3 / 3
余話・ある男の末路
しおりを挟む
こんな筈では無かったと思う。
三十近くなるのに一切妊娠しない出来損ないの妻を捨て若い娘と可愛い子供とやり直すつもりだった。
しかしシェリルが産んだのは私たちとは全く似ていない髪と目の子供。
曾祖父が同じ髪色だったと言われ子爵家に確認したところシェリルはそもそも娘と認識されていなかった。
彼女を赤子ごと追い出し再度結婚相手を探す為社交を始めた私は嘲笑に迎えられた。
「三十過ぎて十代の娘に騙された情けない男爵」
「十年尽くした妻を捨てた人でなし」
「不妊だと言いふらしたのに、元男爵夫人は再婚してすぐ妊娠した」
「子供がつくれないのは、自分が原因だった癖に」
散々に言われ、貴族の娘は私に全く寄り付かなくなった。
母が縁談を探しても下級貴族からも断られる始末。
「お前が出来損ないだから!」
ヒステリックに叫ばれ叩かれる日々に子供時代を思い出す。
そうだ、父だけでない。母だって俺に厳しかった。
レティシアと結婚した十年の間ですっかり忘れていた。
「お前のせいで私まで嫁を甚振る人でなしと言われたわ!」
「あの女が隠し事をしたのが悪いのに!」
「いいえ、お前が種なしなのが一番悪いのよ!」
悪魔のような母から逃げ、自室に閉じこもる。
改めてレティシアが、あの母から自分を守ってくれていたのだと気付いた。
「レティシア……優しい君なら、俺を許してくれるだろう」
そう呟き、彼女が再婚した伯爵家に会いに行った。
しかし何度も何度も訪れても決してレティシアに会うことは出来なかった。
ある日、セドリック伯爵が門の前に出て来て私に告げた。
「アルノー男爵、いや元男爵だな。君は十年もレティシアに甘え守られて来た。しかし守ろうとしたことはあったのか」
「そ、それは……」
「無いだろう。レティシアは私の妻だ。君が求めている母親にはなれない」
「……母親?」
不思議なことを言われ聞き返す。伯爵は気づいていなかったのかと憐れむように言った。
「君はレティシアに母親の役割を求めた。甘やかし優しく自分を守ってくれる存在であれと願った」
「お、俺は……」
「だから簡単に裏切ることが出来たのだろう、いい加減母離れしたまえ。色々な意味でも」
そう溜息とともに言われ、俺は伯爵家から遠く離れた場所に守衛によって放り出される。
俺が欲しかったのは理想の母で、でもレティシアはもう俺のものではない。
「レ、レティシア……ううーっ」
泣きながら家まで帰る。
その数日後、実母に役立たずと叫ばれ殴り倒した俺は精神病と判断され、田舎へと送還された。
俺はその時初めて自分が既に男爵で無くなっていたことに気付いた。
三十近くなるのに一切妊娠しない出来損ないの妻を捨て若い娘と可愛い子供とやり直すつもりだった。
しかしシェリルが産んだのは私たちとは全く似ていない髪と目の子供。
曾祖父が同じ髪色だったと言われ子爵家に確認したところシェリルはそもそも娘と認識されていなかった。
彼女を赤子ごと追い出し再度結婚相手を探す為社交を始めた私は嘲笑に迎えられた。
「三十過ぎて十代の娘に騙された情けない男爵」
「十年尽くした妻を捨てた人でなし」
「不妊だと言いふらしたのに、元男爵夫人は再婚してすぐ妊娠した」
「子供がつくれないのは、自分が原因だった癖に」
散々に言われ、貴族の娘は私に全く寄り付かなくなった。
母が縁談を探しても下級貴族からも断られる始末。
「お前が出来損ないだから!」
ヒステリックに叫ばれ叩かれる日々に子供時代を思い出す。
そうだ、父だけでない。母だって俺に厳しかった。
レティシアと結婚した十年の間ですっかり忘れていた。
「お前のせいで私まで嫁を甚振る人でなしと言われたわ!」
「あの女が隠し事をしたのが悪いのに!」
「いいえ、お前が種なしなのが一番悪いのよ!」
悪魔のような母から逃げ、自室に閉じこもる。
改めてレティシアが、あの母から自分を守ってくれていたのだと気付いた。
「レティシア……優しい君なら、俺を許してくれるだろう」
そう呟き、彼女が再婚した伯爵家に会いに行った。
しかし何度も何度も訪れても決してレティシアに会うことは出来なかった。
ある日、セドリック伯爵が門の前に出て来て私に告げた。
「アルノー男爵、いや元男爵だな。君は十年もレティシアに甘え守られて来た。しかし守ろうとしたことはあったのか」
「そ、それは……」
「無いだろう。レティシアは私の妻だ。君が求めている母親にはなれない」
「……母親?」
不思議なことを言われ聞き返す。伯爵は気づいていなかったのかと憐れむように言った。
