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悪女と呼ばれた男爵令嬢の章

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「いいわね、お前は今日からヒルシュ男爵家の姓を名乗りあの馬鹿を誘惑しなさい」

 そう居丈高に命令してきたのはフィリアとさして年齢の変わらない美しい少女だった。
 確か名前はアレクサンドラ。ヴァーレ公爵家の令嬢だと名乗っていた。

「レオナルド第一王子に愛され、彼を骨抜きにしなさい。そして王妃になりたいとねだるのよ」
「何故ですか?」

 意味不明な指示に質問した途端頬を張られる。
 だがこれは自分が悪いとフィリアは反省した。
 孤児院から適性のあるものを引き抜き教育し、王家の影へと仕立て上げる。
 価値のない命として扱われ、王家の為に使い潰される存在。
 その中の一つがフィリアだった。

 だが自分は王家の影なのに何故公爵家の小娘が主人ぶっているのだろう。
 そんな気持ちをフィリアは押し殺す。答えは簡単だからだ。
 アレクサンドラの作戦に王と王妃が賛同しているからだ。

 彼らは自分たちの子供を破滅させようとしている。
 もう一人の子供の幸せのために。
 この時点でフィリアは無意識に標的となる第一王子に憐れみを抱いていた。

「あんな低能馬鹿が私の婚約者なんて相応しくないの。出来の悪い王子のサポートとして完璧な私が選ばれたわけだけど、気づいてしまったの」
「はあ……」
「あんな愚鈍な男が王になったら国が滅んじゃうってね。ルーカス様の方が相応しいわ。私は未来の王妃としてちゃんと国の事を考えているの、そう教育されてきたのだから、なのにあのレオナルドったら……」

 いつも優秀な私を女の癖に生意気だという目で見てくるのよ。
 そう不快そうに言う黒髪の少女の言葉をフィリアは重要な部分以外聞き流すことに決めた。
 彼女が言葉通りに完璧で優秀な令嬢なら婚約者を励まし上手く持ち上げ適切に指導し、王に相応しい人間に出来るのでは?という疑問は黙って置いた。

 貴族学校に貧しい男爵家の令嬢として潜入する。
 そして第一王子レオナルドに近づき彼の恋人になる。
 目につきやすい場所で親密な様子をアピールし生徒たちに目撃させる。

 レオナルドをけしかけ卒業パーティーの日に婚約破棄を言い出させる。

 
 これがアレクサンドラが立案し、国王夫妻と第二王子そして彼女の兄が絶賛した作戦らしい。
 レオナルドが王になる前にこの国は滅ぶのではと思ったがフィリアは黙っておいた。

 作戦が適当なのは失敗した時はフィリアが死ねばいいと考えているからだろう。
 実際そのようにアレクサンドラからは命じられていた。
 いや作戦が成功しても自分は始末されるだろう。
 第一王子を誘惑し騒ぎを起こし王家に泥を塗った大罪人として。
 それが国の為になるのだと言われて、処刑される。

 私の命に価値は無いのだから。
 フィリアは命令に頷いた。

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