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第四章
109話オーリック・アドンという男(下)
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赤毛の髪をした目つきの悪い男のことは以前から知っていた。
彼はオーリックと同時期に冒険者試験を受け、そしてオーリックとは違い高みに上れなかった人間だ。
決して金級にはなれない、万年銀級冒険者。それがアルヴァ・グレイブラッドだった。
オーリックは試験会場で彼の剣技を見たことがある。
実戦重視といえば言葉はいいが全く洗練されていなかった。
戦っている姿に美しさがない。目の前にいる敵を倒せばいいという浅い戦い方だった。
動きにも無駄がありすぎる。それなのに銀級までは来られたのは身体能力と剣才に恵まれていたからだろう。
だからこそオーリックは彼を憐れみ、そして無意識に嘲笑った。
自分と異なり、剣についてまともな教育を受けなかった男を。
裕福な家と理解ある父に支えられ二人の師に学んだオーリックとは大違いだった。
しかしパーティーに誘った二人の美女はそんなオーリックよりも失敗作のアルヴァを優先した。
それは有り得ない程おかしく理に合わない事実だった。だから熱を出したのだ。
しかしエウレアに看病され続け健康な体を取り戻したオーリックは思った。
よく考えればミアンもエストも外見が良いだけで、問題ありの冒険者だ。
趣味が悪く正しい判断ができないのも仕方ないだろう。そしてそんな人間は自分には必要ない。
そう結論付けたオーリックの心から敗北感は消え去っていた。
そして金級に上がれない苛立ちから生活がどんどん荒れていくアルヴァの様子をすると胸が爽やかな気持ちになった。
身寄りの無い少年を拾いパーティー内で奴隷のように酷使しているという噂が聞こえ始め、アルヴァや灰色の鷹団の評判が落ち始めると益々心地良くなった。
その子供が街中で使い走りをしている光景をオーリックは幾度も見かけた。
ボロボロの服と手入れされていない黒髪。しかし顔は整っていて動きは人並外れて俊敏だった。
雑用係で終わらせるのは勿体ない才能をオーリックは見抜いていたが、女性ではなかったので自らのパーティーに招くことはなかった。
けれどエウレアとサリア以外にも後一人ぐらいは美女を仲間にしたい。
そんな欲望を抱え続けていたところ、ニュンペーという美しい女魔物使いが現れた。
彼女を紹介してきたのは意外なことに自警団の団長だった。
彼は有名な冒険者と縁を作りたいらしくオーリックに話しかけてきたのだ。
元冒険者で副団長のトマスの人望に嫉妬しているのだとエウレアが陰で教えてくれた。
弱い人間だと思ったが見る目はあると思った。
オーリックを頼ったこと事態は賢い。
そしてニュンペーという美女をオーリックに託す判断をした事もだ。
彼女は別の街からローレルの街に来たばかりで、身を寄せる団を探しているという話だった。
オーリックは快く彼女を新しい仲間にした。
それからの日々は冒険よりも新参の彼女に散策がてら街を案内したり、部屋で睦み合ったりした。
結果オーリックを深く信頼するようになった彼女が秘密を打ち明けてくれたのは少し前のこと。
「この街の近くに伝説の剣を封じた洞窟があると祖父が言っていたのです。好奇心でそれを探しに来たのだけれど……」
もし本当にあるなら素晴らしい剣士である貴男が身に着けるのが一番良いわ。
彼女は美しい紫の瞳で微笑みながらオーリックに甘く接吻けた。
その結果がこれだ。
洞窟内の奇妙な大穴がある部屋に到達した途端ニュンペーは本性を曝け出しオーリックたちは拉致された。
でも、悪いのはオーリックではない。騙したニュンペーが悪いのだ。
それに同じように捕らわれた人間は大勢いる。ならオーリックが特別間抜けということではない。
なのに同じように無様に捕らわれたアルヴァが、自分より格下の評判の悪い男がリーダーを気取るのは異常だった。
そしてオーリックの仲間で彼に従うべきエウレアもサリアも、何故かその男に自ら近寄り指示を待っている。
これも魔族が見せる悪夢なのだろうか。オーリックを惨めにさせるための。
なら諸悪の根源であるアルヴァを屈服させればいい。
しかしそうしようとしたら小柄な少年が横入してきて吹き飛ばされた。
アルヴァのところで使い走りをしていた子供だ。虐められているという話だったのに妙に彼へ懐いている。
身の程知らずの狂犬を排除するつもりだった。
でも金級剣士の自分が雑用係の子供に無様に倒されるという最悪な結果が訪れた。
死んでしまいたい、殺してしまいたい、悪夢なら覚めてほしい。何を引き換えにしてもいいから。
屈辱が絶望を呼び、絶望の暗がりから憎悪がわいてくる。
寝転がったままの自分を他の冒険者たちが見下ろして嘲笑っている。殺したい。
「こいつら、全員殺してやる。アルヴァも、ころス」
口からもれた言葉に、オーリックを看病していたエウレアが目を見開きそして溜息を尽いた。
「もう貴男とはやっていけない。街に戻ったらパーティーを解消しましょう」
「エウレア……?」
「元々仲間になったのは父が貴男のお父さまに借金をしていたから。でもそれも私が返すことにするわ」
金額が大きいから迷っていたけれどやっと決心できた。
そうどこか清々した表情で離れていこうとするエウレアの手首を無意識に掴んだ。
アルヴァ・グレイブラッドの元へ行くなんて許さない。
彼女が痛みに悲鳴を上げる。
だが、そんなものではない。自分の感じた苦痛は。