「君はレティシアに母親の役割を求めた。甘やかし優しく自分を守ってくれる存在であれと願った」
「お、俺は……」
「だから簡単に裏切ることが出来たのだろう、いい加減母離れしたまえ。色々な意味でも」
そう溜息とともに言われ、俺は伯爵家から遠く離れた場所に守衛によって放り出される。
俺が欲しかったのは理想の母で、でもレティシアはもう俺のものではない。
「レ、レティシア……ううーっ」
泣きながら家まで帰る。
その数日後、実母に役立たずと叫ばれ殴り倒した俺は精神病と判断され、田舎へと送還された。
俺はその時初めて自分が既に男爵で無くなっていたことに気付いた。
576
お気に入りに追加
137
この作品の感想を投稿する
みんなの感想(1件)
あなたにおすすめの小説
陛下から一年以内に世継ぎが生まれなければ王子と離縁するように言い渡されました
夢見 歩
恋愛
「そなたが1年以内に懐妊しない場合、
そなたとサミュエルは離縁をし
サミュエルは新しい妃を迎えて
世継ぎを作ることとする。」
陛下が夫に出すという条件を
事前に聞かされた事により
わたくしの心は粉々に砕けました。
わたくしを愛していないあなたに対して
わたくしが出来ることは〇〇だけです…
婚約者だと思っていた人に「俺が望んだことじゃない」と言われました。大好きだから、解放してあげようと思います
kieiku
恋愛
サリは商会の一人娘で、ジークと結婚して商会を継ぐと信じて頑張っていた。
でも近ごろのジークは非協力的で、結婚について聞いたら「俺が望んだことじゃない」と言われてしまった。
サリはたくさん泣いたあとで、ジークをずっと付き合わせてしまったことを反省し、解放してあげることにした。
ひとりで商会を継ぐことを決めたサリだったが、新たな申し出が……
わたくしは、すでに離婚を告げました。撤回は致しません
絹乃
恋愛
ユリアーナは夫である伯爵のブレフトから、完全に無視されていた。ブレフトの愛人であるメイドからの嫌がらせも、むしろメイドの肩を持つ始末だ。生来のセンスの良さから、ユリアーナには調度品や服の見立ての依頼がひっきりなしに来る。その収入すらも、ブレフトは奪おうとする。ユリアーナの上品さ、審美眼、それらが何よりも価値あるものだと愚かなブレフトは気づかない。伯爵家という檻に閉じ込められたユリアーナを救ったのは、幼なじみのレオンだった。ユリアーナに離婚を告げられたブレフトは、ようやく妻が素晴らしい女性であったと気づく。けれど、もう遅かった。
(完)イケメン侯爵嫡男様は、妹と間違えて私に告白したらしいー婚約解消ですか?嬉しいです!
青空一夏
恋愛
私は学園でも女生徒に憧れられているアール・シュトン候爵嫡男様に告白されました。
図書館でいきなり『愛している』と言われた私ですが、妹と勘違いされたようです?
全5話。ゆるふわ。
義妹と一緒になり邪魔者扱いしてきた婚約者は…私の家出により、罰を受ける事になりました。
coco
恋愛
可愛い義妹と一緒になり、私を邪魔者扱いする婚約者。
耐えきれなくなった私は、ついに家出を決意するが…?
駆け落ち後、後悔して元婚約者とよりを戻そうとしたが、自分だとわかって貰えなかった男の話
kieiku
恋愛
「愛した人の顔を忘れるはずがありません。あなたはザーシュとは似ても似つかない」
「そ、それはマリアに騙されて平民以下の暮らしをさせられたから!」
「そこが一番おかしいわ。ザーシュはマリアさんと真実の愛で結ばれていたの。たとえマリアさんが誰にでもわかるような嘘をついても、ザーシュは騙されていた。あれこそ愛よ。マリアさんがどんなあばずれでも、卑怯者でも、顔以外いいところのない女性でも、ザーシュは全て受け入れて、真実の愛を捧げたの」
「なっ……!?」
形だけの妻ですので
hana
恋愛
結婚半年で夫のワルツは堂々と不倫をした。
相手は伯爵令嬢のアリアナ。
栗色の長い髪が印象的な、しかし狡猾そうな女性だった。
形だけの妻である私は黙認を強制されるが……
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
このユーザをミュートしますか?
※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。
まともに田舎に療養に出してくれる親戚がいて良かったですね元男爵。少なくとも実母からは離れられるでしょうし。
(親戚は多分男爵家の家督目当てとかでしょうけど、田舎で母子一緒にして殺傷沙汰とか起こされたら更に評判悪化するので2人共追い出すにしても分ける筈)