勇者の帰りを待つだけだった私は居ても居なくても同じですか? ~負けヒロインの筈なのに歪んだ執着をされています~

砂礫レキ

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第一章

二話

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「……というわけで、この村を出ていくつもりです」


 幼馴染のライルに自分の部屋へ女性を連れ込まれた私は、そのまま家から出て近所の叔父夫婦の家に泊まった。

 そして次の日お礼代わりに作った朝食を供し終わった後で二人に自らの決意を話す。

 それを聞かされた叔父さんたちは非常に難しい顔をしていた。気持ちのいい朝に告げるようなことではなかったかもしれない。

 けれど出ていくと決めてすぐ出ていける訳ではない。両親から継いだ家やお墓のことだってちゃんと決めなければいけない。

 私が街で暮らすようになるならそれらの管理には村にいる親戚を頼るしかない。

 出ていくと告げた際、叔父さんたちは当初驚いた顔をしていた。

 だが最近のライルの行状について話し終える頃には頭痛を堪えるような表情を二人とも浮かべていた。


「何やってんだ、あの洟垂れ小僧は……」

「私達ずっとライルとアディはそういう仲だと思ってたんだけどねぇ……」


 だってあの子、昔も今も貴女の家に入り浸りだったじゃない?

 夫婦になるつもりで同棲していたのかと。

 そう叔母さんに言われて私は思いきり首を振った。そもそも同棲じゃない、押しかけられていただけだ。


「ライルは一人暮らしで家事をするのが嫌だから私の家に居座っていただけです」

「そうなのかい……まあ、あの子も男だからねぇ、外で働くなら家の事は苦手でも……」

「でも叔母さん、この前叔父さんが料理上手だって自慢していたじゃないですか?」


 私からの指摘に叔母さんと叔父さんは頬を赤くして照れた。本当に何十年経っても仲のいい夫婦だ。

 確かにお金を稼ぐだけならライルは有能だろう。魔王討伐の報酬だけで贅沢をしなければ親子で数十年暮らしていける分はある。

 それに勇者だけあって当然強い。村の近くに出た魔物の討伐だけじゃなく別の地方から頼まれて手強い魔物を退治しにいく事もある。

 強敵だけあって報酬はかなりのものだと聞く。

 でも私には一銭も入りませんから!

 今でもあいつは小さい子供の気分で私に面倒を見て貰っているつもりなのだ。

 私がそういうと二人は先程にも増して、信じられない物を見るような顔をした。

 


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