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第一章
十一話
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「魔物が勇者のいるこの村に……? 有り得ないわね」
肩に鴉をとまらせ露出度の高いウィザードドレスに身を包んだ女性が言う。
彼女はミランダ。色気のある年齢不詳の黒髪美女で『魔導女帝』の称号を持つ大魔女だ。
エミリアさんと同じく、ライルと一緒に魔王を討伐した伝説の戦士の一人でもある。
私がエミリアさんに先程リンナにされたことを話している最中、彼女がこの家に訪れたのだ。
どうやら二人で一緒にここまで来たらしく私はエミリアさんに乞われてミランダさんにも同じ説明をした。
そして私が話し終えた後十秒ほどしてから彼女が言ったのが冒頭の言葉だ。
リンナの正体が魔物だという自分の考えを否定されてショックを受けたが、素早くエミリアさんが反論する。
「有り得ないなんてことは有り得ませんわ!!決めつけは悪ですわよミランダ!!」
それは物凄い大きな声だった。正直村中に聞こえたかもしれない。
エミリアさんは聖職者の衣装を身に着けている通り、正義に厚く礼儀正しく心優しい淑女なのだが。
声が、声が非常に大きいのだ。主張したいことがあればある程大きくなるらしい。
私は思わず耳を抑えたが慣れているのかミランダさんは少ししかめっ面をしただけだった。
「魔物の全てが勇者に怯えるわけではありません!!寧ろ勇者がいるからこそ侵入を試みる魔物もいる筈ですわ!!」
「エ、エミリアさん、声、声をもう少し小さく……」
「申し訳ありませんわ!」
「確かにそうだけれど……だからこそ村への侵入を許さない為に色々対策を講じているのよ?」
ミランダさんが冷静に仲間に説明する。確かにその対策についてはライルが村に連れてこられた時に彼女からされていた。
まずライルがこの村にいることを公表しない。麓の街に住んでいるということにして、ライル宛の贈り物は検閲してからこの村に届けられる。
次に大魔女であるミランダさんが作成した高性能の魔物避けや魔物を感知する為の呪具。それを村内やその周囲に多数設置する。
そして定期的にライル以外の魔王討伐メンバーが村の様子を見に来る。
この村の出身であるライルを村長である叔父さんたちは元々受け入れるつもりだったが、この魔物対策に非常に喜んでいたので強く覚えている。
それに偶に村の周囲を強い魔物がうろついている場合はライルが気付いて討伐しているとも聞かされていた。
だから、魔導女帝に「有り得ない」と断言されると確かにそうかもしれないと思ってしまう。けれどやはり、あの時のリンナは異常だった。
「でも……私の思い込みかもしれないけれど、あの時のリンナはリンナじゃ絶対なかったんです。信じて貰えないかもしれないけれど……」
「信じますわ!!」
私の言葉に食い気味でエミリアさんが断言する。相変わらず耳が痛くなるよう大声だけれど、とても嬉しかった。
「ミランダはなぜ魔物をライルが見逃したかも疑問なのでしょうけれどそれはライルに聞けばいいのです!!確かめることは罪ではありませんわ!!」
「確かにそうだけれど……魔物じゃなかった場合、アディちゃんとそのお嬢さんの力関係が不味くならないかしら?」
私をちらりと見てミランダさんが言う。妖艶な美貌を纏いながらその表情にはこちらを気遣うような不安が浮かんでいた。
そう言えば以前彼女は故郷の村で迫害されていたと酒の席で私に言っていた。ミランダさんなりに私の立場を心配してくれたのかもしれない。
私は、大丈夫ですと彼女に答える。どうせ近い内にこの村を出るのだ。
「もし勘違いならその時に謝罪をすればいいのですわ!!さあ、二人とも参りましょう!!悪を見極めに!!」
私達の手を引いてエミリアさんが力強く宣言する。
