墓地がある。

 死因が伝染病などでない限り亡骸はそのまま埋葬される。

 鳥や兎、そして人間を捕らえるような植物に絶対近づいては欲しくない場所だ。

 けれど私の願いは叶うことはなく根は着実に墓地に近づく。

 そしてそれを追った私たちが共同墓地に足を踏み入れた時。

 そこには二組の男女がいた。

 一方はライルとリンナ。

 そしてもう片方はレン兄さんと。


「ルーナ、姉さん……」


 私のただ一人の姉が、当時の姿のままレン兄さんに抱き寄せられていた。

 奇跡のような、悪い夢だった。

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