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第四章
84話 与えられた剣
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足を踏み入れた森はなんだか嫌な感じだった。
夜でもないのに薄暗くて、地面はどこも抜かるんでいる。
切り株には苔が生えていて椅子代わりにならなかった。
少しでも快適な場所を探している内にボクは気づかず森の奥に入っていった。
けれど状況は変わらない。
「もう諦めてここで食べようかな」
パンや林檎をこのぬかるんだ地面に落としたら食べられなくなるけど、いい加減空腹も限界だ。この場で立ち食いで済ませてしまおう。
人のいる場所は避けて来たので多少行儀悪くても目撃者は居ない。大丈夫だ。
そう自分に言い聞かせてリュックから林檎を取り出す。
「こんなことを気にするからノアさんに冒険者らしくないと言われてしまうのかな……」
家を出てからローレルの街に着くまで飢え死にしかけたことは一度や二度ではない。
あの頃の自分なら泥まみれのパンにだって夢中で噛り付いただろう。
でも切迫した状況でなければどうしても行儀作法が気になってしまう。騎士の家は捨てて冒険者見習いになった今でも。
「……自警団のレックスさんにご馳走になった時も、少し食べ過ぎだったよね」
あの時は自分の中が空っぽで何でもいいから満たしたくて仕方なかった。
今なら魔力を使い過ぎて飢餓状態に陥っていたせいだとわかる。
空腹のままならある程度耐えられたけれど、料理を一口食べた瞬間自分が凄まじく飢えていることに気づいた。
後は食べていいといわれるもの全部食べつくす勢いで貪った。
「アルヴァさんに無駄飯食らいだと思われてなければいいけど……」
今更不安になり呟く。
そんな風に判断されたらパーティーを追放されてしまうかもしれない。
彼はとてもドライだから利益より損失が少しでも上回れば捨てられてしまうだろう。
騙されて売り飛ばされるよりはクビになって追い払われる方がマシなのかもしれない。
でも捨てられるのは嫌だ。見放されるのも。父から突然剣の鍛錬を打ち切られた時は目の前が闇に染まった。
昔のことを思い出して嫌な気持になった。それを振り切るように林檎を齧る。
甘くて瑞々しい。アルヴァさんが買ってくれたものだ。
自警団寮で食事をした帰りに彼はリンゴだけでなく他の食料も沢山買ってくれた。
その時に何が好物なのかを聞かれたことを思い出す。
彼や団のメンバーの好みの料理は知っていても、自分の好きな食べ物を聞かれたことは初めてだった。
「大丈夫、今の優しいアルヴァさんならボクを捨てたりしないよね……」
少し前に居なくなって戻ってきた赤毛の彼。
今までと同じ部分と別人のような部分が介在する。
死にかけたところを女神様に救われて改心したと本人は言っていた。
正直、それが嘘か本当かどうでもいい。
今のアルヴァさんはボクに親身になってくれて、一人前の剣士になる手助けをしてくれる。それが嬉しい。
腰に差した剣の鞘に触れる。これも彼から譲って貰ったものだ。
巨大スライム戦後、一緒にノアさんから訓練を受けようと言われて承諾した時、古くて悪いと謝られながら差し出された。
平民の彼はきっと騎士に剣を与える意味を知らないに違いないけれど。ボクだって騎士にはなれなかった身だけれど。
ボクはその時絶対彼を裏切らないと決めたんだ。
「早く一人前の剣士になって彼の役に立ちたいな」
そして叶うなら灰色の鷹団が金級パーティーになれるように協力したい。
彼がずっと銀級止まりで悩んでいたことを自分は知っていたから。
アルヴァさんがお酒を飲んで特に荒れる時、必ず理由はそれだった。
灰色の鷹団もアルヴァさん自身も何年も銀級から昇格してないことは知っている。
だから金級を目指すのを半分諦めかけて、でもやっぱり納得出来なくて鬱屈を抱えていたことも。でも今回は違う。
アルヴァさんも、そしてボク自身も。
「……変わってきている、だから上手くいく気がするんだ」
女神様、本当にいるならボクたちを見守ってください。正しい道へ導いてください。
