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4.オスカーの提案

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「貴様がこの場で起こした愚行の数々を俺はヴェルデンの王に報告する、覚悟しろ」
「駄目だ! そっ、それだけはお止めください!」

 まるで親に甘える子供の用にサディアスは両手を組み懇願する。
 二十歳の地位ある人間が行うには余りにも幼稚な仕草をオスカーは鼻で笑った。
 そして冷たい笑みを浮かべたまま言葉を発する。

「嫌ならここから飛び降りろ」
「……は?」
「それで無事だったなら父には黙っておいてやる」 

 バルコニーから冷たい風が室内へ入り込む。
 オスカーの背後には漆黒の闇があった。
 けれどサディアスはその闇が己を優しく抱きとめてくれないことを知っている。
 下は庭園だが、三階から落ちて無事でいられる筈が無い。

「そんなことをしたら死んでしまう!私の命を何だと思っているんだ!」

 身分差を忘れ抗議するサディアスを前にオスカーの瞳がゆっくりと眇められる。
 偽りの笑みを消した唇は紛れもない怒りを吐き出した。

「俺の提案は貴様が婚約者に命じたものと全く同じものだ、貴様こそアンドリュース公爵令嬢の命を何だと思っている」

 オスカーは声を荒げたりはしない。
 しかしサディアスは己が怒り狂う獣の前に投げ出されたような気持ちになった。
 相手の言い分はわかる。けれど納得は出来ない。

「わっ、私の命とアラベラの命の価値は同じではない!」

 見苦しい本音を正論のように吐き出しナヴィスの王太子はゼェゼェと息を吐いた。
 当然オスカーがその主張に頷くことは無い。

「王族とは貴族や民を統べる者であって、貴族や民を弄ぶ者ではない。それが貴様の父の口癖だった」

 今はそんな話も出来ない程弱っているようだが。
 そうオスカーは溜息を吐く。
 現ナヴィス国王でサディアスの実父であるバイロンは今年六十歳になる。
 一年前に流行り病に罹り危篤に陥った。それが聖女エミリの薬で完治した後も体調不良が続いている。
 元々体が丈夫でなかったことに加え、大病で消耗した体力が戻らず執務に疲れては頻繁に床に臥すようになった。
 弱った体は感染症にも罹りやすくなっている為、現在は人に会う事も避けていると噂になっていた。

「保護者の目がなければすぐ調子に乗り悪さを始める、図体ばかりでかい邪悪な子供、それが今の貴様だ」
「いっ、言わせておけば……」

 容赦無いオスカーの言葉にサディアスの青い目に隠し切れない憎悪が宿る。
 その手が自らの腰に無意識に触れた。
 自らの愛剣を探しているのだと気付いた者は少数だった。
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