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第一章
五話
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「住居側は散らかってるけど勘弁してくれよな」
突然来訪した私に対し、レン兄さんは少しだけ照れながらも嫌な顔一つせず招き入れてくれた。
住居と店が一体型になったこの雑貨店にレン兄さんが一人で住みだしたのは十年ぐらい前のことだ。
魔物たちの襲撃で先代の店主が亡くなって以来、ずっと村に雑貨店はなかった。
偶にくる行商人を頼ったりして、なければないの精神で皆生活をしてきた。
けれど雑貨店はやはりあった方が便利だし、レン兄さんが店を引き継いでくれてとても助かっている。
彼は「俺は皆みたいに外で働けないから」と謙遜しているけれど、最早村になくてはならない存在だった。
雑貨屋の店主としても、そして次期村長としても。
「朝食、雑なのでいいなら何か出せるけど?」
「あっ、大丈夫。もう叔父さんの家で食べてきたから」
「じゃあお茶だけでいいか。そっちで座ってろ」
居間とキッチンが一体化した部屋で、私に椅子を勧めると彼は飲み物の用意をする。
レン兄さんは失った腕の代わりに義手を装着しているが、高性能の物は買ってやれなかったと以前叔父さんが嘆いていた。
けれどその不自由さを感じさせない程、彼の所作はてきぱきとしたものだった。
部屋だってレン兄さんが言う程散らかってはいない。寧ろライルの部屋の方が汚い位だ。
そういえば腕を失ってからの方が自分のことは自分でやるようになったと叔母さんが言っていた。
この雑貨店で暮らし始めてからは掃除も洗濯も料理も全部自分でやっているとのことだった。
「それで、今日はどうしたんだ? 買い物しにきたわけでもないみたいだけれど」
私の前のテーブルにいい匂いのするお茶を置いて、レン兄さんは向かいに座った。
話していいのだと思うと逆に言葉がつかえてしまう。
年の離れていないレン兄さんに年下のライルに振り回されている自分のみっともなさを話すのに改めて勇気が必要だった。
「口うるさい近所のおばさん」というライルの言葉が蘇ってくる。
若い勇者に対し結婚目当てで尽して、それを否定されたから怒っている行き遅れ女。
心の中のもう一人の自分が、今更ながらにそんな風に嘲笑ってきて苦しかった。
「アディ?」
レン兄さんに発言を促され、思わず何でもないと椅子から立ち上がろうとした。
けれどそれをする前に額にあたたかな掌が触れる。
「……何でもいいから話してみろよ。俺はアディの兄ちゃんだぞ。お前が困っている事ぐらいわかる」
「レン兄さん……」
「頼りないかもしれないけど、いつだって頼っていいんだぞ」
雑貨屋も俺も便利に使え。
そう冗談めかして言う彼に私は心の中にある全部を泣きながら吐き出した。
突然来訪した私に対し、レン兄さんは少しだけ照れながらも嫌な顔一つせず招き入れてくれた。
住居と店が一体型になったこの雑貨店にレン兄さんが一人で住みだしたのは十年ぐらい前のことだ。
魔物たちの襲撃で先代の店主が亡くなって以来、ずっと村に雑貨店はなかった。
偶にくる行商人を頼ったりして、なければないの精神で皆生活をしてきた。
けれど雑貨店はやはりあった方が便利だし、レン兄さんが店を引き継いでくれてとても助かっている。
彼は「俺は皆みたいに外で働けないから」と謙遜しているけれど、最早村になくてはならない存在だった。
雑貨屋の店主としても、そして次期村長としても。
「朝食、雑なのでいいなら何か出せるけど?」
「あっ、大丈夫。もう叔父さんの家で食べてきたから」
「じゃあお茶だけでいいか。そっちで座ってろ」
居間とキッチンが一体化した部屋で、私に椅子を勧めると彼は飲み物の用意をする。
レン兄さんは失った腕の代わりに義手を装着しているが、高性能の物は買ってやれなかったと以前叔父さんが嘆いていた。
けれどその不自由さを感じさせない程、彼の所作はてきぱきとしたものだった。
部屋だってレン兄さんが言う程散らかってはいない。寧ろライルの部屋の方が汚い位だ。
そういえば腕を失ってからの方が自分のことは自分でやるようになったと叔母さんが言っていた。
この雑貨店で暮らし始めてからは掃除も洗濯も料理も全部自分でやっているとのことだった。
「それで、今日はどうしたんだ? 買い物しにきたわけでもないみたいだけれど」
私の前のテーブルにいい匂いのするお茶を置いて、レン兄さんは向かいに座った。
話していいのだと思うと逆に言葉がつかえてしまう。
年の離れていないレン兄さんに年下のライルに振り回されている自分のみっともなさを話すのに改めて勇気が必要だった。
「口うるさい近所のおばさん」というライルの言葉が蘇ってくる。
若い勇者に対し結婚目当てで尽して、それを否定されたから怒っている行き遅れ女。
心の中のもう一人の自分が、今更ながらにそんな風に嘲笑ってきて苦しかった。
「アディ?」
レン兄さんに発言を促され、思わず何でもないと椅子から立ち上がろうとした。
けれどそれをする前に額にあたたかな掌が触れる。
「……何でもいいから話してみろよ。俺はアディの兄ちゃんだぞ。お前が困っている事ぐらいわかる」
「レン兄さん……」
「頼りないかもしれないけど、いつだって頼っていいんだぞ」
雑貨屋も俺も便利に使え。
そう冗談めかして言う彼に私は心の中にある全部を泣きながら吐き出した。
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