【完結】その日、馬鹿で有名な第一王子が完璧と名高い公爵令嬢に婚約破棄を宣言した

砂礫レキ

文字の大きさ
上 下
4 / 8
愚かと呼ばれた第一王子の章

4.

しおりを挟む
「彼女は王家、いや国王の影の一人だろう? 国籍すら与えられず汚れ仕事を任されるものたちだ」
「まさか……影の存在を知っていたのですか?!」
「これでも第一王子だからね、出来は悪いが王子教育はこれでも真面目に受けていたんだよ」

 それでもルーカスや君と比べて愚かであるという評価は事実だけれど。
 暗い目で呟くレオナルドに対し、そういえばと生徒の一人が話し始めた。

「試験後張り出された結果でレオナルド殿下の成績はクラスでは中の上でした……」
「確かに、アレクサンドラ嬢は首位だったから差はあるけれど」
「成績優秀者専用の組の中でだから、噂になる程悪くは無いような……」

 どうして自分たちはレオナルド第一王子に対して暗愚な印象がこれ程強いのか。
 今更その事実に気づき始めた生徒たちが不気味そうに呟き出す。

「王家とヴァーレ公爵家が組んで情報統制をはかったからね。私には味方もいないし簡単だっただろう……君と違ってねルーカス」

 そうレオナルドは扉の近くで腕組みをしている銀髪の青年に呼び掛けた。
 二人は顔立ちは微妙に似ているが髪の色が違う。
 ルーカスと呼ばれた青年は険しい表情で動かなかった。

「君は愚かな私が断罪したアレクサンドラを颯爽と救う役割かな?似合いそうだね」
「……何のことでしょう、兄上」
「君が王になるといいよ。私はもうこの国も父も君もこの女もいらないから」

 レオナルドはそう告げ、アレクサンドラを突き飛ばした。

「きゃあああっ!無礼者!」

 公爵令嬢が騒ぎながら尻もちをつく。

「サンディ!……出来損ない王子の癖に妹になんて真似を!」

 アレクサンドラの兄、クラウスが怒りに満ちた声でレオナルドを責める。
 その無礼を咎めることもなく第一王子は微笑んだ。

「うん、だから出来損ないの邪魔者王子は退出させて貰うよ……やってくれ、フィリア」

 彼が最後だけ小声で呟いた直後、轟音と共に室内が暗闇に包まれる。
 レオナルドの真上にあった巨大なシャンデリアが落下したのだ。
 連動するかのように他の照明も消える。

 濃い血の匂いがパーティー会場に漂う。
 やがて明かりがともり、その原因に気づいた者たちが次々に悲鳴を上げた。
 レオナルドの名を呼ぶものも居た。
 しかし答えが返ることはなかった。

「……ふ、ふふ、弱い男。だから駄目なのよ」

 へたりこんだアレクサンドラがそれでも薄く笑う。死人に口なしという言葉を頭に思い浮かべて。
 兄のクラウスはそんな彼女に戸惑いながら恋人のように抱きしめた。
 シャンデリアの残骸を注視していたルーカスは二人の様子に気を払うことはなかった。 

 そしてその翌日、第一王子レオナルドの事故死が王室から貴族と民たちへ報じられる。
 更に数日後川で少女の水死体が発見されたが身元不明のまま忘れ去られた。

 卒業パーティーの惨劇から半年後、王太子となったルーカスと公爵令嬢アレクサンドラの婚約が発表された。
 しかし二人が期待する程周囲には祝福されなかった。

 この優秀な美男美女の婚約は踏みにじった犠牲者の血の上に成り立っていることが水面下で噂になっていたのだ。

しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

とある婚約破棄の事情

あかし瑞穂
恋愛
「そんな卑怯な女を王妃にする訳にはいかない。お前との婚約はこの場で破棄する!」 平民の女子生徒に嫌がらせをしたとして、婚約者のディラン王子から婚約破棄されたディーナ=ラインハルト伯爵令嬢。ここまでは、よくある婚約破棄だけど……? 悪役令嬢婚約破棄のちょっとした裏事情。 *小説家になろうでも公開しています。

そちらがその気なら、こちらもそれなりに。

直野 紀伊路
恋愛
公爵令嬢アレクシアの婚約者・第一王子のヘイリーは、ある日、「子爵令嬢との真実の愛を見つけた!」としてアレクシアに婚約破棄を突き付ける。 それだけならまだ良かったのだが、よりにもよって二人はアレクシアに冤罪をふっかけてきた。 真摯に謝罪するなら潔く身を引こうと思っていたアレクシアだったが、「自分達の愛の為に人を貶めることを厭わないような人達に、遠慮することはないよね♪」と二人を返り討ちにすることにした。 ※小説家になろう様で掲載していたお話のリメイクになります。 リメイクですが土台だけ残したフルリメイクなので、もはや別のお話になっております。 ※カクヨム様、エブリスタ様でも掲載中。 …ºo。✵…𖧷''☛Thank you ☚″𖧷…✵。oº… ☻2021.04.23 183,747pt/24h☻ ★HOTランキング2位 ★人気ランキング7位 たくさんの方にお読みいただけてほんと嬉しいです(*^^*) ありがとうございます!

婚約破棄ですか? では、最後に一言申しあげます。

にのまえ
恋愛
今宵の舞踏会で婚約破棄を言い渡されました。

悪役令嬢は永眠しました

詩海猫
ファンタジー
「お前のような女との婚約は破棄だっ、ロザリンダ・ラクシエル!だがお前のような女でも使い道はある、ジルデ公との縁談を調えてやった!感謝して公との間に沢山の子を産むがいい!」 長年の婚約者であった王太子のこの言葉に気を失った公爵令嬢・ロザリンダ。 だが、次に目覚めた時のロザリンダの魂は別人だった。 ロザリンダとして目覚めた木の葉サツキは、ロザリンダの意識がショックのあまり永遠の眠りについてしまったことを知り、「なぜロザリンダはこんなに努力してるのに周りはクズばっかりなの?まかせてロザリンダ!きっちりお返ししてあげるからね!」 *思いつきでプロットなしで書き始めましたが結末は決めています。暗い展開の話を書いているとメンタルにもろに影響して生活に支障が出ることに気付きました。定期的に強気主人公を暴れさせないと(?)書き続けるのは不可能なようなのでメンタル状態に合わせて書けるものから書いていくことにします、ご了承下さいm(_ _)m

公爵令嬢は婚約破棄に感謝した。

見丘ユタ
恋愛
卒業パーティーのさなか、公爵令嬢マリアは公爵令息フィリップに婚約破棄を言い渡された。

【完結】ご安心を、問題ありません。

るるらら
恋愛
婚約破棄されてしまった。 はい、何も問題ありません。 ------------ 公爵家の娘さんと王子様の話。 オマケ以降は旦那さんとの話。

侯爵令嬢の置き土産

ひろたひかる
恋愛
侯爵令嬢マリエは婚約者であるドナルドから婚約を解消すると告げられた。マリエは動揺しつつも了承し、「私は忘れません」と言い置いて去っていった。***婚約破棄ネタですが、悪役令嬢とか転生、乙女ゲーとかの要素は皆無です。***今のところ本編を一話、別視点で一話の二話の投稿を予定しています。さくっと終わります。 「小説家になろう」でも同一の内容で投稿しております。

酔って婚約破棄されましたが本望です!

神々廻
恋愛
「こ...んやく破棄する..........」 偶然、婚約者が友達と一緒にお酒を飲んでいる所に偶然居合わせると何と、私と婚約破棄するなどと言っているではありませんか! それなら婚約破棄してやりますよ!!

処理中です...