序盤でざまぁされる人望ゼロの無能リーダーに転生したので隠れチート主人公を追放せず可愛がったら、なぜか俺の方が英雄扱いされるようになっていた

砂礫レキ

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第四章

113話 交われない嫉妬と羨望

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 ああ、プライドの高い人間って付き合いづらいな。

 激昂したオーリックに貫かれ、思ったのはそんなつまらないこと。

 彼がなぜそこまで怒るのか、結局俺には理解できなかった。


「ずっと底辺のお前にはわからなくて当然だけどな」


 そんな辛辣な言葉が唐突に投げかけられる。

 発言者は魔物になったオーリックではない。

 聞き覚えはあるけれど心当たりのない不思議な声。


「お前って本当馬鹿だよなァ」


 そう文字通り俺を嘲笑う男は、本物の方のアルヴァ・グレイブラッドだった。

 まっしろな空間に同じ身長と同じ顔をした男が二人。

 俺を散々殴った後ふらりと消えたきりだった彼が今目の前にいた。


「消えたも何もいきなりお前に取り込まれたんだよ」


 こちらの心を読んだような台詞に俺は驚く。

 しかしこういった経験は初めてではない。

 アルヴァに読心術の類が使える設定はないことと、俺に先程まで起こった事。

 そして彼の俺に取り込まれたという発言、これらをまとめて推測する。


「俺は今死にかけていて、そして俺の代わりに体を乗っ取ろうと……して痛ッ!」

「そもそもお前が俺の体を乗っ取ってンだよカス!」


 アルヴァに思い切り殴られて悶絶する。

 冷静に考えれば殴られて当然の発言だった気もする。 


「お前上の人間から苛められるのわかるわ、そういうところが苛々するんだよ」


 そりゃオーリックのクソボケもブチ切れるわ。そう云いながら赤毛の青年は溜息を吐いた。

 俺にはないが彼にはあの金級剣士に対して思い入れがあるらしい。


「あるに決まってんだろ。同い年で同時期に試験受けてあいつだけどんどん上に行くんだぞ」


 死ねばいいのにって何回思ったか。

 理不尽過ぎる理由だが、少しは共感出来るのが悲しい。

 俺の場合は追い越されるのに慣れすぎていちいち腹を立てることもしなくなったが。


「あいつのせいでクソガキが魔力使いまくって、そのせいで俺も存在できなくなっちまった」


 だからお前の中に戻る羽目になったんだ。床に唾を吐いてアルヴァが言う。

 つまりここは俺の精神世界みたいなものか。唾を吐くのはやめて欲しかった。

 確かに少女のクロノが強化を使った影響で青年クロノは自分が弱体化したと言っていた。

 気づかない内に目の前の青年もその余波を受けていたということか。

 それぞれクロノと俺の精神の一部だ。特に彼は知らない内に完全に消えていたかもしれない。

 そう考えると俺が死にかけたことで再会できたのも意味があるのかもしれない。

 
「気持ち悪いこと言うんじゃねぇよ」


 考えただけで一言も口に出してないのに殴られた。理不尽だ。


「しかしオーリックの野郎、むかつく奴だったがまさかあんなに情けないとはな」


 金級になれない俺をずっと見下していた癖に。苦々しい表情でアルヴァは言う。

 それを俺は意外に感じた。

 目の上のタンコブ、自分がなりたい位置に当たり前のように居続ける人間。

 ざまあみろと舌を出して喜ぶまではいかなくても痛快に感じるかと思ったのに。

 こちらの考えを読んだのか彼は表情を変えて俺を見た。


「お前、俺より性格悪いな」

「……そうかもしれない」


 微妙な哀れみさえ浮かべてアルヴァが言う。

 いっそ殴られた方が気分的にはマシだったかもしれない。

 成功体験がほぼ皆無のまま死んだ俺はオーリックの挫折にびっくりする程共感出来なかった。

 でも目の前の赤毛の青年は違ったらしい。


 よく考えれば当たり前だ。彼だって銀級という上級の冒険者なのだから。

 しかも二十代後半の年齢で冒険者パーティーのリーダーをやっている。

 更に仲間との共同名義とはいえ一軒家も持っているのだ。ついでに背も高く顔も良い。

 俺の人生と比べたら成功しまくりである。



「お前本当に惨めな奴だな」


 こちらの考えが読めるアルヴァにしみじみと言われる。

 嘲りでも罵倒でもない、ただの感想だとわかる。猶更辛い。


「……でも俺の体をお前が乗っ取ってからの方が、俺は必要とされてるんだよな」

「えっ」

「腹立つな」


 そう奇妙な穏やかさでアルヴァ・グレイブラッドは言う。

 自分よりも必要とされていると彼は俺に言った。

 それが事実かはわからない。

 ただそう考えてしまうのはきっと苦しい。

 母が俺に見向きもせず弟だけを可愛がり求め続けたことを思い出す。

 そして俺は再度アルヴァに殴られた。


「俺様とお前を一緒にするんじゃねぇよ。全然事情が違うだろうが」

「ご、ごめん……」

「俺は俺だけが大切だ。他人の役に立とうと考えたことなんて一度もないしも媚びるのも絶対嫌だった」


 そんな人間が能力以外で周囲に求められると思うか?

 赤毛の青年に尋ねられ俺は肯定も否定も出来なかった。


「自分より強い奴も弱い奴も嫌いだ。一番嫌いなのは俺よりもガキの癖に俺よりも強くなりそうな奴だ」

「それって……」

「でもあいつをいたぶって追い出すより利用して慕われた方が、俺の名は世間に知れ渡ったんだろうな」


 英雄や勇者と呼ばれるようになったクロノの師匠として、高名を残せたかもしれない。

 アルヴァの言葉に俺は前世で読んだ沢山の漫画や小説を思い出す。そして頷いた。

 そういったポジションのキャラは出番が少なくても印象に残り読者からも好かれやすい。


「でも俺には絶対無理だ」

「アルヴァ……」

「気づかない振りをしていたがクロノにずっと嫉妬し続けていた。正直あいつの若さと才能が憎い」


 育て導くよりも潰したくて目の前から消したくて仕方がなくなる。

 その隠すことのない本音に彼に対して警戒心を抱いた。

 たとえ本物のアルヴァが相手でもクロノを傷つけさせたりはしない。

 だが彼が続けて口にした言葉はそれまでとは真逆のものだった。


「だからお前がアルヴァ・グレイブラッドとしてクロノ・ナイトレイを英雄に育て上げろ、その代わりに……」


 俺が今ここでお前の身代わりに死んでやる。

 彼はそういうと俺の腹を思いきり殴った。
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