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20.アラベラの決断

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 まずイザークとディシアがこの一年間の事をアラベラに話す。
 かなり言葉を選び、相手に衝撃を与えないよう配慮した様子だったがそれでもアラベラの顔色は白くなった。
 けれど彼女がその顔を覆うことは無かった。
 背をしゃんと伸ばしたまま、理知的な表情を崩さず兄妹たちの話を聞き終わる。
 そしてオスカーが舞踏会での出来事を話し始める。

「本当に……最低」
「王太子殿下……どこまで、貴方は」

 サディアスが大勢の前でアラベラに行った仕打ちを聞いたイザークとディシアは表情を歪ませた。
 だが彼に侮辱され婚約破棄され、更に自害を命じられたアラベラは沈黙している。
 テーブルの下に隠された指先が僅かに震えているのを知るのはオスカーだけだった。

 三人の話を全て聞き終えたアラベラはゆっくりと息を吐く。
 そして少しの沈黙の後、静かな瞳をオスカーへと向けた。

「オスカー殿下、わたくしの体から毒は完全に消え去ったのでしょうか?」

 隣に座る公爵令嬢に尋ねられ銀髪の青年は首を傾げた。
 二人の手はまだ繋がれたままだ。

「俺の勘だと、魅了の方の毒は完全に消えていない……辛くなるかもしれないが、試してみるか?」
「お願い致します」

 相手の提案をアラベラは即了承する。
 その返事を聞くとオスカーは慎重に彼女から手を離した。

「どうだ?」 
「……少し、ぼんやりと、します」

 言葉を発している間もアラベラの緑色の瞳から輝きが減っていく。
 耐え切れずディシアが叫んだ。

「アラベラ姉様にオスカー殿下、早く手を繋いでください!早く!」

 必死な声に応えるようにオスカーは再びアラベラの指先を掴む。
 すると虚無を宿しかけた公爵令嬢の瞳にすぐさま意思の光が戻った。

「大丈夫か、アラベラ嬢」
「はい……大丈夫です、今は」

 問いかけに応えるアラベラは額に汗を滲ませていた。
 小刻みに震える彼女の肩をオスカーはそっと支える。

「もう大丈夫だ、俺が触れている限り毒がその心と体を蝕むことはない」
「有難うございます、ですが……」
「……アラベラ嬢?」
「いえ、オスカー殿下。恐れ入りますがわたくしが蝕まれている毒について何かご存じでしょうか?」

 蒼白な顔で問いかけられオスカーは少し考えた後答えた。

「恐らく中毒性のある媚薬に呪いをかけた物だと思う。その呪いが邪魔をして毒を祓い切ることが出来ない」
「……そうですか。解毒薬に心当たりなどはございますでしょうか」
「いや、今は思い浮かばない。力不足で本当にすまない」

 宗主国の王子が従属国の公爵令嬢に詫びる。
 有り得ない光景にイザークとディシアは言葉を失った。
 アラベラは奇妙な静けさでその謝罪を受け入れた。

「いいえ、わたくしは殿下の慈悲に心から感謝しております。ひと時でもこの身を狂気から解放して頂けたのだから」

 そして正気に戻れた自分なら父に遺書をしたためることが出来ます。
 軽やかに告げると優雅にアラベラは微笑んだ。

  
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