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第四章
96話 圧倒的強者へ反撃を
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「そうですね。確かに僕には自分が女の子だった記憶はありません」
クロノと名乗る少年は俺の指摘を肯定する。
しかし今の発言だけでは彼が小説の主人公なのか自信が持てない。
俺が確認のための質問をする前にクロノは言葉を続けた。
「ですがそれさえも本物のクロノの願望なのかもしれない」
「クロノの願望……」
「男として生まれていれば辛い目に遭わなかったと彼女は何度思ったんでしょうね」
少年の姿のクロノは悲しげな表情を浮かべる。
それに俺ではない方のアルヴァが毒づいた。
「ハッ、男として生きていても辛いことも苦しいことも幾らでもあるっつーの!」
「それはそうだけど、そういうことじゃないんですよアルヴァさん」
本当に顔の良さだけでモテてきたんですね。
溜息を吐きながら黒髪の美少年が言う。
「今眠っているクロノだって女性だけが辛いなんてきっと思ってませんよ」
彼女は魔族から女として拷問を受けた直後だってさっき説明したでしょう。
その指摘に対して赤毛の男は黙った。
「それに……女じゃなければこんな目に遭わなかった、彼女はそう感じただけじゃない」
「それだけじゃ、ない?」
俺が聞き返すと少年は頷いて口を開く。
「彼女は自分の性別だけでなく、弱さも騙されやすさも許せなくなってしまった」
結果、この僕は男性というだけでなくそういった要素が排除されている筈です。
そう淡々と述べるクロノは確かに黒髪の少女のような活発さも天真爛漫さも無かった。
クロノ本人というよりは双子の兄と呼んだ方がしっくり来る。
「彼女が望んだ強い自分……その具現化が僕なので、この世界である程度好き勝手に振舞えるんでしょう」
「つまり君が支配できるのはこの夢の中だけということか、現実では……」
「はい、現実には僕は存在できません。だから魔族に異変を気づかれ介入されるのは避けたかったのですが……」
「そんなこと言っても時間の問題だろ」
キルケーが様子を見に来たら一発でばれるだろ。
俺でない方のアルヴァの言葉に少年は物憂げに答える。
「確かにそうですけど、他に方法ないですし。あの魔族を倒す方法どころか湖から脱出できる方法も……」
「ある」
「えっ」
俺の発言にクロノが驚きの声を上げた。
キルケーの討伐とこの極寒の湖から脱出する方法。
どちらも机上の空論でしかないが策はある。
ただ完璧な作戦ではない、俺は言葉を選びながら口を開いた。
「キルケーは人間を見下し切っている。実際彼女はこうやって大量の冒険者を騙し魔力を使って捕えている。きっと戦闘面でも太刀打ちできないだろう」
「お前も一方的にやられたしな」
記憶を共有している赤毛の青年が茶々を入れてくる。俺はそれを無視した。
「だからこそ、油断があるし反撃を受けた時の隙も大きいと思う」
「と、いうと……」
「今眠っている方のクロノは魔力封印という技が使える」
それを最大限に活用しようと思う。
俺の言葉に、クロノ少年は魔族相手に通用すると思いますかと尋ねた。
「楽観的かもしれないけどすると思う。完璧に封じることを求めているわけじゃないから」
キルケーの魔力を全て無力化できるなら万々歳だが期待し過ぎるのもよくないだろう。
「魔力封印はその効果だけじゃなく、かけられた人間に強い悪寒を与えるみたいなんだ」
アジト内で暴れてクロノに魔力封印された直後のミアン。
彼女は哀れになるぐらいガタガタと震え寒いと繰り返し続けていた。
あのプライドの高いミアンが泣き出しそうな顔で蹲り弱音を吐いたのだ。
「馬鹿だなお前、一時的に弱らせてもすぐ回復して激怒されるだけじゃねーか」
その後殺してくれって頼み込むレベルの拷問されるぞ。
アルヴァの言葉に恐怖を感じながら俺は大丈夫だと返した。
「その弱った一瞬に俺のスキルを叩き込む」
「アルヴァさんの、スキル……?」
「ああ、俺は自分より圧倒的に強い存在を一瞬だけ怯ませることができるんだ」
強者への威圧っていうスキルなんだけど。俺の説明に同じ顔をした男が吠えた。
「だったらそれを初っ端からキルケーに使っとけよ間抜け!」
「あの状況で一瞬だけ怯ませても逃げられないだろ」
本当は魔王を騙る時に使おうとは思っていた。
けれど俺が『強者への威圧』を行使する前にキルケーは俺を魔王扱いしてきたのだ。
それは全て彼女の罠で俺はそういう夢を見せられていただけだったのだが。
「だったら今回だって同じだろうが」
あの女魔族相手に今洞窟内に居る冒険者が束になっても叶いっこない。
そう呆れたように言うアルヴァにクロノも控えめだが同意した。
「いや、俺一人の時とは状況が違う。だから結果は同じにならない」
「だからそこそこの強さでしかない冒険者が何人いてもよ……」
「キルケーに罰を与えるのは俺たちじゃないよ」
「アルヴァさんたち、じゃない?」
「そう。ただお膳立てはしなければいけないし湖からの脱出は自力だ」
