嫉妬深いと婚約破棄されましたが、どうやら惚れ薬を飲まされていたようです

砂礫レキ

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22.絶望の中の希望

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「アラベラ嬢はプライドが高いな」

 鼻で笑うように言ったのはオスカーだった。

「なっ」

 全く予想しなかった台詞に、アラベラも思わず不満の声を上げる。
 慌てて口を閉ざしたがその頬は羞恥と彼への僅かな怒りに赤くなっていた。
 相手の態度を意にも介さずオスカーは話を続ける。
 イザークとディシアは口を挟める雰囲気で無いとことを敏感に感じ取り黙った。

「解毒薬がすぐ手に入らないからさっさと死ぬことにする?君の家族に申し訳ないと思わないのか」
「……家名を汚し、家族に迷惑をかけた償いが出来ないことは情けなく思います」
「俺はそんな話はしていない」

 落ち着きを取り戻したアラベラの言葉を銀髪の青年は一刀両断する。
 アンドリュース家の公爵令嬢は内心溜息を吐いた。これは完全に自分の失態だ。

 この宗主国の王子は善人なのだろう。だからアラベラに付き添い王城から公爵邸までついて来てくれたのだ。
 そんな彼の前で自害するなんて言えば怒られるのも当然だ。
 だがアラベラはオスカーと手をつないでいなければすぐに狂ってしまう。
 そして彼はこの国の人間ではない。大国の第二王子だ。
 身分だってアラベラの、いや父であるアンドリュース公爵よりずっと上だ。

 そんな彼をいつまでも傍に留めておくことなんて出来ない。
 寧ろ明日にでもこの屋敷を出て行ってしまうだろう。
 ならオスカーが今一緒にいてくれる時に出来ることは全部やっておこうと思ったのだ。
 口で言わず手紙に書いてこっそり兄にでも渡せばよかった。
 アラベラがそんなことを考えていると強く手を握られた。誰の仕業かは見なくてもわかる。

「君が死んで終わるのが正しいなら君の家族は一年も耐えていない」

 オスカーの言葉の強さに、アラベラは彼から目をそらした。
 半分は納得できる。
 自害なんて方法選ばなくても父ならアラベラを殺すことが出来た。
 サディアスに会わせてやると言えば狂ったアラベラは喜んで毒薬を飲み崖から飛び降りただろう。
 そんな都合良く行かなくてもこっそり食事に毒を混ぜ始末しても誰も責めない筈だ。

 でもオスカーに解毒の奇跡を使われたアラベラの体は健康そのものだった。
 逆に兄妹であるイザークやディシアの方がやつれている。
 だからこそ申し訳なくて、元凶の自分をさっさと消し去ろうと思ったのだ。

「それに……今やっと希望が見えてきたんじゃないのか?」
「希望……?」

 銀色の青年の言葉をアラベラは繰り返す。
 その通りだと妹のディシアが力強く同意した。

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