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悪女と呼ばれた男爵令嬢の章
7.
しおりを挟む「婚約破棄は私が一人でやっておくからフィリアはその間に逃げると良いよ」
「……は?」
「隣国アウルに亡命してもいいかしれない。これは路銀の足しにしてくれ」
母上の形見のアクセサリーや宝石だ。
そうずっしりと重い皮袋を手渡されフィリアは目の前の青年を凝視した。
彼はレオナルド、半年後に貴族学校を卒業するこの国の第一王子である。
フィリアは命令通り男爵令嬢としてこの青年に接触した。
そして一か月後には正体を看破されていた。
だが彼がそれをフィリアに話したのは何故か今年に入ってからだった。
「賢くはないけど図鑑を読むのは好きなんだ。ヒルシュ男爵家は貴族名鑑に載っていなかった」
「確かにそうだけど、なんで私が王家と公爵令嬢に雇われているって気づいたの?」
「だって君が私に関わり始めてから生徒会室から締め出される機会が激増したからね」
あそこは元々アレクサンドラのサロンみたいだったけれど、ルーカスがキング役に抜擢されたようだね。
苦笑いで語るレオナルドは落ち着いていて穏やかだ。
嫉妬深く怒りっぽいというアレクサンドラから聞かされた情報が当てはまらない事この上ない。
そのことを告げると金色の髪の美青年は寂しそうに言う。
「彼女は優秀だけれど、自分より少しでも劣っている人間は使えない愚か者だと判断する傾向がある。ルーカスもだね。一時期はあの眼差しで見られるのが悔しかったけれど、諦めたんだ」
「諦めた?」
「そこで二人を妬んで動けば、彼らの想像通りの愚かな第一王子になってしまう。だから何も感じないことにした」
結果わかりやすい愚行をしない私に焦れて君を派遣したのだろうね。
申し訳ないと詫びるレオナルドにフィリアは驚きを通り越して呆れる。
「そこまでわかっているのにどうして何もしないの?」
「だって王たちが許可したのだろう。なら国を乱したくない。必要とされない私が消えればいいだけだ」
優しく正義感の強い者達は私を庇うかもしれないが、それは王家の力で圧し潰されるだろう。
穏やかに説明する青年の、その冷静さがフィリアは何故か許せなかった。
必要とされない、だから周囲の願い通り愚かな王子として破滅する、それが皆の願いで国の為だから。
なんでそんな覚悟を平然と持てる人間が、馬鹿王子として扱われなきゃいけないのか。
アレクサンドラたちは作戦前から既にレオナルドを愚か者だと見下していた。
嫌だ、あんな奴らの思い通りにこの人を犠牲になんてしたくない。
フィリアは気が付いたら言葉を発していた。
「ふざけないでよ、あなた、自分が必要ないなんて、じゃあ、じゃあ……私に頂戴よ」
「えっ」
「私はこんな国よりレオナルドの方が大切だし必要なのよ!皆がいらないなら私がもらうから!!」
そう口に出した途端フィリアの頭はすっきりした。
要らないのだレオナルド以外。この国なんてどうでもいい。
だから王命とか知った事ではない。
けれど作戦自体は微妙な範囲で成功させることにした。
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