勇者の帰りを待つだけだった私は居ても居なくても同じですか? ~負けヒロインの筈なのに歪んだ執着をされています~

砂礫レキ

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第一章

十話 ※若干残酷な描写あり

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 コレは、人間じゃない。

 先程出て行ったリンナの禍々しい笑みを見て私は直感的にそう思った。

 十六年前、村を襲いライルや私の家族を喰らった魔物たち。

 その中でも人間によく似た悪魔が先程のような表情を浮かべていたのを思い出した。

 命乞いをする人間をゆっくり時間をかけて引き裂きながら楽しそうに笑っていた。


「うっ、げぇっ……」


 地獄のような光景が頭に浮かび食べた朝食を残らず吐き出す。

 まるで悪い病にかかったように悪寒と震えが止まらなかった。

 命拾いをしたと、リンナは私を笑っていた。

 つまり対応を間違えていれば私は彼女に殺されていた……?

 わけがわからない。リンナは少し変わっているがただの村娘だ。

 人間が人間を殺すことは有り得る。けれどそういうことではないのは分かっていた。

 殺す意味があるから殺すのではない。人間『だから』殺していいのだ。

 一人一人をじっくり嬲り殺しにし、その隙に他の村人たちが逃げ惑うのを楽しみながら悪魔型の魔物はそう言っていた。


「しっ、しら、知らせないと……」


 私はガタガタと震える体に力を入れて歩き出そうとする。あんな惨劇を繰り返してはならない。

 リンナが魔物だと決まったわけではない。けれど魔物だったなら、一刻も早く伝えなければいけない。

 勇者である、ライルに。

 けれど、先程の彼の怒りと狂乱を思い出す。彼は、私の言う事を信じてくれるのだろうか。

 ……勇者の言いなりにならない、私たちを助けてくれるのだろうか?

 いや、もしもの時にはライルの奴隷になると誓ってもいい。私は扉を開けようと手を伸ばした。

 けれど、私が触れるより前に扉が開かれる。

 もしかしてリンナが戻ってきたのか。私を殺しに。

 恐怖に目を見開いた私の視界に飛び込んできたのは、光り輝く豪奢な金の髪だった。


「あら、アデリーンさん。ご機嫌よう……って貴女、御顔が真っ青ですわよ?!」


 豊かな長い髪を巻いた修道服姿の美しい女性が私を見て驚いた顔をする。

 彼女は『剛力姫』エミリア。ライルとパーティーを組んでいた凄腕の戦士の一人だ。

 この人なら、あの魔物を倒せる。

 
「エミリアさん……村を、村を助けて」


 私は安堵に気を失いそうになりながら、エミリアさんに今あったことを話した。 

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