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第四章
108話 オーリック・アドンという男(上)
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オーリック・アドンは裕福な商人の三男坊として生まれた。
従業員が十人いる本店と、三つの街に支店を持つ父親に彼は末っ子として溺愛され続けた。
母も父もそして従業員たちもオーリックを可愛がってくれた。
金に困ることは全くなく何より家族全員が自分を愛してくれる家庭。
そんなものをオーリックは生まれながらに持っていた。
彼は特別賢くは無かったが、周囲の愛情を受け朗らかでまっすぐに育った。
兄二人のように商才や事務仕事には全く向いていなかったが、それを咎める家族はいなかった。
家業は兄二人とその家族が継げばいい。
オーリックはその手伝いをしてもいいし、やりたい仕事に就いてもいい。
その為の支援なら幾らでもしてやる。
彼の父親はそう考えていて、反対者はいなかった。
そして成長とともにオーリックの体は屈強さを持ち始めていた。
同年代の少年よりも高い背と、厚みを持ち始めた肩幅と胸筋。
鍛えれば鍛えるだけ筋肉はついた。
頭で考えるより体を動かす方が向いている。
オーリック自身もその家族もそう認識した。
その上で人から尊敬される立場になりたい。
少年オーリックは絶対に有名な冒険者になろうと決断した。
なるなら物語の花形である剣士がいい。
なのに騎士団ではなく冒険者を目指したのは、騎士団の厳格な規律と何より上官という存在を嫌がったからだ。
人に命令されるのは気に食わない。
豪商の末っ子として無責任に溺愛されきった故の傲慢さだった。
オーリックの父は彼に剣の教師を二人付けた。
それぞれ騎士団と金級冒険者を引退したばかりの人間だ。
正規と実践、どちらの剣術も知っておいた方がいいだろう。そういった考えからだった。
オーリックは二人の指導の下で剣士としての実力を淀みなく身に着けていく。
実戦に出ていいと二人から許可が出た後は父が手配した金級冒険者のパーティーと組み数年程過ごした。
その間、大して怒られもせず嫌な思いもしなかったのは父が冒険者たちに愛息子のおもり代を払っていたからだ。
オーリックはその事実を知らないが知っても平然と受け入れただろう。
自分自身が恵まれているのは当然のことなのだから。
そして成人に近い年齢になった時、独立しようと決心する。
当然父にそのことを話すと彼は豪商という地位とツテを使い美しい女魔術師を息子に斡旋した。
「はじめまして、オーリック様。私はエウレアと申します」
「オーリックでいいよ、エウレア。外見も名前も美しいね。気に入ったよ」
彼女はオーリックの慈悲深い言葉に口元だけで微笑んだ。
それからも順風満帆だった。
父からの支援があるから割の合わない汚れ仕事はする必要がなかった。
したい依頼だけを選べばいい。
駆け出し冒険者の頃でも実家の援助があるので睡眠も栄養も十分に摂れていた。
依頼を受けること自体少なかったから遊び時間以外に鍛錬する時間は潤沢にあった。
そして鍛えれば鍛えるほどオーリックは強くなったのだ。
拍子抜けするぐらいの容易さで銀級、金級と冒険者としての位は上がっていった。
エウレアも同じように職業を賢者にレベルアップさせ金級の地位を得ていた。
オーリックはそれなりの年になったら優秀で美しい彼女に自分の子を産ませようと考えていた。
ただ、まだその時ではない。そして美女はエウレアだけではない。
金級冒険者となったオーリックには新たな目標があった。
自分以外全員優秀な美女のパーティーを結成することである。
ソロで活動していたサリアという女アーチャーを雇い入れた。
小柄で愛くるしい顔立ちをしていてよく笑い、そして背丈の割に豊満な胸部をしていた。
単体で見れば凄い美女ではなかったが、エウレアと正反対の魅力を有しているところが気に入った。
女性冒険者は全員自分のサポート役でいい。オーリックは当たり前のようにそう考えていた。
続いて選択肢に入ったのはミアン・クローベルという女魔術師とエストという女治癒士。
どちらもローレルの街では少し名と顔を知られていた。良い意味でも悪い意味でもだ。
炎魔術が得意だが我儘で気の強すぎるミアン。
信仰心が強過ぎて見返りを求めないエスト。
職業冒険者として向いてない特徴を持つ二人だが能力と美貌だけは酒場の男連中も否定しなかった。
金には困ってないからエストの悪癖は大した問題ではない。
気難しいミアンの管理は同性であるエウレアにさせればいい。
そう考えオーリックは二人を口説こうとした。
そしてあっさりと振られた。
「もう別の男がリーダーのパーティーに加入しているから」と。
オーリックがアルヴァ・グレイブラッドの存在を強く認識したのはその時が初めてだった。
ついでに誰かに自分の好意を拒まれたのも初めての出来事だ。
オーリックはそれから一週間熱を出して寝込んだ。
エウレアはそんな彼を看病しながら溜息を吐いていた。
従業員が十人いる本店と、三つの街に支店を持つ父親に彼は末っ子として溺愛され続けた。
母も父もそして従業員たちもオーリックを可愛がってくれた。
金に困ることは全くなく何より家族全員が自分を愛してくれる家庭。
そんなものをオーリックは生まれながらに持っていた。
彼は特別賢くは無かったが、周囲の愛情を受け朗らかでまっすぐに育った。
兄二人のように商才や事務仕事には全く向いていなかったが、それを咎める家族はいなかった。
家業は兄二人とその家族が継げばいい。
オーリックはその手伝いをしてもいいし、やりたい仕事に就いてもいい。
その為の支援なら幾らでもしてやる。
彼の父親はそう考えていて、反対者はいなかった。
そして成長とともにオーリックの体は屈強さを持ち始めていた。
同年代の少年よりも高い背と、厚みを持ち始めた肩幅と胸筋。
鍛えれば鍛えるだけ筋肉はついた。
頭で考えるより体を動かす方が向いている。
オーリック自身もその家族もそう認識した。
その上で人から尊敬される立場になりたい。
少年オーリックは絶対に有名な冒険者になろうと決断した。
なるなら物語の花形である剣士がいい。
なのに騎士団ではなく冒険者を目指したのは、騎士団の厳格な規律と何より上官という存在を嫌がったからだ。
人に命令されるのは気に食わない。
豪商の末っ子として無責任に溺愛されきった故の傲慢さだった。
オーリックの父は彼に剣の教師を二人付けた。
それぞれ騎士団と金級冒険者を引退したばかりの人間だ。
正規と実践、どちらの剣術も知っておいた方がいいだろう。そういった考えからだった。
オーリックは二人の指導の下で剣士としての実力を淀みなく身に着けていく。
実戦に出ていいと二人から許可が出た後は父が手配した金級冒険者のパーティーと組み数年程過ごした。
その間、大して怒られもせず嫌な思いもしなかったのは父が冒険者たちに愛息子のおもり代を払っていたからだ。
オーリックはその事実を知らないが知っても平然と受け入れただろう。
自分自身が恵まれているのは当然のことなのだから。
そして成人に近い年齢になった時、独立しようと決心する。
当然父にそのことを話すと彼は豪商という地位とツテを使い美しい女魔術師を息子に斡旋した。
「はじめまして、オーリック様。私はエウレアと申します」
「オーリックでいいよ、エウレア。外見も名前も美しいね。気に入ったよ」
彼女はオーリックの慈悲深い言葉に口元だけで微笑んだ。
それからも順風満帆だった。
父からの支援があるから割の合わない汚れ仕事はする必要がなかった。
したい依頼だけを選べばいい。
駆け出し冒険者の頃でも実家の援助があるので睡眠も栄養も十分に摂れていた。
依頼を受けること自体少なかったから遊び時間以外に鍛錬する時間は潤沢にあった。
そして鍛えれば鍛えるほどオーリックは強くなったのだ。
拍子抜けするぐらいの容易さで銀級、金級と冒険者としての位は上がっていった。
エウレアも同じように職業を賢者にレベルアップさせ金級の地位を得ていた。
オーリックはそれなりの年になったら優秀で美しい彼女に自分の子を産ませようと考えていた。
ただ、まだその時ではない。そして美女はエウレアだけではない。
金級冒険者となったオーリックには新たな目標があった。
自分以外全員優秀な美女のパーティーを結成することである。
ソロで活動していたサリアという女アーチャーを雇い入れた。
小柄で愛くるしい顔立ちをしていてよく笑い、そして背丈の割に豊満な胸部をしていた。
単体で見れば凄い美女ではなかったが、エウレアと正反対の魅力を有しているところが気に入った。
女性冒険者は全員自分のサポート役でいい。オーリックは当たり前のようにそう考えていた。
続いて選択肢に入ったのはミアン・クローベルという女魔術師とエストという女治癒士。
どちらもローレルの街では少し名と顔を知られていた。良い意味でも悪い意味でもだ。
炎魔術が得意だが我儘で気の強すぎるミアン。
信仰心が強過ぎて見返りを求めないエスト。
職業冒険者として向いてない特徴を持つ二人だが能力と美貌だけは酒場の男連中も否定しなかった。
金には困ってないからエストの悪癖は大した問題ではない。
気難しいミアンの管理は同性であるエウレアにさせればいい。
そう考えオーリックは二人を口説こうとした。
そしてあっさりと振られた。
「もう別の男がリーダーのパーティーに加入しているから」と。
オーリックがアルヴァ・グレイブラッドの存在を強く認識したのはその時が初めてだった。
ついでに誰かに自分の好意を拒まれたのも初めての出来事だ。
オーリックはそれから一週間熱を出して寝込んだ。
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