彼女から、アルヴァから、この場にいる全員からオーリックが受けた絶望はこんなものではないのだ。
火に投げ入れた栗が唐突に弾けるように金級冒険者は魔物になった。
彼はオーリックと同時期に冒険者試験を受け、そしてオーリックとは違い高みに上れなかった人間だ。
決して金級にはなれない、万年銀級冒険者。それがアルヴァ・グレイブラッドだった。
オーリックは試験会場で彼の剣技を見たことがある。
実戦重視といえば言葉はいいが全く洗練されていなかった。
戦っている姿に美しさがない。目の前にいる敵を倒せばいいという浅い戦い方だった。
動きにも無駄がありすぎる。それなのに銀級までは来られたのは身体能力と剣才に恵まれていたからだろう。
だからこそオーリックは彼を憐れみ、そして無意識に嘲笑った。
自分と異なり、剣についてまともな教育を受けなかった男を。
裕福な家と理解ある父に支えられ二人の師に学んだオーリックとは大違いだった。
しかしパーティーに誘った二人の美女はそんなオーリックよりも失敗作のアルヴァを優先した。
それは有り得ない程おかしく理に合わない事実だった。だから熱を出したのだ。
しかしエウレアに看病され続け健康な体を取り戻したオーリックは思った。
よく考えればミアンもエストも外見が良いだけで、問題ありの冒険者だ。
趣味が悪く正しい判断ができないのも仕方ないだろう。そしてそんな人間は自分には必要ない。
そう結論付けたオーリックの心から敗北感は消え去っていた。
そして金級に上がれない苛立ちから生活がどんどん荒れていくアルヴァの様子をすると胸が爽やかな気持ちになった。
身寄りの無い少年を拾いパーティー内で奴隷のように酷使しているという噂が聞こえ始め、アルヴァや灰色の鷹団の評判が落ち始めると益々心地良くなった。
その子供が街中で使い走りをしている光景をオーリックは幾度も見かけた。
ボロボロの服と手入れされていない黒髪。しかし顔は整っていて動きは人並外れて俊敏だった。
雑用係で終わらせるのは勿体ない才能をオーリックは見抜いていたが、女性ではなかったので自らのパーティーに招くことはなかった。
けれどエウレアとサリア以外にも後一人ぐらいは美女を仲間にしたい。
そんな欲望を抱え続けていたところ、ニュンペーという美しい女魔物使いが現れた。
彼女を紹介してきたのは意外なことに自警団の団長だった。
彼は有名な冒険者と縁を作りたいらしくオーリックに話しかけてきたのだ。
元冒険者で副団長のトマスの人望に嫉妬しているのだとエウレアが陰で教えてくれた。
弱い人間だと思ったが見る目はあると思った。
オーリックを頼ったこと事態は賢い。
そしてニュンペーという美女をオーリックに託す判断をした事もだ。
彼女は別の街からローレルの街に来たばかりで、身を寄せる団を探しているという話だった。
オーリックは快く彼女を新しい仲間にした。
それからの日々は冒険よりも新参の彼女に散策がてら街を案内したり、部屋で睦み合ったりした。
結果オーリックを深く信頼するようになった彼女が秘密を打ち明けてくれたのは少し前のこと。
「この街の近くに伝説の剣を封じた洞窟があると祖父が言っていたのです。好奇心でそれを探しに来たのだけれど……」
もし本当にあるなら素晴らしい剣士である貴男が身に着けるのが一番良いわ。
彼女は美しい紫の瞳で微笑みながらオーリックに甘く接吻けた。
その結果がこれだ。
洞窟内の奇妙な大穴がある部屋に到達した途端ニュンペーは本性を曝け出しオーリックたちは拉致された。
でも、悪いのはオーリックではない。騙したニュンペーが悪いのだ。
それに同じように捕らわれた人間は大勢いる。ならオーリックが特別間抜けということではない。
なのに同じように無様に捕らわれたアルヴァが、自分より格下の評判の悪い男がリーダーを気取るのは異常だった。
そしてオーリックの仲間で彼に従うべきエウレアもサリアも、何故かその男に自ら近寄り指示を待っている。
これも魔族が見せる悪夢なのだろうか。オーリックを惨めにさせるための。
なら諸悪の根源であるアルヴァを屈服させればいい。
しかしそうしようとしたら小柄な少年が横入してきて吹き飛ばされた。
アルヴァのところで使い走りをしていた子供だ。虐められているという話だったのに妙に彼へ懐いている。
身の程知らずの狂犬を排除するつもりだった。
でも金級剣士の自分が雑用係の子供に無様に倒されるという最悪な結果が訪れた。
死んでしまいたい、殺してしまいたい、悪夢なら覚めてほしい。何を引き換えにしてもいいから。
屈辱が絶望を呼び、絶望の暗がりから憎悪がわいてくる。
寝転がったままの自分を他の冒険者たちが見下ろして嘲笑っている。殺したい。
「こいつら、全員殺してやる。アルヴァも、ころス」
口からもれた言葉に、オーリックを看病していたエウレアが目を見開きそして溜息を尽いた。
「もう貴男とはやっていけない。街に戻ったらパーティーを解消しましょう」
「エウレア……?」
「元々仲間になったのは父が貴男のお父さまに借金をしていたから。でもそれも私が返すことにするわ」
金額が大きいから迷っていたけれどやっと決心できた。
そうどこか清々した表情で離れていこうとするエウレアの手首を無意識に掴んだ。
アルヴァ・グレイブラッドの元へ行くなんて許さない。
彼女が痛みに悲鳴を上げる。
だが、そんなものではない。自分の感じた苦痛は。
彼女から、アルヴァから、この場にいる全員からオーリックが受けた絶望はこんなものではないのだ。
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