そう祈りながら林檎を齧り終えたボクの耳に何者かの足音が聞こえた。
夜でもないのに薄暗くて、地面はどこも抜かるんでいる。
切り株には苔が生えていて椅子代わりにならなかった。
少しでも快適な場所を探している内にボクは気づかず森の奥に入っていった。
けれど状況は変わらない。
「もう諦めてここで食べようかな」
パンや林檎をこのぬかるんだ地面に落としたら食べられなくなるけど、いい加減空腹も限界だ。この場で立ち食いで済ませてしまおう。
人のいる場所は避けて来たので多少行儀悪くても目撃者は居ない。大丈夫だ。
そう自分に言い聞かせてリュックから林檎を取り出す。
「こんなことを気にするからノアさんに冒険者らしくないと言われてしまうのかな……」
家を出てからローレルの街に着くまで飢え死にしかけたことは一度や二度ではない。
あの頃の自分なら泥まみれのパンにだって夢中で噛り付いただろう。
でも切迫した状況でなければどうしても行儀作法が気になってしまう。騎士の家は捨てて冒険者見習いになった今でも。
「……自警団のレックスさんにご馳走になった時も、少し食べ過ぎだったよね」
あの時は自分の中が空っぽで何でもいいから満たしたくて仕方なかった。
今なら魔力を使い過ぎて飢餓状態に陥っていたせいだとわかる。
空腹のままならある程度耐えられたけれど、料理を一口食べた瞬間自分が凄まじく飢えていることに気づいた。
後は食べていいといわれるもの全部食べつくす勢いで貪った。
「アルヴァさんに無駄飯食らいだと思われてなければいいけど……」
今更不安になり呟く。
そんな風に判断されたらパーティーを追放されてしまうかもしれない。
彼はとてもドライだから利益より損失が少しでも上回れば捨てられてしまうだろう。
騙されて売り飛ばされるよりはクビになって追い払われる方がマシなのかもしれない。
でも捨てられるのは嫌だ。見放されるのも。父から突然剣の鍛錬を打ち切られた時は目の前が闇に染まった。
昔のことを思い出して嫌な気持になった。それを振り切るように林檎を齧る。
甘くて瑞々しい。アルヴァさんが買ってくれたものだ。
自警団寮で食事をした帰りに彼はリンゴだけでなく他の食料も沢山買ってくれた。
その時に何が好物なのかを聞かれたことを思い出す。
彼や団のメンバーの好みの料理は知っていても、自分の好きな食べ物を聞かれたことは初めてだった。
「大丈夫、今の優しいアルヴァさんならボクを捨てたりしないよね……」
少し前に居なくなって戻ってきた赤毛の彼。
今までと同じ部分と別人のような部分が介在する。
死にかけたところを女神様に救われて改心したと本人は言っていた。
正直、それが嘘か本当かどうでもいい。
今のアルヴァさんはボクに親身になってくれて、一人前の剣士になる手助けをしてくれる。それが嬉しい。
腰に差した剣の鞘に触れる。これも彼から譲って貰ったものだ。
巨大スライム戦後、一緒にノアさんから訓練を受けようと言われて承諾した時、古くて悪いと謝られながら差し出された。
平民の彼はきっと騎士に剣を与える意味を知らないに違いないけれど。ボクだって騎士にはなれなかった身だけれど。
ボクはその時絶対彼を裏切らないと決めたんだ。
「早く一人前の剣士になって彼の役に立ちたいな」
そして叶うなら灰色の鷹団が金級パーティーになれるように協力したい。
彼がずっと銀級止まりで悩んでいたことを自分は知っていたから。
アルヴァさんがお酒を飲んで特に荒れる時、必ず理由はそれだった。
灰色の鷹団もアルヴァさん自身も何年も銀級から昇格してないことは知っている。
だから金級を目指すのを半分諦めかけて、でもやっぱり納得出来なくて鬱屈を抱えていたことも。でも今回は違う。
アルヴァさんも、そしてボク自身も。
「……変わってきている、だから上手くいく気がするんだ」
女神様、本当にいるならボクたちを見守ってください。正しい道へ導いてください。
そう祈りながら林檎を齧り終えたボクの耳に何者かの足音が聞こえた。
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