序盤でざまぁされる人望ゼロの無能リーダーに転生したので隠れチート主人公を追放せず可愛がったら、なぜか俺の方が英雄扱いされるようになっていた

砂礫レキ

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第四章

105話 狂犬に躾けられろ

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 腐っても鯛、不貞腐れても金級剣士。
 オーリックに胸倉を掴まれるまで俺は彼の接近自体を感知していなかった。

「うわっ」
「オーリック、何しているのよ!」

 クールなエウレアが驚いたように声を上げる。
 それぐらいこの金級剣士の行動は異常だった。

「……何で俺はお前に胸倉を掴まれなきゃいけないんだ?」
「何で、君が、この場を、仕切っているんだ?」

 質問に質問で返される。
 そのことにも、そして質問の内容自体にもうんざりした気持ちになった。
 少しだけ失望も混じっているのかもしれない。
 金級冒険者がこの緊急事態にそんなつまらないことを言い出すのかと。

「それはつまり、俺なんかじゃなくて自分がこの場のリーダーであるべきってことか?」

 俺の嫌味に対しオーリックは否定するどころか、当たり前だと勢いよく返してきた。

「そうだ、複数の団が合同で任務にあたるなら最も等級が高い者が指示を出すべきだ」

 それはお前じゃない。その言葉と同時に突き飛ばされる。
 強い力だ。そして憎悪さえ感じる強烈な眼差し。
 青年の方のクロノが背後から受け止めてくれなければ無様に転んでいたかもしれない。

「そもそも任務なんかじゃないでしょう、貴男は騙されて無様に捕まっただけだ」
「……それを言うなら、お前以外のここにいる全員がだな」

 黒髪の青年の直球過ぎる言葉に一応フォローを入れる。だが実際それは事実だ。
 この場にいる冒険者たちは全員キルケーにしてやられた側だ。
 そして、ここから逃げ出す為に協力しようという話を現在している。
 金級冒険者である彼はそれを理解しているのだろうか。俺は口を開いた。

「オーリック、念のため聞くがお前にはここから脱出する為の手段や策があるのか」

 もしあってそちらの方が確実で安全なら迷わず指示に従う。
 俺がそう言うと彼は口を引き結んで俯いた。その青い目だけが不気味にぎらついている。
 それでも回答を待っているとオーリックは自分の団の女賢者を指差した。

「そっ、そんなものはエウレアが考えればいいだろう!そして私が皆にそれを指示すればいい!」

 いつものように。そう必死に言い募る言葉に傍観していた冒険者たちの何人かがざわめく。

「あーあ、自分で言っちゃった。私たちには絶対ばらすなって口うるさく言いまくっていたのに」

 黄金の獅子団のメンバーであるサリアが呆れたように呟く。
 そういうことだったのか。この場所でのオーリックの醜態は黄金の獅子団の輝かしい活動とあまりにもそぐわない。
 普段は彼ではなく賢者のエウレアがメインで指示を行っていたのだろう。

「……やめてちょうだい、オーリック。私に名案があるなら既にその旨を皆に伝えているわ」

 エウレアが頭痛を堪えるような表情で言う。彼女に内心同情した。

「それに賢者といっても全知ではないし、何より私は貴男のママでも師匠でもないのよ」」

 ここから脱出できたら団に関するこれからのことを話しましょう。
 疲れたように言うエウレアにオーリックは不満そうな顔をする。
 傍から見ていても胃が痛くなるようなことを言われているのに彼はそれに気づいていないようだった。
 きっと彼女はもうオーリックの面倒を見るのが嫌になっているのだ。もしかしたら団から抜けるかもしれない。
 それを感じ取ってるのは俺だけでないらしく居心地の悪い沈黙が場を漂っていた。
 
「あーあ、お互い馬鹿なリーダーに振り回されて大変ね、賢者様」

 その空気を綺麗に無視してミアンがエウレアに言い放つ。
 自分の団のリーダーを馬鹿呼ばわりされたというのに女賢者は困ったように微笑むだけだった。

「そうね、でも今は貴女が羨ましいわ」
「だったらうちの団に入れてあげてもいいわよ。最初は雑用係からだけどね」
「ふふ、今も雑用係みたいなものよ。前衛以外は何でもしなければいけないのだから」

 賢者ってある意味何でも屋なの。少しだけ笑みを浮かべて語るエウレアは気分を切り替えたようだった。
 だが肝心のオーリックにその様子は見られない。じっとりとした目つきで口を引き結んで俺たちを睨みつけている。
 
 団のブレイン役をエウレアが担当していたとしても、それでもここまで愚かな男だったろうか。 
 挫折経験が無く極端に打たれ弱い精神の持ち主であったとしても、腐っても金級冒険者の筈なのに。
 認定試験では技能だけじゃなく判断能力や精神面の強さだって審査される筈だ。
 
 オーリックの態度に違和感を覚え彼のことをこっそりと観察する。
 彼はエウレアとミアンの方を恨めし気に見ていた。我儘を言って母親に叱られた子供のようだ。
 実際は図体がでかい上帯剣した男なのでそんな可愛らしい光景ではないが。
 寧ろ表情のせいで危険人物にさえ思える。
 エウレアに対し斬りかかりそうな不安を覚え俺はオーリックに声をかけた。
 仲間に対しそんなことはしないと思うが、正直今の彼の理性は信用できない。

「エウレアは俺の指示に従ってくれている。団内の揉め事は街に帰ってからにしてくれ」
「なんだと……」
「協力しないならそれでもいい。ただ邪魔だけはしないで欲しい。時間がないんだ」
「黙れっっ!!」

 叩きつけるような勢いでオーリックが怒鳴ってきた。
 ミアンがあからさまに不快げな表情を浮かべる。
 きっと俺も似たような顔をしているだろう。

 大人同士の会話の筈なのに話が通じない。怒りと戸惑いで耳が熱くなる。
 だがそれさえも打ち消す程の発言を黄金の獅子団の団長はしてきた。

「決闘だ、狂犬アルヴァ!私が勝ったらこの場のリーダーの座は返してもらう!!」
「……正気か?」
「当たり前だ!寧ろ私でなく君が場を仕切っているこの状況がおかしいのだ!」

 流石に、苛立ちが限界に近くなる。彼は金級の凄腕剣士の筈だが、これなら居ない方がましだ。
 そして同時にオーリックをおとなしくさせる名案を思い付いた。

「こいつなら、練習台にしても構わないか」

 自分の声とは思えない程冷たい呟きが口から洩れる。
 それにオーリックを黙らせないと作戦の続きが話せない。

「わかったよ、戦おう。満足したら大人しくしてくれ」

 それ出来ないなら一人で消えてくれ。
 俺の言葉に黄金の獅子団のリーダーは「死ね」と叫んで斬りかかってきた。
 まるで雑魚悪役みたいだ。俺はそんな状況でもないのについ笑ってしまった。
 そして笑みを浮かべたまま呟く。このスキルを行使しようと決心した瞬間浮かんできた言葉だ。


「強者よ、ひれ伏せ」


 オーリックの剣先が俺に触れることはなかった。
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