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24.メイド頭の裏切り
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「アラベラを連れ出したのはグレンダ、十年前からアンドリュース公爵家でメイド頭をやっている人物です」
「グレンダが?!」
アラベラが驚きで大きな声を上げる。
すぐに恥じ入って謝罪する妹にイザークは驚くのも仕方がないことだと溜息を吐いた。
「メイド頭か、アラベラ嬢の反応を見るとかなり信頼されていたのだな」
「そうですね。勤勉実直を絵に描いたような人物で私たちも彼女を信頼していました」
「私だって今でも信じられません。グレンダは堅物で自分にも私たちにも厳しい人で……!」
「でも、わたくしたちの事を可愛がってくれたわ。庭を散歩中に野犬が迷い込んだ時も躊躇わず庇ってくれた……」
ひっそりと語るアラベラを前にイザークとディシアも暗い顔をする。
「グレンダとやらが犯行を行った証拠はあるのか」
「はい……残念ながら」
オスカーの問いかけにイザークは頷く。
「アラベラの部屋には後付けで外から鍵をかけられるようになっていました。その鍵を持ち出すところを他のメイドに目撃されています」
「他には?」
「アラベラを連れて廊下を歩いているところも目撃されていますし、何より御者もグレンダに命じられて二人を城まで連れて行ったと証言しております」
「その御者は詳細も聞かず城まで二人を運んだのか?」
「いえ、王太子の命令だからと凄い剣幕で押し切られたとのことです。執事長も私も運悪くその時は屋敷から離れていて……戻って来た御者に報告を受け卒倒しそうになりました」
青い顔で額を押さえるアンドリュース公爵令息をオスカーは大変だったなと労わる。
そして何か考え込む表情をした。
「十年間メイド頭をやっていた人物なら、連れ出すこと自体は難しいことでは無かっただろうな。使用人たちへの権力も信頼もある」
運悪く屋敷を離れていたと言っていたが、スケジュールを把握して動いたのかもしれない。
オスカーに言われイザークは疲れた顔で同意する。
「でも私は部屋にいたのだから御者は屋敷を出る前に私に確認すれば良かったのに!そうしたら絶対止めましたわ!」
「だがそれだと俺がアラベラ嬢と関わることは出来なかったな。これも運命の導きとやらかもしれん」
熱弁をふるうディシアにオスカーがさらりと答える。
「舞踏会でアラベラ嬢は一人だった。そのメイド頭は一人で馬車に乗って公爵邸まで戻って来たのか?」
「いえ、城でアラベラとグレンダの二人とも降ろしたと御者は言っています」
「なら城内に居るんじゃないか?」
「アラベラを部屋に戻した後、私は再び城に戻りグレンダを探しましたが……」
「居なかったということか」
「確認できる場所は確認し、城内の使用人にも話を聞きました。そうしたら衛兵の一人が城内の物ではないメイド服を着た女性が城を出ていくのを見かけたと……」
「つまり、アラベラを城に置き去りにして自分はさっさと逃げたということか?」
大した忠義者だな。
呆れた顔をしながら皮肉を言うオスカーに、アラベラが口を開いた。
「グレンダが?!」
アラベラが驚きで大きな声を上げる。
すぐに恥じ入って謝罪する妹にイザークは驚くのも仕方がないことだと溜息を吐いた。
「メイド頭か、アラベラ嬢の反応を見るとかなり信頼されていたのだな」
「そうですね。勤勉実直を絵に描いたような人物で私たちも彼女を信頼していました」
「私だって今でも信じられません。グレンダは堅物で自分にも私たちにも厳しい人で……!」
「でも、わたくしたちの事を可愛がってくれたわ。庭を散歩中に野犬が迷い込んだ時も躊躇わず庇ってくれた……」
ひっそりと語るアラベラを前にイザークとディシアも暗い顔をする。
「グレンダとやらが犯行を行った証拠はあるのか」
「はい……残念ながら」
オスカーの問いかけにイザークは頷く。
「アラベラの部屋には後付けで外から鍵をかけられるようになっていました。その鍵を持ち出すところを他のメイドに目撃されています」
「他には?」
「アラベラを連れて廊下を歩いているところも目撃されていますし、何より御者もグレンダに命じられて二人を城まで連れて行ったと証言しております」
「その御者は詳細も聞かず城まで二人を運んだのか?」
「いえ、王太子の命令だからと凄い剣幕で押し切られたとのことです。執事長も私も運悪くその時は屋敷から離れていて……戻って来た御者に報告を受け卒倒しそうになりました」
青い顔で額を押さえるアンドリュース公爵令息をオスカーは大変だったなと労わる。
そして何か考え込む表情をした。
「十年間メイド頭をやっていた人物なら、連れ出すこと自体は難しいことでは無かっただろうな。使用人たちへの権力も信頼もある」
運悪く屋敷を離れていたと言っていたが、スケジュールを把握して動いたのかもしれない。
オスカーに言われイザークは疲れた顔で同意する。
「でも私は部屋にいたのだから御者は屋敷を出る前に私に確認すれば良かったのに!そうしたら絶対止めましたわ!」
「だがそれだと俺がアラベラ嬢と関わることは出来なかったな。これも運命の導きとやらかもしれん」
熱弁をふるうディシアにオスカーがさらりと答える。
「舞踏会でアラベラ嬢は一人だった。そのメイド頭は一人で馬車に乗って公爵邸まで戻って来たのか?」
「いえ、城でアラベラとグレンダの二人とも降ろしたと御者は言っています」
「なら城内に居るんじゃないか?」
「アラベラを部屋に戻した後、私は再び城に戻りグレンダを探しましたが……」
「居なかったということか」
「確認できる場所は確認し、城内の使用人にも話を聞きました。そうしたら衛兵の一人が城内の物ではないメイド服を着た女性が城を出ていくのを見かけたと……」
「つまり、アラベラを城に置き去りにして自分はさっさと逃げたということか?」
大した忠義者だな。
呆れた顔をしながら皮肉を言うオスカーに、アラベラが口を開いた。
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