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第一章

一話

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「アディ?いや全然恋人とかじゃねーよ。ずっと隣の家なだけだし。口うるさい近所のオバサンって感じ」

「えぇ、ライル君ひっどーい、向こうは絶対期待してるよー?」


 うん、そうよね。今の私と貴男は間違っても恋人とかではないわよね。そこは合っているわ。

 私と貴男はただの幼馴染だし、貴男の両親と私の両親の仲が良くて、貴男が小さい頃に父母に死に別れて。

 それで可哀想だと思った私の両親が自分の息子みたいに貴男を育てて、私も年の離れた弟みたいに接してきて。

 ある日突然貴男が勇者の子孫だってお城の偉い人に連れ去られて、そして魔王討伐の旅に出るっていう貴方を家族全員で泣いて見送って。

 貴男が旅に出ている間に私の両親は流行り病で亡くなって。けれどその後すぐに貴男はボロボロの姿で帰ってきて。

 魔王を倒すという偉業と引き換えに酷く衰弱しきった貴男の看病している間に一年はあっという間に過ぎて。

 元気になって喜んだと思ったら旅の間の仲間を呼んではどんちゃん騒ぎ。料理も宴会場所も私が提供することになって。

 うん、それも別に構わないのよ。貴男の仲間たちはちゃんと気遣いしてくれて差し入れも沢山してくれるから。

 でも貴男は一度もお礼を言ってくれなかったわよね?

 というか貴男いつ自分の家に帰るの?貴男が当たり前に住んでいるの、私が両親から受け継いだ家なんだけれど?

 部屋が散らかっているから嫌?三日前に私片付けたわよね?また散らかしたの?

 だからよりにもよって『私の部屋』に女の子を連れ込んで口説いているの? 
  
 私が貴男と自分の両親のお墓の掃除しに行っている間に?

 流石に怒鳴り込んでやろうと思って私は自室に繋がるドアに手をかけた。


「いや恋人とかまじ無理だよ、あいつ地味で居ても居なくても同じだし」

「かわいそー」

 
 その言葉を聞いた途端心臓を中心に体が凍り付いたように動かなくなった。

 少しして、ようやく動いたと思ったら自分がボロボロと泣いていることに気付いた。

 ふうん、私は居ても居なくても同じなんだ?

 ねえ馬鹿ライル、じゃあ貴男の寝床も貴男の食事の世話もその他全部これからしなくていいわよね?

 というかもう二度としないことにするわね。

 ……昔した結婚の約束、すっかり忘れているみたいだから私も忘れることにするわね。

 もう私貴男の幼馴染も隣人も辞めさせていただくわね。

 勇者様、私貴男の前から居なくなることにします。

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