87 / 131
第四章
87話 アルヴァ・グレイブラッドの帰還
しおりを挟む
「なっ?!」
驚いた声を上げて過去の俺と同じ顔をした男が蹲る。
その表情は俺を刺した通り魔によく似ていた。厳密に言えば俺が抵抗した際に見せた顔だ。
なんで反撃されると思わないのだろう。
俺は剣を抜いたままウィアードに声をかけた。
「人間の真似が下手くそ過ぎるんだよ、お前」
洞窟の外と中で別人みたいになりやがって。
俺の台詞に男は目を見開いたまま大量の水になる。ウィアードの正体はスライムだった。
それも大人の男一人軽く押し潰せる程巨大なスライムだ。
俺は先程スライム斬りのスキルでその核を破壊したのだ。
「まあ、前の俺はまんまと騙されて死んだんだけどな」
地下湖に通じる巨大な穴を見つめながら呟く。
そうだ、俺はここで一度死んでいる。小説内ではなく、この世界で。
ウィアードに今回のように騙されて殺された。
クロノを追放してから依頼は失敗だらけ。無理な戦いの結果、仲間の一人は死んでパーティーは解散になった。
そして孤独になったアルヴァは敗戦で受けた傷を温泉で癒そうとアキツ村へ来た。
評判が下がり過ぎてローレルの街に居づらくなったというのもある。
しかし長く滞在する内に手持ちの金も少なくなる。
せめて自炊で節約しようと森で食料を探している時にウィアードに出会ったのだ。
彼は経済的に困窮しているアルヴァに銀貨を数枚見せびらかす。
自分は森に棲む隠者で薬の調合を生業にしている。
一緒に洞窟に入り薬草摘みの際の護衛をして欲しいと。
金に困っていたアルヴァは深く考えずその依頼に飛びついた。
そしてこの場所で巨大スライムの正体を現したウィアードに圧し潰され全身を砕かれて死んだのだ。
死体は地下湖に捨てられたことも知っている。その時まだ生きていたからだ。
クロノへの見当違いの恨み言を吐き捨てながら死ぬ瞬間、しかしアルヴァの胸の中にあったのは別の気持ちだった。
自分が追放した人間への逆恨みでも、自分を殺した魔物への憎しみでもない。
銀級冒険者なのにこんなにも容易く騙され殺された自分がひたすら許せなかった。
アルヴァ・グレイブラッドはつまらないプライドの持ち主だった。
その結果破滅し、けれどそのせいで最後に責めた相手は誰でもなく自分だったのだ。
だから彼は魔王に変化することはなく死んだ。
人間を魔物に変化させる女魔族、キルケ―。
彼女の本当の目的は自分の手下となる魔物を増やすことではない。
素質ある者を選び絶望させ人間を憎む魔物に堕とすことで、人の魂に封じられた魔王を見つけ出そうとしていたのだ。
巨大スライムのウィアードは彼女と組んで洞窟に冒険者を誘い込んでいた。
そのことを俺は何回も死を繰り返し続けるアルヴァ・グレイブラッドの記憶ごと思い出したのだった。
驚いた声を上げて過去の俺と同じ顔をした男が蹲る。
その表情は俺を刺した通り魔によく似ていた。厳密に言えば俺が抵抗した際に見せた顔だ。
なんで反撃されると思わないのだろう。
俺は剣を抜いたままウィアードに声をかけた。
「人間の真似が下手くそ過ぎるんだよ、お前」
洞窟の外と中で別人みたいになりやがって。
俺の台詞に男は目を見開いたまま大量の水になる。ウィアードの正体はスライムだった。
それも大人の男一人軽く押し潰せる程巨大なスライムだ。
俺は先程スライム斬りのスキルでその核を破壊したのだ。
「まあ、前の俺はまんまと騙されて死んだんだけどな」
地下湖に通じる巨大な穴を見つめながら呟く。
そうだ、俺はここで一度死んでいる。小説内ではなく、この世界で。
ウィアードに今回のように騙されて殺された。
クロノを追放してから依頼は失敗だらけ。無理な戦いの結果、仲間の一人は死んでパーティーは解散になった。
そして孤独になったアルヴァは敗戦で受けた傷を温泉で癒そうとアキツ村へ来た。
評判が下がり過ぎてローレルの街に居づらくなったというのもある。
しかし長く滞在する内に手持ちの金も少なくなる。
せめて自炊で節約しようと森で食料を探している時にウィアードに出会ったのだ。
彼は経済的に困窮しているアルヴァに銀貨を数枚見せびらかす。
自分は森に棲む隠者で薬の調合を生業にしている。
一緒に洞窟に入り薬草摘みの際の護衛をして欲しいと。
金に困っていたアルヴァは深く考えずその依頼に飛びついた。
そしてこの場所で巨大スライムの正体を現したウィアードに圧し潰され全身を砕かれて死んだのだ。
死体は地下湖に捨てられたことも知っている。その時まだ生きていたからだ。
クロノへの見当違いの恨み言を吐き捨てながら死ぬ瞬間、しかしアルヴァの胸の中にあったのは別の気持ちだった。
自分が追放した人間への逆恨みでも、自分を殺した魔物への憎しみでもない。
銀級冒険者なのにこんなにも容易く騙され殺された自分がひたすら許せなかった。
アルヴァ・グレイブラッドはつまらないプライドの持ち主だった。
その結果破滅し、けれどそのせいで最後に責めた相手は誰でもなく自分だったのだ。
だから彼は魔王に変化することはなく死んだ。
人間を魔物に変化させる女魔族、キルケ―。
彼女の本当の目的は自分の手下となる魔物を増やすことではない。
素質ある者を選び絶望させ人間を憎む魔物に堕とすことで、人の魂に封じられた魔王を見つけ出そうとしていたのだ。
巨大スライムのウィアードは彼女と組んで洞窟に冒険者を誘い込んでいた。
そのことを俺は何回も死を繰り返し続けるアルヴァ・グレイブラッドの記憶ごと思い出したのだった。
10
お気に入りに追加
1,383
あなたにおすすめの小説

