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32.公爵令嬢の勇気

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 オスカーと抱き合って眠ることにしたアラベラだが、それは兄には絶対秘密にしようと決意した。
 流石に安眠は難しかったが、千匹羊を数えたところで入眠することは叶った。
 そして覚悟を決めただけの見返りは十分有った。

 同衾した翌日にオスカーとは別室で着替えが出来たのだから。
 その後は消費した神聖力を補う為に出来るだけオスカーと手を繋いで過ごした。
 お陰で夜にはそれぞれ別の浴室で入浴することが叶った。

 つまりアラベラはオスカーに自分の肌を見せずに済み、又彼の肌を見なくて済んだのだ。
 そして彼女は改めて気づいた。
 一人でいられる時間は自分にもそしてオスカーにも必要であると。
 その為には出来る限り彼と密着して神聖力を取り込むべきだ。

 オスカーと知り合って二日目。
 己の部屋で退屈そうに本を読んでいる彼にアラベラは声をかけた。
 
「オスカー殿下、提案があるのですが」
「殿下は要らない」
「では、オスカー様」
「……呼び捨てで構わないという意味だが、婚約者殿?」

 子供っぽさと年上の色香が奇妙に同居した笑みでオスカーはアラベラをからかう。
 ソファーに寄り添って座っている為、至近距離でその微笑みを受けアラベラの心臓は早鐘を打った。
 自分は美しい異性は見慣れていると思っていた。
 兄のイザークは母似の華やかさと理知的な雰囲気を併せ持った美男子として貴族社会で有名だった。
 元婚約者のサディアス王太子だって、美点に真っ先に整った容姿が挙げられる人物だ。

 けれどオスカーは、オーラが違うのだ。
 ナヴィスでは見ない神秘的な銀色の髪に燃えるような赤い瞳。
 鍛え上げられた逞しい体に、絵物語から抜け出したような繊細な美貌。
 実際ヴェルデンの王族である彼は神聖力を持った特別な存在だ。
 そんな美丈夫と寝ても覚めても一緒にいるのだからアラベラの心は休まる暇がない。
 だが今から彼女は更に自分を追い込む提案をしようとしていた。

「では、オスカー……はしたない女だと思われても仕方がないのですが」
「思わないし、はしたない女も嫌いじゃないぞ俺は」
「あの、この部屋に二人きりで居る時は寝台で私を抱きしめて頂けないでしょうか?」

 暇な時だけでいいので。そう顔を赤くしながらアラベラは言う。
 今二人は何もすることが無い状態だった。
 アラベラは療養が最優先だとイザークに言われたし、オスカーは黒髪の部下を使いに出した後は暇そうにしている。
 だからこうやって食事と入浴と散歩以外はアラベラの部屋に二人で籠っているのだ。

 でも暇なのは今だけだとアラベラは理解していた。
 イザークは辺境で療養している父に会いに行っているし、オスカーも本国からアラベラとの婚約について返事待ちをしている状態だ。
 結果が出次第色々なことを一気にやらなければいけない。
 婚約発表や、舞踏会の件について、そして毒についての犯人捜しも。
 その時の為にアラベラは自分の体にオスカーの神聖力を蓄えて置きたかった。
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