序盤でざまぁされる人望ゼロの無能リーダーに転生したので隠れチート主人公を追放せず可愛がったら、なぜか俺の方が英雄扱いされるようになっていた

砂礫レキ

文字の大きさ
上 下
127 / 131
エピローグ

121話 無意識の嘘

しおりを挟む
「国からね、洞窟の調査に騎士団が派遣されてくるみたい~」



 一応追われてる身だから、暫く街から離れるね。

 そうあっさりと別れを告げる性別不詳の美剣士に俺は何も言えなかった。



 狙ったのか偶然かはわからない。

 彼が俺たちのアジトを訪れた日、在宅していたのは珍しく俺一人だった。

 だからか旅支度のノアは遠慮なしに居間で寛ぎ持参したサンドイッチを食べ始める。

 茶の準備をして戻ってくると俺の分がテーブルの上に置かれていたので有難く頂戴した。



「村の住人が全員消えちゃったからね。しかも洞窟には魔族が住み着いていたとかさ~」

「そしてその魔族が冒険者を攫っていたからな」

「騎士団もきっとビックリだよね~」

 

 冒険者の集団誘拐事件に魔族が関与していたことは市町村単位で収束する事件では無かったらしい。

 冷静に考えれば当然だ。



「人間を大量に攫って魔物にするっていうのは成功すれば危険過ぎるからな」

「それに献身の灰教団も関わっている可能性があるしね~ギルド長が失踪したことは知ってるよね?」

「そりゃあ、あれだけ騒ぎになっていれば……」



 自警団団長が溺死してから間もなく街には更に事件が起こった。

 ギルド長が失踪したのだ。彼は現在も行方不明のままで幸か不幸か死体も見つかっていない。



 ギルド長は街を活動拠点にしていた冒険者たちが次々に消えたのにほぼ何も行動しなかった。

 冒険者たちへの積極的な注意喚起や情報の聞き取りも行わず、国への報告もしなかった。

 ギルドの職員の一部は個人判断で行っていたらしいが、それは良くも悪くも末端の独断だ。



 だからギルド長は責任を問われた。

 魔族による集団誘拐が判明したことで冒険者や住人達から無責任さを強く非難されたと聞く。

 俺は自分の療養の他にレックスを見守ったり自分のパーティー内を気にかけたりでそれどころではなかった。



「無責任というか……実はギルド長の机にある鍵付き引き出しから教団信者限定グッズが出てきたらしくてね~」

「グッズって言い方軽すぎでは?」

「それでね~具体的に言えばこう魔物と人の骨を削って血で彩色して組み合わせた奴で……」

「すみません、グッズについて詳しくは聞きたくないです」

「ちなみに人間の材料は自分や家族のものを使うらしいから捕まらないんだって。足の小指とかかな~」



 邪教の癖に小賢しいね。そう笑顔で言うノアが纏う空気は黒かった。

 献身の灰教団のことが本当に嫌いなんだろうなと思う。

 だが俺も胡散臭い上に血生臭そうなその組織を好きになる要素は今のところ無い。



 どちらかと言えばノアのように嫌悪する可能性の方が高かった。

 可能ならこれ以上関わり合いになりたくないものだが。



「しかもここの冒険者ギルドは半国営だから、国はアキツだけでなくこの街にも介入するだろうね~」

「それは別に構わないんですけど……あ」

「うん、私は構う。一応お尋ね者だからね~。……だから、君たちとも暫くお別れだ」

「……寂しくなるな」

「ふふ、気に入った人間に別れを惜しんでもらえるのはいつだって嬉しいものだね」



 優しく微笑むノアはすぐ思い出したといって懐から何かを取り出した。

 それは小さなお守り袋のようだった。



「これは……」

「危ない、最後まで渡し忘れるところだったよ~遅くなったけど、人魚の涙」



 手渡され反射的に受け取る。そう言えば彼にそんなことを頼んでいた。

 結局使うことはなかったが。



「大切なものだろうし、ノアには悪いけど早めにマルコに返しに行くよ」



 本来の持ち主である少年の顔を思い出し呟く。

 ノアはそれに賛成も反対もしなかった。

 ただ一つだけ質問をしてきた。



「そうだ、洞窟で竜には会ったかな?」

「えっ、竜には……会わなかったかな」



 彼の問いかけの理由も謎だったが自分がそれに嘘で答えた理由もわからない。

 ただ、そうしなきゃいけないような気がして戸惑っている内に言葉が出ていた。
しおりを挟む
感想 29

あなたにおすすめの小説

荷物持ちだけど最強です、空間魔法でラクラク発明

まったりー
ファンタジー
主人公はダンジョンに向かう冒険者の荷物を持つポーターと言う職業、その職業に必須の収納魔法を持っていないことで悲惨な毎日を過ごしていました。 そんなある時仕事中に前世の記憶がよみがえり、ステータスを確認するとユニークスキルを持っていました。 その中に前世で好きだったゲームに似た空間魔法があり街づくりを始めます、そしてそこから人生が思わぬ方向に変わります。