魔物が村にいた場合、この大声だけで逃げ出してしまいそうだなと思った。
肩に鴉をとまらせ露出度の高いウィザードドレスに身を包んだ女性が言う。
彼女はミランダ。色気のある年齢不詳の黒髪美女で『魔導女帝』の称号を持つ大魔女だ。
エミリアさんと同じく、ライルと一緒に魔王を討伐した伝説の戦士の一人でもある。
私がエミリアさんに先程リンナにされたことを話している最中、彼女がこの家に訪れたのだ。
どうやら二人で一緒にここまで来たらしく私はエミリアさんに乞われてミランダさんにも同じ説明をした。
そして私が話し終えた後十秒ほどしてから彼女が言ったのが冒頭の言葉だ。
リンナの正体が魔物だという自分の考えを否定されてショックを受けたが、素早くエミリアさんが反論する。
「有り得ないなんてことは有り得ませんわ!!決めつけは悪ですわよミランダ!!」
それは物凄い大きな声だった。正直村中に聞こえたかもしれない。
エミリアさんは聖職者の衣装を身に着けている通り、正義に厚く礼儀正しく心優しい淑女なのだが。
声が、声が非常に大きいのだ。主張したいことがあればある程大きくなるらしい。
私は思わず耳を抑えたが慣れているのかミランダさんは少ししかめっ面をしただけだった。
「魔物の全てが勇者に怯えるわけではありません!!寧ろ勇者がいるからこそ侵入を試みる魔物もいる筈ですわ!!」
「エ、エミリアさん、声、声をもう少し小さく……」
「申し訳ありませんわ!」
「確かにそうだけれど……だからこそ村への侵入を許さない為に色々対策を講じているのよ?」
ミランダさんが冷静に仲間に説明する。確かにその対策についてはライルが村に連れてこられた時に彼女からされていた。
まずライルがこの村にいることを公表しない。麓の街に住んでいるということにして、ライル宛の贈り物は検閲してからこの村に届けられる。
次に大魔女であるミランダさんが作成した高性能の魔物避けや魔物を感知する為の呪具。それを村内やその周囲に多数設置する。
そして定期的にライル以外の魔王討伐メンバーが村の様子を見に来る。
この村の出身であるライルを村長である叔父さんたちは元々受け入れるつもりだったが、この魔物対策に非常に喜んでいたので強く覚えている。
それに偶に村の周囲を強い魔物がうろついている場合はライルが気付いて討伐しているとも聞かされていた。
だから、魔導女帝に「有り得ない」と断言されると確かにそうかもしれないと思ってしまう。けれどやはり、あの時のリンナは異常だった。
「でも……私の思い込みかもしれないけれど、あの時のリンナはリンナじゃ絶対なかったんです。信じて貰えないかもしれないけれど……」
「信じますわ!!」
私の言葉に食い気味でエミリアさんが断言する。相変わらず耳が痛くなるよう大声だけれど、とても嬉しかった。
「ミランダはなぜ魔物をライルが見逃したかも疑問なのでしょうけれどそれはライルに聞けばいいのです!!確かめることは罪ではありませんわ!!」
「確かにそうだけれど……魔物じゃなかった場合、アディちゃんとそのお嬢さんの力関係が不味くならないかしら?」
私をちらりと見てミランダさんが言う。妖艶な美貌を纏いながらその表情にはこちらを気遣うような不安が浮かんでいた。
そう言えば以前彼女は故郷の村で迫害されていたと酒の席で私に言っていた。ミランダさんなりに私の立場を心配してくれたのかもしれない。
私は、大丈夫ですと彼女に答える。どうせ近い内にこの村を出るのだ。
「もし勘違いならその時に謝罪をすればいいのですわ!!さあ、二人とも参りましょう!!悪を見極めに!!」
私達の手を引いてエミリアさんが力強く宣言する。
魔物が村にいた場合、この大声だけで逃げ出してしまいそうだなと思った。
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