9 / 66
第一章
八話
しおりを挟む
レン兄さんの行動は迅速だった。
彼が動いたことを私が認識した次の瞬間には重く鈍い音が部屋に響く。
厳しい怒声と、その拳がライルに振り下ろされるのはほぼ同時だった。
「……誰に、どの面下げて、そんな口聞いているんだお前は!!」
「いっ、でぇっ!?」
レン兄さんに鉄拳制裁されたライルが短く悲鳴を上げる。
固い義手ではなく生身の腕で殴られていたが、それでも十分過ぎる程痛そうな音がした。
「当たり前だ、痛くない拳骨などない」
「こっの、暴力野郎……」
「やだぁ、超こわぁい」
男性陣が睨み合っている重苦しい空間にリンナの言葉が軽薄にふわふわと浮く。
ライルは問題大有りだが、彼女は彼女で気になることが山程ある。
本当に私の部屋で一晩過ごしたのかとか、ライルとは真剣に交際をするつもりなのかとか。
親御さんは二人の関係を知っているのかとか。テーブルの食器は家から持ってきたのかとか。
……あなた、半年ぐらい前までレン兄さんにしつこく迫ってませんでしたか、とか。
なんでこう問題児二人が揃い踏みして私の家で寛いでいるのだろう。
レン兄さんの怒りの熱で指先から冷えが去った代わりに頭がズキズキしてきた。
「説教したい事は幾らでもあるが……まずは散らかしたこの部屋を二人で片付けろ」
「えーっ、絶対やだぁ。っていうかなんでレンさんが仕切るのぉ?おかしくない?」
「つーか片付けなんてアディがやるだろ、こいつの家なんだから」
全く悪びれないライルの言葉に今度は私が彼を叱った。
「……私の家だってわかっているなら自分の家みたいに使わないで。掃除なんてしなくていい、でも二度と私の家に来ないで!私に近づかないでよ!」
ガタンと、椅子が倒れる音がした。
反射的に後退ったが間に合わず手首を掴まれる。
ギリギリと骨を砕かれそうな痛みに私は恐怖を覚えた。
「……なんだよそれ。誰に言ってんだアディ」
「いたっ、はなし、て……!」
「だったら今の言葉撤回しろよ!」
痛みに耐えきれず哀願する私を脅すライルの目には確かに狂気が宿っていた。
こちらを責めている癖に追い詰められたような声で彼は私に発言の撤回を迫る。
ライルの考えていることが全くわからない。恐い。
助けを求める様にレン兄さんを見ると腕を掴む力が益々強くなった気がした。
「俺は…俺は、勇者だぞ!俺は、命がけで!お前らの命を魔王から助けてやったんだ……!」
「……だから、お前は俺たちに対し好き放題に振舞う権利があると言いたいのか?」
「そうだよ、それぐらい、それぐらい許されてもいいだろ……俺にだって!」
狂気の熱を孕んだライルの言葉と反比例するようにレン兄さんの言葉は冷たく淡々としている。
けれど長い付き合いの私はわかった。
彼は怒れば怒る程、纏う空気は冷えて研ぎ澄まされていく。
「ならば俺はお前の命を救ったことがある……俺の腕のことは流石に覚えているな? 」
「……っ、」
「アディから手を放せ。お前は今から俺の家に来い。今後の話は全部俺がする」
俺が許可するまで二度とアディに近づくな。
声を荒げることなく命令するレン兄さんをライルは睨み付ける。
けれど何も言い返すことが出来ず無言で私の手を離した。
大丈夫だからと、口の動きだけで言うレン兄さんに私は無言で頭を下げた。
解放された後の手首がじんわりと痛む。後で湿布を巻かなければなとぼんやり思った。
気を抜けば座り込んで泣いてしまいそうなぐらい、なんだかとても疲弊していた。
彼が動いたことを私が認識した次の瞬間には重く鈍い音が部屋に響く。
厳しい怒声と、その拳がライルに振り下ろされるのはほぼ同時だった。
「……誰に、どの面下げて、そんな口聞いているんだお前は!!」
「いっ、でぇっ!?」
レン兄さんに鉄拳制裁されたライルが短く悲鳴を上げる。
固い義手ではなく生身の腕で殴られていたが、それでも十分過ぎる程痛そうな音がした。
「当たり前だ、痛くない拳骨などない」
「こっの、暴力野郎……」
「やだぁ、超こわぁい」
男性陣が睨み合っている重苦しい空間にリンナの言葉が軽薄にふわふわと浮く。
ライルは問題大有りだが、彼女は彼女で気になることが山程ある。
本当に私の部屋で一晩過ごしたのかとか、ライルとは真剣に交際をするつもりなのかとか。
親御さんは二人の関係を知っているのかとか。テーブルの食器は家から持ってきたのかとか。
……あなた、半年ぐらい前までレン兄さんにしつこく迫ってませんでしたか、とか。
なんでこう問題児二人が揃い踏みして私の家で寛いでいるのだろう。
レン兄さんの怒りの熱で指先から冷えが去った代わりに頭がズキズキしてきた。
「説教したい事は幾らでもあるが……まずは散らかしたこの部屋を二人で片付けろ」
「えーっ、絶対やだぁ。っていうかなんでレンさんが仕切るのぉ?おかしくない?」
「つーか片付けなんてアディがやるだろ、こいつの家なんだから」
全く悪びれないライルの言葉に今度は私が彼を叱った。
「……私の家だってわかっているなら自分の家みたいに使わないで。掃除なんてしなくていい、でも二度と私の家に来ないで!私に近づかないでよ!」
ガタンと、椅子が倒れる音がした。
反射的に後退ったが間に合わず手首を掴まれる。
ギリギリと骨を砕かれそうな痛みに私は恐怖を覚えた。
「……なんだよそれ。誰に言ってんだアディ」
「いたっ、はなし、て……!」
「だったら今の言葉撤回しろよ!」
痛みに耐えきれず哀願する私を脅すライルの目には確かに狂気が宿っていた。