僕のギフトは規格外!?〜大好きなもふもふたちと異世界で品質開拓を始めます〜

犬社護
ファンタジー
5歳の誕生日、アキトは不思議な夢を見た。舞台は日本、自分は小学生6年生の子供、様々なシーンが走馬灯のように進んでいき、突然の交通事故で終幕となり、そこでの経験と知識の一部を引き継いだまま目を覚ます。それが前世の記憶で、自分が異世界へと転生していることに気付かないまま日常生活を送るある日、父親の職場見学のため、街中にある遺跡へと出かけ、そこで出会った貴族の幼女と話し合っている時に誘拐されてしまい、大ピンチ! 目隠しされ不安の中でどうしようかと思案していると、小さなもふもふ精霊-白虎が救いの手を差し伸べて、アキトの秘めたる力が解放される。 この小さき白虎との出会いにより、アキトの運命が思わぬ方向へと動き出す。 これは、アキトと訳ありモフモフたちの起こす品質開拓物語。

生活魔法しか使えない少年、浄化(クリーン)を極めて無双します(仮)(習作3)

田中寿郎
ファンタジー
壁しか見えない街(城郭都市)の中は嫌いだ。孤児院でイジメに遭い、無実の罪を着せられた幼い少年は、街を抜け出し、一人森の中で生きる事を選んだ。武器は生活魔法の浄化(クリーン)と乾燥(ドライ)。浄化と乾燥だけでも極めれば結構役に立ちますよ? コメントはたまに気まぐれに返す事がありますが、全レスは致しません。悪しからずご了承願います。 (あと、敬語が使えない呪いに掛かっているので言葉遣いに粗いところがあってもご容赦をw) 台本風(セリフの前に名前が入る)です、これに関しては助言は無用です、そういうスタイルだと思ってあきらめてください。 読みにくい、面白くないという方は、フォローを外してそっ閉じをお願いします。 (カクヨムにも投稿しております)

悪役貴族に転生したから破滅しないように努力するけど上手くいかない!~努力が足りない?なら足りるまで努力する~

蜂谷
ファンタジー
社畜の俺は気が付いたら知らない男の子になっていた。 情報をまとめるとどうやら子供の頃に見たアニメ、ロイヤルヒーローの序盤で出てきた悪役、レオス・ヴィダールの幼少期に転生してしまったようだ。 アニメ自体は子供の頃だったのでよく覚えていないが、なぜかこいつのことはよく覚えている。 物語の序盤で悪魔を召喚させ、学園をめちゃくちゃにする。 それを主人公たちが倒し、レオスは学園を追放される。 その後領地で幽閉に近い謹慎を受けていたのだが、悪魔教に目を付けられ攫われる。 そしてその体を魔改造されて終盤のボスとして主人公に立ちふさがる。 それもヒロインの聖魔法によって倒され、彼の人生の幕は閉じる。 これが、悪役転生ってことか。 特に描写はなかったけど、こいつも怠惰で堕落した生活を送っていたに違いない。 あの肥満体だ、運動もろくにしていないだろう。 これは努力すれば眠れる才能が開花し、死亡フラグを回避できるのでは? そう考えた俺は執事のカモールに頼み込み訓練を開始する。 偏った考えで領地を無駄に統治してる親を説得し、健全で善人な人生を歩もう。 一つ一つ努力していけば、きっと開かれる未来は輝いているに違いない。 そう思っていたんだけど、俺、弱くない? 希少属性である闇魔法に目覚めたのはよかったけど、攻撃力に乏しい。 剣術もそこそこ程度、全然達人のようにうまくならない。 おまけに俺はなにもしてないのに悪魔が召喚がされている!? 俺の前途多難な転生人生が始まったのだった。 ※カクヨム、なろうでも掲載しています。

異世界転生ファミリー

くろねこ教授
ファンタジー
辺境のとある家族。その一家には秘密があった?! 辺境の村に住む何の変哲もないマーティン一家。 アリス・マーティンは美人で料理が旨い主婦。 アーサーは元腕利きの冒険者、村の自警団のリーダー格で頼れる男。 長男のナイトはクールで賢い美少年。 ソフィアは産まれて一年の赤ん坊。 何の不思議もない家族と思われたが…… 彼等には実は他人に知られる訳にはいかない秘密があったのだ。

転生者は力を隠して荷役をしていたが、勇者パーティーに裏切られて生贄にされる。

克全
ファンタジー
第6回カクヨムWeb小説コンテスト中間選考通過作 「カクヨム」と「小説家になろう」にも投稿しています。 2020年11月4日「カクヨム」異世界ファンタジー部門日間ランキング51位 2020年11月4日「カクヨム」異世界ファンタジー部門週間ランキング52位

知識スキルで異世界らいふ

チョッキリ
ファンタジー
他の異世界の神様のやらかしで死んだ俺は、その神様の紹介で別の異世界に転生する事になった。地球の神様からもらった知識スキルを駆使して、異世界ライフ

病弱が転生 ~やっぱり体力は無いけれど知識だけは豊富です~

於田縫紀
ファンタジー
 ここは魔法がある世界。ただし各人がそれぞれ遺伝で受け継いだ魔法や日常生活に使える魔法を持っている。商家の次男に生まれた俺が受け継いだのは鑑定魔法、商売で使うにはいいが今一つさえない魔法だ。  しかし流行風邪で寝込んだ俺は前世の記憶を思い出す。病弱で病院からほとんど出る事無く日々を送っていた頃の記憶と、動けないかわりにネットや読書で知識を詰め込んだ知識を。  そしてある日、白い花を見て鑑定した事で、俺は前世の知識を使ってお金を稼げそうな事に気付いた。ならば今のぱっとしない暮らしをもっと豊かにしよう。俺は親友のシンハ君と挑戦を開始した。  対人戦闘ほぼ無し、知識チート系学園ものです。

処理中です...