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18.姉妹の再会

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 アラベラが目覚めたことに気づいたオスカーの行動は迅速だった。
 彼は公爵令嬢が正気であることを確認すると、部屋に備えてある呼び鈴を使った。
 すると夜中だというのにすぐに侍女がアラベラの部屋に訪れた。
 茶色い髪にそばかすが素朴な印象の侍女はコーリーという名で昔からアラベラに仕えている古参の使用人だった。

 部屋に入り、暗い部屋を明るくしたマルシラは令嬢の瞳が穏やかさを取り戻していることに気づいた。
 一年前からアラベラの心身には狂気が棲みついていて、理知的な緑の瞳は常に禍々しく血走っていた。
 その変貌と獰猛を誰よりも間近で見てきたのはアラベラ付き侍女のコーリーだった。

 ああ、アラベラお嬢様が戻って来た。

 そう彼女は内心で喜びに咽び泣いた。けれどそれを表に出すことは無い。
 ただその茶色の瞳は僅かに潤んでいた。

 コーリーはアラベラに礼儀正しく用件を尋ねる。
 目覚めたばかりのアラベラは少し戸惑って、紅茶を二人分持ってくるようにと彼女に命じた。
 しかしそれにオスカーが横から口を挟む。

「どうせなら、四人…いや五人分用意した方がいいな。君の家族もまもなくやってくるだろうから」

 その言葉がアラベラの耳に届くと同時に、廊下を駆ける足音が複数聞こえる。
 真っ先に扉を開いたのは寝間着にふわふわとしたガウンを羽織ったディシアだった。

「アラベラ姉様、お元気ですかっ?!」

 汗だくの顔でふわふわしたウサギの縫いぐるみを抱えながらそう叫んだディシアに、アラベラはうっかり笑みを漏らしてしまう。
 ディシアは常に生命力に溢れていて無邪気で、見ていて微笑ましい。アラベラにとって大切な妹だ。
 それは常に変わらない筈なのに、随分久しぶりにそう感じた気がする。いや、気持ちだけではない。
 ディシアの顔を暫く見ていなかったような気持ちにアラベラはなっている。まるで一年ほど眠り続けていたように。

「わたくしは元気よディシア。貴女も元気そうで良かったわ」

 そう優雅に微笑む姉を見て良く似た顔の妹は涙をぼろぼろと零した。
 感情を表に出し過ぎるのは貴族令嬢として失格だが、この場でディシアを責める者は誰も居ない。

 アラベラは幼子を慈しむ母のように泣きじゃくるディシアを抱きしめた。
 そんな彼女の睫毛が僅かに濡れていることに気づいているのはオスカーだけだった。

 そしてディシアの嗚咽が治まった頃、扉の前で立ち続けていたイザークが姉妹に声をかけた。

「ディシア、そろそろ泣きやめ。いつまでも子供みたいではアラベラにもオスカー殿下にも呆れられるぞ」

 そう窘める彼も少しだけ鼻声気味なことをアラベラとオスカーは黙っておいてあげた。

 
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