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14.疑わしきは王太子

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「……は?」

 全く予想しなかった言葉にイザークがポカンとした表情で呟く。
 宗主国の王子に対しして良い反応では無かったがオスカーは愉快そうに笑った。

「なんだ、アンドリュース公爵邸には俺一人居候させる部屋も無いのか?」

 からかいを含んだ問いかけに赤髪の公爵令息は我に返った。

「いえ、そんなことばごさいません!ですが、オスカー殿下は王城に滞在されるのでは?」
「確かに部屋は用意されていたが、サディアスの剣幕と短慮を考えれば寝込みを襲われそうでな」

 そう言うとオスカーは舞踏会でのやり取りをイザークたちに聞かせた。
 サディアスがアラベラを足蹴にし婚約破棄を宣言したこと。
 そして縋る彼女にバルコニーから飛び降りろと冗談半分で命じたこと。
 自分たちの家族に対する余りに惨い所業の数々にアンドリュースの兄妹の頬は青褪め唇は怒りに戦慄いた。

「アラベラ姉様に対して何て酷い仕打ちを……絶対許しませんわ、サディアス殿下」
「……オスカー殿下、妹を助けて下さって本当に感謝しております」

 涙ぐむディシアにハンカチを差し出しながらイザークはオスカーに礼を言った。
 もしかしたら自分は今夜妹の亡骸を馬車に乗せて帰路につかなければいけなかったかもしれない。
 暗い表情でイザークは向かいの席を眺める。
 先程とは違い穏やかな表情で眠るアラベラを見て少しだけ顔色が良くなった。
 しかしオスカーが発した言葉にその表情は凍り付く。

「俺はアラベラ嬢に毒を盛ったのはあの馬鹿だと思っている」

 今のところはただの勘でしか無いがな。
 そうオスカーは付け足したが、自分の考えを疑う様子は無かった。

「そんな、どうしてサディアス殿下が……?」
「婚約破棄をしたいからだろう」

 ディシアの疑問にオスカーが答える。しかし公爵家の末妹は納得しなかった。

「そんな、婚約解消したいならその旨申し入れてくれればアンドリュース家は即承諾致しました!」 
「だろうな。だが奴が気にしたのは恐らくアンドリュース家以外だ」
「私たちの家以外……?」
「バイロン王は婚約解消に反対するだろう、だからサディアスは自分が悪者にならずアラベラ嬢を絶対妃に出来ない理由を作る必要があった」

 オスカーの言葉にイザークとディシアは悔し気に唇を噛んだ。

「だが、サディアスが好き放題出来ている状況を考えると若干疑問はあるがな」
「国王陛下は、流行り病に罹って以降体がすっかり弱くなられて……」

 イザークの言葉にオスカーはわざとらしく首を傾げる。

「病気を治すと評判の聖女が常に城にいるのにか?」

 宗主国の王子の疑問にアンドリュース公爵令息は僅かに困惑を滲ませた声で返した。

「病を癒してもすぐ別の病に罹るという話です、なので外に出ることも人と会う事も出来ないと……」
「ふむ……それで現在はサディアスが国王気取りということか」
「政治に関して詳しくないからか、そこまで口出しをされていないのが唯一の救いのようですが……」
「だが奴があのまま王になればナヴィス国は確実に乱れ衰えるだろう。他国への亡命者が激増しそうだな」

 オスカーの言葉にイザークは静かに頷いた。


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