だから今目の前にいるクロノと眠っているクロノ、両方の協力が要る。
俺の言葉に黒髪の少年の頬が紅潮した。
クロノと名乗る少年は俺の指摘を肯定する。
しかし今の発言だけでは彼が小説の主人公なのか自信が持てない。
俺が確認のための質問をする前にクロノは言葉を続けた。
「ですがそれさえも本物のクロノの願望なのかもしれない」
「クロノの願望……」
「男として生まれていれば辛い目に遭わなかったと彼女は何度思ったんでしょうね」
少年の姿のクロノは悲しげな表情を浮かべる。
それに俺ではない方のアルヴァが毒づいた。
「ハッ、男として生きていても辛いことも苦しいことも幾らでもあるっつーの!」
「それはそうだけど、そういうことじゃないんですよアルヴァさん」
本当に顔の良さだけでモテてきたんですね。
溜息を吐きながら黒髪の美少年が言う。
「今眠っているクロノだって女性だけが辛いなんてきっと思ってませんよ」
彼女は魔族から女として拷問を受けた直後だってさっき説明したでしょう。
その指摘に対して赤毛の男は黙った。
「それに……女じゃなければこんな目に遭わなかった、彼女はそう感じただけじゃない」
「それだけじゃ、ない?」
俺が聞き返すと少年は頷いて口を開く。
「彼女は自分の性別だけでなく、弱さも騙されやすさも許せなくなってしまった」
結果、この僕は男性というだけでなくそういった要素が排除されている筈です。
そう淡々と述べるクロノは確かに黒髪の少女のような活発さも天真爛漫さも無かった。
クロノ本人というよりは双子の兄と呼んだ方がしっくり来る。
「彼女が望んだ強い自分……その具現化が僕なので、この世界である程度好き勝手に振舞えるんでしょう」
「つまり君が支配できるのはこの夢の中だけということか、現実では……」
「はい、現実には僕は存在できません。だから魔族に異変を気づかれ介入されるのは避けたかったのですが……」
「そんなこと言っても時間の問題だろ」
キルケーが様子を見に来たら一発でばれるだろ。
俺でない方のアルヴァの言葉に少年は物憂げに答える。
「確かにそうですけど、他に方法ないですし。あの魔族を倒す方法どころか湖から脱出できる方法も……」
「ある」
「えっ」
俺の発言にクロノが驚きの声を上げた。
キルケーの討伐とこの極寒の湖から脱出する方法。
どちらも机上の空論でしかないが策はある。
ただ完璧な作戦ではない、俺は言葉を選びながら口を開いた。
「キルケーは人間を見下し切っている。実際彼女はこうやって大量の冒険者を騙し魔力を使って捕えている。きっと戦闘面でも太刀打ちできないだろう」
「お前も一方的にやられたしな」
記憶を共有している赤毛の青年が茶々を入れてくる。俺はそれを無視した。
「だからこそ、油断があるし反撃を受けた時の隙も大きいと思う」
「と、いうと……」
「今眠っている方のクロノは魔力封印という技が使える」
それを最大限に活用しようと思う。
俺の言葉に、クロノ少年は魔族相手に通用すると思いますかと尋ねた。
「楽観的かもしれないけどすると思う。完璧に封じることを求めているわけじゃないから」
キルケーの魔力を全て無力化できるなら万々歳だが期待し過ぎるのもよくないだろう。
「魔力封印はその効果だけじゃなく、かけられた人間に強い悪寒を与えるみたいなんだ」
アジト内で暴れてクロノに魔力封印された直後のミアン。
彼女は哀れになるぐらいガタガタと震え寒いと繰り返し続けていた。
あのプライドの高いミアンが泣き出しそうな顔で蹲り弱音を吐いたのだ。
「馬鹿だなお前、一時的に弱らせてもすぐ回復して激怒されるだけじゃねーか」
その後殺してくれって頼み込むレベルの拷問されるぞ。
アルヴァの言葉に恐怖を感じながら俺は大丈夫だと返した。
「その弱った一瞬に俺のスキルを叩き込む」
「アルヴァさんの、スキル……?」
「ああ、俺は自分より圧倒的に強い存在を一瞬だけ怯ませることができるんだ」
強者への威圧っていうスキルなんだけど。俺の説明に同じ顔をした男が吠えた。
「だったらそれを初っ端からキルケーに使っとけよ間抜け!」
「あの状況で一瞬だけ怯ませても逃げられないだろ」
本当は魔王を騙る時に使おうとは思っていた。
けれど俺が『強者への威圧』を行使する前にキルケーは俺を魔王扱いしてきたのだ。
それは全て彼女の罠で俺はそういう夢を見せられていただけだったのだが。
「だったら今回だって同じだろうが」
あの女魔族相手に今洞窟内に居る冒険者が束になっても叶いっこない。
そう呆れたように言うアルヴァにクロノも控えめだが同意した。
「いや、俺一人の時とは状況が違う。だから結果は同じにならない」
「だからそこそこの強さでしかない冒険者が何人いてもよ……」
「キルケーに罰を与えるのは俺たちじゃないよ」
「アルヴァさんたち、じゃない?」
「そう。ただお膳立てはしなければいけないし湖からの脱出は自力だ」
だから今目の前にいるクロノと眠っているクロノ、両方の協力が要る。
俺の言葉に黒髪の少年の頬が紅潮した。
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