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愚かと呼ばれた第一王子の章

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「でも腹違いの弟の方が優秀だからという理由だけで彼を王にしようとすれば隣国アウルが黙っちゃいない」 

 あの国の王は私の叔父だからね。淡々とレオナルドが話す。
 彼を小馬鹿にするような視線は見物人の生徒たちから消えていた。

「身分違いの恋を無理やり押し通そうと婚約者を冤罪で陥れる馬鹿な男。こんな人間が王になれば国は潰れる……」
「……レオナルド様」
「そう大勢に思わせるぐらいじゃないと駄目だと君たちは考えた、筋書き自体は君が考えたのかな?」
「わ、私ではありません!」

 ヒステリックにアレクサンドラが叫ぶ。
 常に完璧な彼女に憧れていた生徒たちは驚いた顔をした。

「だがそういう物語が子女たちの間で流行っていると聞いたけれど」

 冤罪で悪役にされた優れた貴族令嬢が愚かな婚約者を断罪し、彼女の味方となった男性と恋仲になる。
 何冊か読んで笑ってしまったよ。言葉通り笑みを浮かべるレオナルドをアレクサンドラは睨みつける。 

「大抵令嬢より地位の高い男性が彼女を愛しているんだ。君は公爵令嬢だから相手は王子位が適切なのかな」
「殿下、物語と現実の区別をつけてください!」
「先月の舞踏会でルーカスと君がこっそりテラスでダンスしていたことは知っているよ。ロマンチックだね」

 美男美女だからさぞかし絵になっただろう。
 そう語る第一王子の顔に嫉妬は全く浮かんでいなかった。

「レ、レオナルド様こそヒルシュ男爵令嬢と……」
「今話をしているのはルーカスと君の関係だよ。それに相手が浮気していれば自分も同じことをしていいのかな?」

 第一王子の指摘を無視して公爵令嬢は叫んだ。

「話を逸らさないでください!二人が生徒会活動をさぼって下町や空き教室でイチャイチャしていたことは有名です!」
「君って公爵令嬢として教育を受けた筈なのに言葉遣いが時々崩れるよね。それで有名って誰に?どこでだい?」
「だ、誰って……それより男爵令嬢を連れてきてください!彼女は常々レオナルド様と自分は恋仲であると言いふらしていました!」

 この場にいる生徒たちが目撃者です!
 そう大袈裟な仕草でアレクサンドラは輪になって二人を見つめる令息令嬢たちを指し示す。
 レオナルドはその様子に溜息を吐いた。

「先程から気になっていたけれど……ヒルシュ男爵家なんてこの国には存在しないよ」
「……っ?!」
「少なくとも昨年と今年の貴族名鑑には載っていない。だからフィリアは男爵令嬢じゃない」

 君たちは急に近寄ってきた女性の身分も調べないような愚かで無防備な王子だと私を判断していたんだね。
 虚しそうに言う第一王子に生徒たちの保護者として参加していた年配貴族たちがざわめく。
 それを無視してレオナルドは婚約者に語り掛けた。
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