転生者は力を隠して荷役をしていたが、勇者パーティーに裏切られて生贄にされる。
克全
ファンタジー
第6回カクヨムWeb小説コンテスト中間選考通過作
「カクヨム」と「小説家になろう」にも投稿しています。
2020年11月4日「カクヨム」異世界ファンタジー部門日間ランキング51位
2020年11月4日「カクヨム」異世界ファンタジー部門週間ランキング52位

荷物持ちだけど最強です、空間魔法でラクラク発明
まったりー
ファンタジー
主人公はダンジョンに向かう冒険者の荷物を持つポーターと言う職業、その職業に必須の収納魔法を持っていないことで悲惨な毎日を過ごしていました。
そんなある時仕事中に前世の記憶がよみがえり、ステータスを確認するとユニークスキルを持っていました。
その中に前世で好きだったゲームに似た空間魔法があり街づくりを始めます、そしてそこから人生が思わぬ方向に変わります。

誰も要らないなら僕が貰いますが、よろしいでしょうか?
伊東 丘多
ファンタジー
ジャストキルでしか、手に入らないレアな石を取るために冒険します
小さな少年が、独自の方法でスキルアップをして強くなっていく。
そして、田舎の町から王都へ向かいます
登場人物の名前と色
グラン デディーリエ(義母の名字)
8才
若草色の髪 ブルーグリーンの目
アルフ 実父
アダマス 母
エンジュ ミライト
13才 グランの義理姉
桃色の髪 ブルーの瞳
ユーディア ミライト
17才 グランの義理姉
濃い赤紫の髪 ブルーの瞳
コンティ ミライト
7才 グランの義理の弟
フォンシル コンドーラル ベージュ
11才皇太子
ピーター サイマルト
近衛兵 皇太子付き
アダマゼイン 魔王
目が透明
ガーゼル 魔王の側近 女の子
ジャスパー
フロー 食堂宿の人
宝石の名前関係をもじってます。
色とかもあわせて。


貴族に転生してユニークスキル【迷宮】を獲得した俺は、次の人生こそ誰よりも幸せになることを目指す
名無し
ファンタジー
両親に愛されなかったことの不満を抱えながら交通事故で亡くなった主人公。気が付いたとき、彼は貴族の長男ルーフ・ベルシュタインとして転生しており、家族から愛されて育っていた。ルーフはこの幸せを手放したくなくて、前世で両親を憎んで自堕落な生き方をしてきたことを悔い改め、この異世界では後悔しないように高みを目指して生きようと誓うのだった。

異世界に転生したので幸せに暮らします、多分
かのこkanoko
ファンタジー
物心ついたら、異世界に転生していた事を思い出した。
前世の分も幸せに暮らします!
平成30年3月26日完結しました。
番外編、書くかもです。
5月9日、番外編追加しました。
小説家になろう様でも公開してます。
エブリスタ様でも公開してます。

【完結】ポーションが不味すぎるので、美味しいポーションを作ったら
七鳳
ファンタジー
※毎日8時と18時に更新中!
※いいねやお気に入り登録して頂けると励みになります!
気付いたら異世界に転生していた主人公。
赤ん坊から15歳まで成長する中で、異世界の常識を学んでいくが、その中で気付いたことがひとつ。
「ポーションが不味すぎる」
必需品だが、みんなが嫌な顔をして買っていく姿を見て、「美味しいポーションを作ったらバカ売れするのでは?」
と考え、試行錯誤をしていく…

元万能技術者の冒険者にして釣り人な日々
於田縫紀
ファンタジー
俺は神殿技術者だったが過労死して転生。そして冒険者となった日の夜に記憶や技能・魔法を取り戻した。しかしかつて持っていた能力や魔法の他に、釣りに必要だと神が判断した様々な技能や魔法がおまけされていた。
今世はこれらを利用してのんびり釣り、最小限に仕事をしようと思ったのだが……
(タイトルは異なりますが、カクヨム投稿中の『何でも作れる元神殿技術者の冒険者にして釣り人な日々』と同じお話です。更新が追いつくまでは毎日更新、追いついた後は隔日更新となります)
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる