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第四章
104話 弱体化を逆利用しよう
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「確かに今の俺たちは魔術が利き過ぎる体質にされている」
俺はエウレアにそう答えた。
彼女は静かに頷いたがミアンは舌打ちしそうな表情をしている。
魔族が相手とは言え魔術関係で自分がしてやられたことが腹立たしいのだろう。
「だがそれはキルケーの魔術に限定されていない筈だ」
「だから何?勿体ぶってないで結論を言いなさいよ」
ミアンが口を尖らせながら急かしてくる。
性格が短気なのもあるが八つ当たりも含まれているかもしれない。
「つまりこの場にいる術者が俺たちに強化系の術をかければその効果も倍増されるってことだ」
俺の言葉にミアンとエウレアの表情が変わった。
「エウレア、賢者の資格を持つ物は強化魔術を必ず使える筈だ」
賢者という職業は最初から肉体強化と魔力強化の術が取得済みになっている。
それは知の女神エレナから貰ったスキル一覧本で強化魔法について調べた時知った知識だった。
もしかしたらそのスキルを取得済みであることが賢者に成る為の条件の一つなのかもしれない。
「ええ、使えるわ。でも良く知っているわね」
エウレアの質問に俺は勉強したんだと答えた。そして本題を口にする。
「その術でミアンとクロノの魔力を強化して欲しい」
エウレア以外に魔力強化の術を使えるものが居るなら協力してくれ。
他の冒険者たちに呼びかけると五人が前に出てきた。ローブ姿の者が多い。
これだけいればミアンとクロノそれぞれに人数を割けそうだ。
そんなことを考えているとエストが俺に近づいてきた。
「アルヴァ、魔力強化だけでなく肉体回復も必要だと思いますよ?」
「エスト……」
「ミアンが一時的に温めてくれるとはいえ、私たち長く冷水に浸かり続けている訳ですし」
恐らく体力も消耗しているでしょうし体はすぐに動かない筈です。
そう告げられ俺は確かにと頷く。
「ですので可能なら私を優先的に目覚めさせてください。活性の奇跡で皆様の体を癒しますので」
活性の奇跡はエストが使える治癒術の一つだ。
回復量は多くないが気力体力ともに癒え、同時に複数に効果が有る。
簡単に言えばエウレアたちの使える強化は効果の上昇。
そしてエストの使う活性は気力や体力の回復ということになる。
この局面ではどちらも必要だろう。
「活性なら私も使えるわ。他にも使える人はいると思う。初級回復術ですもの」
エウレアが横からそう言い出す。情報としては有り難いが内心ひやりとした。
こっそりと伺い見たエストは穏やかな笑みを崩していない。
これがミアンなら初級という言葉に反応して女賢者に噛みついていただろう。
多分エウレアに悪気はなく当たり前の事実を口にしただけなのだろうが。
彼女の発言に呼応するように何人かが手を挙げる。
先程求めた強化魔術の使い手たちとかなり人選がかぶっている。
それでも新たに四人が前に出てきた。
強化も活性も予想よりも使える冒険者が多い。
キルケーが冒険者をパーティー単位で攫っていた結果だろうか。
あわよくばという気持ちで魔力封印を使える者を募ったが手を挙げたのはクロノだけだった。
どうやらそこまで都合良くはないらしい。
「ミアンは申し訳ないけど必要最低限の補助で我慢してくれ」
可能な限りクロノに対して強化術を注力させたい。
俺の発言にミアンはふてくされた顔をしたが文句は口に出さなかった。
彼女も理解しているのだろう。
クロノの魔力封印が成功しなければその後のことなんて存在しないのだと。
キルケーはきっと俺たちを洞窟から逃がす気は無い。
今やっている実験が外部に漏れれば冒険者を罠にかけることができなくなる。
少なくともこの地方では「材料」を入手し辛くなる筈だ。
キルケーは凶悪な魔族だ。
存在が知られれば多数の冒険者が討伐の為派遣されるのは確実だろう。
少なくともノアは来てくれるだろう。
彼女はそれを無傷で殲滅する程の戦闘力は恐らく有していない。
そんなことが可能なら今回のように回りくどい手を使ったりしないと考えている。
戦闘に自信があるなら街を訪れ材料となる冒険者を好き放題攫ってくればいいのだ。
何より彼女は性悪で粘着質で人間を見下し切っている。
あの悪夢の脚本を担当したキルケーが、捕まえた獲物を見逃してくれる筈がないのだ。
だから倒す必要が大いにあるし、最低でも逃走前に彼女を無力化しておかなければいけない。
「強者への威圧の効果が一時間ぐらいあればいいのに……」
思わずそんなことを呟く。そんなチート過ぎるスキルじゃないとはわかっている。
だが正確な効果時間までは知らない。そもそも俺はまだ使ったことがないのだから。
一回ぐらいノア辺りで練習すればよかったかもしれない。
だけど俺は魔力封印を使われた時のミアンの苦しそうな様子を見ている。
別のスキルだと理解しているが、気軽に実験体になってくれとは言い出しづらかった。
