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21.死を選ぶ理由
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「アラベラ姉様!」
「アラベラ、何てことを言うんだ!」
冷静さを維持していたイザークも思わず声を荒げる。
だがそれも仕方のない話だった。
アラベラが遺書を書くと言い出したのは、万が一に備えてという理由ではない。
彼女が自害を決断したからだと、ディシアもイザークも瞬時に理解したのだ。
アンドリュース公爵家長女の誇り高さを兄妹はよく知っていた。
「自害だと騒がれると思いますので表向きの扱いは病死が妥当かと思います」
「そういう事を問題視している訳じゃない!」
「ですが、ここまで質の悪い狂毒に蝕まれたわたくしを生かしておく理由はありません」
まるで他人事のようにアラベラは口にする。
だが正気に戻った今、彼女の感性も常人と同じものになっている。死への恐怖が皆無な訳ではない。
それでも、隣に座るオスカー王子の助けが無ければ正常を維持できないなら死を選ぶべきだと決断を下した。
狂っている間のことをアラベラは覚えていない。
しかし、ここにいる皆から聞いた話で凄まじい醜態を晒し続けていたことは理解した。
そして先程、解毒の効果を確かめる為にした実験で狂気に蝕まれる片鱗があった。
オスカーが手を離した僅かな時間でアラベラの頭と心はモヤがかかった。そしてその瞬間ディシアは悲痛な声を上げた。
すぐさま手を握られ正気に戻ったアラベラは妹のその声を聞いた。
毒に支配された己は、明るく気丈な妹がそこまで恐怖を覚え、戻って欲しくないと願うような化け物なのだ。
実際かなり柔らかい表現をしてくれたが兄妹の話すアラベラの行動は盛りの付いた凶獣でしかなかった。
サディアスだけを何時でも求め、彼に近寄ろうとする女性を口汚く罵る。
身嗜みも身分も考えず、餌を求める獣のようにサディアスに近づこうとする。
そしてサディアスの言うことなら何でも即座に叶えようとする。それが自分の死を招く行為でも。
アラベラはぶるりと震えた。
もしかしたら己の体は、知らぬ内に彼に汚されているかもしれない。
ディシアが教えてくれた、毒の副作用で自分の容色が著しく衰えていたと。
彼女は悲しそうな顔をしていたがアラベラは寧ろそれを唯一の救いだと感じていた。
サディアスは醜いものを嫌う。だから狂った上に容姿まで醜くなったアラベラに触れようとすることは無いだろう。
そう祈る様に信じている自分に気づいてアラベラは内心笑った。今から死のうとしているのにそんなことに拘っているなんてくだらないと。
「アラベラ、何てことを言うんだ!」
冷静さを維持していたイザークも思わず声を荒げる。
だがそれも仕方のない話だった。
アラベラが遺書を書くと言い出したのは、万が一に備えてという理由ではない。
彼女が自害を決断したからだと、ディシアもイザークも瞬時に理解したのだ。
アンドリュース公爵家長女の誇り高さを兄妹はよく知っていた。
「自害だと騒がれると思いますので表向きの扱いは病死が妥当かと思います」
「そういう事を問題視している訳じゃない!」
「ですが、ここまで質の悪い狂毒に蝕まれたわたくしを生かしておく理由はありません」
まるで他人事のようにアラベラは口にする。
だが正気に戻った今、彼女の感性も常人と同じものになっている。死への恐怖が皆無な訳ではない。
それでも、隣に座るオスカー王子の助けが無ければ正常を維持できないなら死を選ぶべきだと決断を下した。
狂っている間のことをアラベラは覚えていない。
しかし、ここにいる皆から聞いた話で凄まじい醜態を晒し続けていたことは理解した。
そして先程、解毒の効果を確かめる為にした実験で狂気に蝕まれる片鱗があった。
オスカーが手を離した僅かな時間でアラベラの頭と心はモヤがかかった。そしてその瞬間ディシアは悲痛な声を上げた。
すぐさま手を握られ正気に戻ったアラベラは妹のその声を聞いた。
毒に支配された己は、明るく気丈な妹がそこまで恐怖を覚え、戻って欲しくないと願うような化け物なのだ。
実際かなり柔らかい表現をしてくれたが兄妹の話すアラベラの行動は盛りの付いた凶獣でしかなかった。
サディアスだけを何時でも求め、彼に近寄ろうとする女性を口汚く罵る。
身嗜みも身分も考えず、餌を求める獣のようにサディアスに近づこうとする。
そしてサディアスの言うことなら何でも即座に叶えようとする。それが自分の死を招く行為でも。
アラベラはぶるりと震えた。
もしかしたら己の体は、知らぬ内に彼に汚されているかもしれない。
ディシアが教えてくれた、毒の副作用で自分の容色が著しく衰えていたと。
彼女は悲しそうな顔をしていたがアラベラは寧ろそれを唯一の救いだと感じていた。
サディアスは醜いものを嫌う。だから狂った上に容姿まで醜くなったアラベラに触れようとすることは無いだろう。
そう祈る様に信じている自分に気づいてアラベラは内心笑った。今から死のうとしているのにそんなことに拘っているなんてくだらないと。
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