こちらを責めている癖に追い詰められたような声で彼は私に発言の撤回を迫る。
ライルの考えていることが全くわからない。恐い。
助けを求める様にレン兄さんを見ると腕を掴む力が益々強くなった気がした。
「俺は…俺は、勇者だぞ!俺は、命がけで!お前らの命を魔王から助けてやったんだ……!」
「……だから、お前は俺たちに対し好き放題に振舞う権利があると言いたいのか?」
「そうだよ、それぐらい、それぐらい許されてもいいだろ……俺にだって!」
狂気の熱を孕んだライルの言葉と反比例するようにレン兄さんの言葉は冷たく淡々としている。
けれど長い付き合いの私はわかった。
彼は怒れば怒る程、纏う空気は冷えて研ぎ澄まされていく。
「ならば俺はお前の命を救ったことがある……俺の腕のことは流石に覚えているな? 」
「……っ、」
「アディから手を放せ。お前は今から俺の家に来い。今後の話は全部俺がする」
俺が許可するまで二度とアディに近づくな。
声を荒げることなく命令するレン兄さんをライルは睨み付ける。
けれど何も言い返すことが出来ず無言で私の手を離した。
大丈夫だからと、口の動きだけで言うレン兄さんに私は無言で頭を下げた。
解放された後の手首がじんわりと痛む。後で湿布を巻かなければなとぼんやり思った。
気を抜けば座り込んで泣いてしまいそうなぐらい、なんだかとても疲弊していた。
22
お気に入りに追加
6,090
あなたにおすすめの小説
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
強制力がなくなった世界に残されたものは
りりん
ファンタジー
一人の令嬢が処刑によってこの世を去った
令嬢を虐げていた者達、処刑に狂喜乱舞した者達、そして最愛の娘であったはずの令嬢を冷たく切り捨てた家族達
世界の強制力が解けたその瞬間、その世界はどうなるのか
その世界を狂わせたものは
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
聖女は祖国に未練を持たない。惜しいのは思い出の詰まった家だけです。
彩柚月
ファンタジー
メラニア・アシュリーは聖女。幼少期に両親に先立たれ、伯父夫婦が後見として家に住み着いている。義妹に婚約者の座を奪われ、聖女の任も譲るように迫られるが、断って国を出る。頼った神聖国でアシュリー家の秘密を知る。新たな出会いで前向きになれたので、家はあなたたちに使わせてあげます。
メラニアの価値に気づいた祖国の人達は戻ってきてほしいと懇願するが、お断りします。あ、家も返してください。
※この作品はフィクションです。作者の創造力が足りないため、現実に似た名称等出てきますが、実在の人物や団体や植物等とは関係ありません。
※実在の植物の名前が出てきますが、全く無関係です。別物です。
※しつこいですが、既視感のある設定が出てきますが、実在の全てのものとは名称以外、関連はありません。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
1人生活なので自由な生き方を謳歌する
さっちさん
ファンタジー
大商会の娘。
出来損ないと家族から追い出された。
唯一の救いは祖父母が家族に内緒で譲ってくれた小さな町のお店だけ。
これからはひとりで生きていかなくては。
そんな少女も実は、、、
1人の方が気楽に出来るしラッキー
これ幸いと実家と絶縁。1人生活を満喫する。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
叶えられた前世の願い
レクフル
ファンタジー
「私が貴女を愛することはない」初めて会った日にリュシアンにそう告げられたシオン。生まれる前からの婚約者であるリュシアンは、前世で支え合うようにして共に生きた人だった。しかしシオンは悪女と名高く、しかもリュシアンが憎む相手の娘として生まれ変わってしまったのだ。想う人を守る為に強くなったリュシアン。想う人を守る為に自らが代わりとなる事を望んだシオン。前世の願いは叶ったのに、思うようにいかない二人の想いはーーー
隣国が戦を仕掛けてきたので返り討ちにし、人質として三国の王女を貰い受けました
しろねこ。
恋愛
三国から攻め入られ、四面楚歌の絶体絶命の危機だったけど、何とか戦を終わらせられました。
つきましては和平の為の政略結婚に移ります。
冷酷と呼ばれる第一王子。
脳筋マッチョの第二王子。
要領良しな腹黒第三王子。
選ぶのは三人の難ありな王子様方。
宝石と貴金属が有名なパルス国。
騎士と聖女がいるシェスタ国。
緑が多く農業盛んなセラフィム国。
それぞれの国から王女を貰い受けたいと思います。
戦を仕掛けた事を後悔してもらいましょう。
ご都合主義、ハピエン、両片想い大好きな作者による作品です。
現在10万字以上となっています、私の作品で一番長いです。
基本甘々です。
同名キャラにて、様々な作品を書いています。
作品によりキャラの性格、立場が違いますので、それぞれの差分をお楽しみ下さい。
全員ではないですが、イメージイラストあります。
皆様の心に残るような、そして自分の好みを詰め込んだ甘々な作品を書いていきますので、よろしくお願い致します(*´ω`*)
カクヨムさんでも投稿中で、そちらでコンテスト参加している作品となりますm(_ _)m
小説家になろうさん、ネオページさんでも掲載中。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる