勇者の帰りを待つだけだった私は居ても居なくても同じですか? ~負けヒロインの筈なのに歪んだ執着をされています~

砂礫レキ

文字の大きさ
上 下
4 / 66
第一章

三話

しおりを挟む
「恋人でもないのに今までずっと見返り無しで衣食住の世話を……?」

「いやアディ、それはお前も言わないと駄目だろうが」

「あいつの世話を見るのに代価を取ったら今まで以上に開き直られる気がして……」


 ライルの冒険仲間たちがたまに遊びに来る時に宿代や食事代のかわりに置いていってくれる珍しい素材やお酒や宝石。

 時々それらを街に行く人に頼んでお金に交換してもらってきて今まで家計の足しにしていたのだ。


「それにライルは大変な思いをして世界を救ってきたので、感謝のつもりで居座らせ続けたのもあります」

「アディちゃん、魔王との戦いで弱ったライルの看病をつきっきりでしていたものねぇ……」

「それを見て俺はライルとお前は恋人なんだとばかり……」

「違います」


 決して恋人なんかではない。ライル本人もはっきりと断言していたし。

 そう、それが問題なのだ。

 私に対して全く恋愛感情がない癖に私の家に入り浸る。

 そしてあれが食べたいこれが飲みたい、疲れたから足を揉んで欲しいなど我儘放題甘え放題。


「このまま私があの馬鹿の世話係でいると、ライルはどんどん駄目な人間になっていく気がするんです……!」


 魔王を倒すという輝かしい功績を若干二十三歳にして持つたライル。

 しかし私を前にした彼はただの甘ったれた血のつながらない駄目息子だ。もしかしたら私の接し方が悪かったのかもしれない。

 結婚前提なら一生をかけてその責任を負うこともできるが、彼にとって私はそういう存在ではないことが発覚した。

 だから私にとってもライルにとっても、この関係は完全に断ち切った方がいいのだ。


「迷惑をかけますが、私がいなくなった後のことをお願いします」


 そう私は実の叔父であり、このサテー村の村長である彼に深々と頭を下げた。

 厄介ごとを押し付けて申し訳ないけれど男同士ということでライルの性根を少しでも叩き直して貰いたい。

 横で話を聞いていた叔母さんは「これからどうするにしても今まで世話した分のお金は貰った方が良いよ」と私に言った。


「手切れ金、ともいうだろう? 関係を終わらせる為にも尽した分はしっかり払って貰いなさい」


 村長夫人の重みのある言葉に私は曖昧な返事をした。。

 心情的にはライルとは一言も話さずに別れて村を出て行きたいのだけれど。

 でも彼が私の家に入り浸っている以上それは無理か。

 というかいい加減ライルが連れ込んだ女性は自宅へと帰ってくれただろうか。

 相手は村娘の誰かだと思うけれど、どうせなら彼女がさっさとライルと結婚してくれればいいのに。

 そうすれば流石にライルも私の家に居座り続けてはいられないだろう。……そうだと言って欲しい。

 しかし私以外の人間と結婚した後も夫婦で食事をせびりに来るライルをリアルに想像できてしまい、私は朝から酷く陰鬱な気持ちになった。

 そんな私の様子を心配したのか、叔父さんが言う。


「……ライルに金の事を言いづらいなら、レンの奴を連れてけ。あんなんでも一応男だ」

「レン兄さんを?」

「そうだねえ、アディちゃん。家に帰る前に雑貨屋に寄ってレンを連れて行きなさい」


 あんた達の兄代わりみたいなものなんだから。

 そう叔母さんに言われて私は頷いた。

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

幼馴染を溺愛する旦那様の前から、消えてあげることにします

新野乃花(大舟)
恋愛
「旦那様、幼馴染だけを愛されればいいじゃありませんか。私はいらない存在らしいので、静かにいなくなってあげます」

父が再婚しました

Ruhuna
ファンタジー
母が亡くなって1ヶ月後に 父が再婚しました

今度こそ幸せになります! 小話集

斎木リコ
ファンタジー
『今度こそ幸せになります!』の小話集です。

聖女は祖国に未練を持たない。惜しいのは思い出の詰まった家だけです。

彩柚月
ファンタジー
メラニア・アシュリーは聖女。幼少期に両親に先立たれ、伯父夫婦が後見として家に住み着いている。義妹に婚約者の座を奪われ、聖女の任も譲るように迫られるが、断って国を出る。頼った神聖国でアシュリー家の秘密を知る。新たな出会いで前向きになれたので、家はあなたたちに使わせてあげます。 メラニアの価値に気づいた祖国の人達は戻ってきてほしいと懇願するが、お断りします。あ、家も返してください。 ※この作品はフィクションです。作者の創造力が足りないため、現実に似た名称等出てきますが、実在の人物や団体や植物等とは関係ありません。 ※実在の植物の名前が出てきますが、全く無関係です。別物です。 ※しつこいですが、既視感のある設定が出てきますが、実在の全てのものとは名称以外、関連はありません。

1人生活なので自由な生き方を謳歌する

さっちさん
ファンタジー
大商会の娘。 出来損ないと家族から追い出された。 唯一の救いは祖父母が家族に内緒で譲ってくれた小さな町のお店だけ。 これからはひとりで生きていかなくては。 そんな少女も実は、、、 1人の方が気楽に出来るしラッキー これ幸いと実家と絶縁。1人生活を満喫する。

叶えられた前世の願い

レクフル
ファンタジー
 「私が貴女を愛することはない」初めて会った日にリュシアンにそう告げられたシオン。生まれる前からの婚約者であるリュシアンは、前世で支え合うようにして共に生きた人だった。しかしシオンは悪女と名高く、しかもリュシアンが憎む相手の娘として生まれ変わってしまったのだ。想う人を守る為に強くなったリュシアン。想う人を守る為に自らが代わりとなる事を望んだシオン。前世の願いは叶ったのに、思うようにいかない二人の想いはーーー

隣国が戦を仕掛けてきたので返り討ちにし、人質として三国の王女を貰い受けました

しろねこ。
恋愛
三国から攻め入られ、四面楚歌の絶体絶命の危機だったけど、何とか戦を終わらせられました。 つきましては和平の為の政略結婚に移ります。 冷酷と呼ばれる第一王子。 脳筋マッチョの第二王子。 要領良しな腹黒第三王子。 選ぶのは三人の難ありな王子様方。 宝石と貴金属が有名なパルス国。 騎士と聖女がいるシェスタ国。 緑が多く農業盛んなセラフィム国。 それぞれの国から王女を貰い受けたいと思います。 戦を仕掛けた事を後悔してもらいましょう。 ご都合主義、ハピエン、両片想い大好きな作者による作品です。 現在10万字以上となっています、私の作品で一番長いです。 基本甘々です。 同名キャラにて、様々な作品を書いています。 作品によりキャラの性格、立場が違いますので、それぞれの差分をお楽しみ下さい。 全員ではないですが、イメージイラストあります。 皆様の心に残るような、そして自分の好みを詰め込んだ甘々な作品を書いていきますので、よろしくお願い致します(*´ω`*) カクヨムさんでも投稿中で、そちらでコンテスト参加している作品となりますm(_ _)m 小説家になろうさん、ネオページさんでも掲載中。

いっとう愚かで、惨めで、哀れな末路を辿るはずだった令嬢の矜持

空月
ファンタジー
古くからの名家、貴き血を継ぐローゼンベルグ家――その末子、一人娘として生まれたカトレア・ローゼンベルグは、幼い頃からの婚約者に婚約破棄され、遠方の別荘へと療養の名目で送られた。 その道中に惨めに死ぬはずだった未来を、突然現れた『バグ』によって回避して、ただの『カトレア』として生きていく話。 ※悪役令嬢で婚約破棄物ですが、ざまぁもスッキリもありません。 ※以前投稿していた「いっとう愚かで惨めで哀れだった令嬢の果て」改稿版です。文章量が1.5倍くらいに増えています。

処理中です...