威圧というのは実際どれ程の負荷を相手にかけるのだろう。
そんなことを考えていると金級冒険者のオーリックが俺の胸倉を掴んできた。
俺はエウレアにそう答えた。
彼女は静かに頷いたがミアンは舌打ちしそうな表情をしている。
魔族が相手とは言え魔術関係で自分がしてやられたことが腹立たしいのだろう。
「だがそれはキルケーの魔術に限定されていない筈だ」
「だから何?勿体ぶってないで結論を言いなさいよ」
ミアンが口を尖らせながら急かしてくる。
性格が短気なのもあるが八つ当たりも含まれているかもしれない。
「つまりこの場にいる術者が俺たちに強化系の術をかければその効果も倍増されるってことだ」
俺の言葉にミアンとエウレアの表情が変わった。
「エウレア、賢者の資格を持つ物は強化魔術を必ず使える筈だ」
賢者という職業は最初から肉体強化と魔力強化の術が取得済みになっている。
それは知の女神エレナから貰ったスキル一覧本で強化魔法について調べた時知った知識だった。
もしかしたらそのスキルを取得済みであることが賢者に成る為の条件の一つなのかもしれない。
「ええ、使えるわ。でも良く知っているわね」
エウレアの質問に俺は勉強したんだと答えた。そして本題を口にする。
「その術でミアンとクロノの魔力を強化して欲しい」
エウレア以外に魔力強化の術を使えるものが居るなら協力してくれ。
他の冒険者たちに呼びかけると五人が前に出てきた。ローブ姿の者が多い。
これだけいればミアンとクロノそれぞれに人数を割けそうだ。
そんなことを考えているとエストが俺に近づいてきた。
「アルヴァ、魔力強化だけでなく肉体回復も必要だと思いますよ?」
「エスト……」
「ミアンが一時的に温めてくれるとはいえ、私たち長く冷水に浸かり続けている訳ですし」
恐らく体力も消耗しているでしょうし体はすぐに動かない筈です。
そう告げられ俺は確かにと頷く。
「ですので可能なら私を優先的に目覚めさせてください。活性の奇跡で皆様の体を癒しますので」
活性の奇跡はエストが使える治癒術の一つだ。
回復量は多くないが気力体力ともに癒え、同時に複数に効果が有る。
簡単に言えばエウレアたちの使える強化は効果の上昇。
そしてエストの使う活性は気力や体力の回復ということになる。
この局面ではどちらも必要だろう。
「活性なら私も使えるわ。他にも使える人はいると思う。初級回復術ですもの」
エウレアが横からそう言い出す。情報としては有り難いが内心ひやりとした。
こっそりと伺い見たエストは穏やかな笑みを崩していない。
これがミアンなら初級という言葉に反応して女賢者に噛みついていただろう。
多分エウレアに悪気はなく当たり前の事実を口にしただけなのだろうが。
彼女の発言に呼応するように何人かが手を挙げる。
先程求めた強化魔術の使い手たちとかなり人選がかぶっている。
それでも新たに四人が前に出てきた。
強化も活性も予想よりも使える冒険者が多い。
キルケーが冒険者をパーティー単位で攫っていた結果だろうか。
あわよくばという気持ちで魔力封印を使える者を募ったが手を挙げたのはクロノだけだった。
どうやらそこまで都合良くはないらしい。
「ミアンは申し訳ないけど必要最低限の補助で我慢してくれ」
可能な限りクロノに対して強化術を注力させたい。
俺の発言にミアンはふてくされた顔をしたが文句は口に出さなかった。
彼女も理解しているのだろう。
クロノの魔力封印が成功しなければその後のことなんて存在しないのだと。
キルケーはきっと俺たちを洞窟から逃がす気は無い。
今やっている実験が外部に漏れれば冒険者を罠にかけることができなくなる。
少なくともこの地方では「材料」を入手し辛くなる筈だ。
キルケーは凶悪な魔族だ。
存在が知られれば多数の冒険者が討伐の為派遣されるのは確実だろう。
少なくともノアは来てくれるだろう。
彼女はそれを無傷で殲滅する程の戦闘力は恐らく有していない。
そんなことが可能なら今回のように回りくどい手を使ったりしないと考えている。
戦闘に自信があるなら街を訪れ材料となる冒険者を好き放題攫ってくればいいのだ。
何より彼女は性悪で粘着質で人間を見下し切っている。
あの悪夢の脚本を担当したキルケーが、捕まえた獲物を見逃してくれる筈がないのだ。
だから倒す必要が大いにあるし、最低でも逃走前に彼女を無力化しておかなければいけない。
「強者への威圧の効果が一時間ぐらいあればいいのに……」
思わずそんなことを呟く。そんなチート過ぎるスキルじゃないとはわかっている。
だが正確な効果時間までは知らない。そもそも俺はまだ使ったことがないのだから。
一回ぐらいノア辺りで練習すればよかったかもしれない。
だけど俺は魔力封印を使われた時のミアンの苦しそうな様子を見ている。
別のスキルだと理解しているが、気軽に実験体になってくれとは言い出しづらかった。
威圧というのは実際どれ程の負荷を相手にかけるのだろう。
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