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第三章
78話 追放済みの魔物使い
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巨大スライムの件で、俺はモンスターテイマーを捜していた。
そして今突然現れたこの男はモンスターテイマーだと自己紹介をした。
しかも従えている魔物はスライムだ。目的の人物である可能性が高い。
だがそんなことすらどうでもよくなる程俺は相手の顔に衝撃を受けていた。
三十年以上毎日見てきた顔だ。どれだけ凡庸でも見間違えるわけはない。
あの日死んだ筈の灰村タクミが「本人」の前にいた。
しかも通り魔に刺された時と同じぐらいの年齢だ。疲れ切った顔に胸がざわつく。
俺がひたすら無言で男を見続けていると相手の顔が徐々に強張ってきた。
そしてウィアードと名乗った男は下手糞な笑みを浮かべこちらに話しかけてくる。
「あ、あの、僕何かしたでしょうか……?」
でしたら申し訳ありません。そう自分が悪くないのにすぐ謝る姿を見て反射的に怒鳴りつけたくなった。
やはりこれは俺だ。昔の俺なのだ。
目の前から消し去りたくなる衝動を堪え視線を逸らす。傍らのレックスがそんな俺を不思議そうに見ていた。
「どうしたんだアルヴァ、具合でも悪いのか」
そう質問され俺は曖昧に頷いた。途端に自警団の青年は心配そうな表情を浮かべる。
「……大丈夫、火傷した部分が少し痛むだけだ」
そう布越しに腕を触ると予想以上に熱を持っていた。実感するとヒリヒリとした痛みが強くなる。
これを理由に森とこの男から離れてしまおうか。浮かんだその考えは結局捨てた。
アキツ村に行った冒険者たちの行方と、ローレルの街に突然現れた巨大スライム。
この二つの事件の両方に唐突に表れたこのモンスターテイマーは関与している気がする。
何も手掛かりを得ないまま別れるわけにはいかないだろう。
生前の俺とそっくりなこの顔だって何者かの作為が絡んでいるかもしれないのだ。
「それよりもだ、あんた随分と村の洞窟に詳しそうだな」
「え……はい、その、多少は」
「見たところ冒険者みたいだが、もしかして洞窟から出てきたところか?」
俺の発した言葉に反応したのはウィアードよりも自警団の青年の方が早かった。
「えっ、マジかよ!じゃあ他の冒険者たちはまだ洞窟にいるのか?無事か?」
「えっ、いや、あのですね」
レックスが男の肩を揺さぶる勢いで尋ねる。不健康そうな魔物使いは恐怖と嫌悪が入り混じった顔をした。
俺は連れの青年に落ち着けと声をかける。
「洞窟から出てきたっていうのは俺の勝手な予想だ。まだこいつは何も話してないだろう」
「あ、はい、洞窟には昔入ったことはあります。でも最近は無いですね……」
そう小さな声で言いながらウィアードは自分の足元にいるスライムを軽く蹴った。
「昔冒険者パーティーを組んでた時に一度入りました、でも僕スライムしか使役できなくてクビになっちゃったんですよね……」
だからそれ以来この洞窟には入ったことないです。
暗い顔で語るモンスターテイマーを前にレックスは申し訳なさそうに眉を下げた。
「そうか……悪かったな。嫌なこと話させちまってよ」
「いえ、別に……もう大分昔のことですから」
俺は二人のやり取りを聞きながら考える。
つまりウィアードはスライムしか使役できないことを理由に仲間たちから戦力外通告を受けたということか。
巨大スライムと死闘を繰り広げたせいで正直スライムを最弱とは思えなくなっているが、一般的には仕方のないことなのだろう。
それに彼の近くの地面を転がるように移動している小さなスライムが戦力になるとは思えない。
「そろそろ話を戻すが、ならあんたはどうして今こうやって洞窟の近くに居るんだ?」
「それは……山菜採りですね、夕飯のおかずにしようと思って」
僕はこの森に住んでいるので。ウィアードの言葉に俺は少し驚いた。
「つまり元冒険者の村人ってことか?」
「そうですね、今は森の中で暮らしています」
そう言いながらウィアードが指さした方角には小さな小屋らしきものが見えた。
村人というよりは隠者の方が近いかもしれない。
そして今突然現れたこの男はモンスターテイマーだと自己紹介をした。
しかも従えている魔物はスライムだ。目的の人物である可能性が高い。
だがそんなことすらどうでもよくなる程俺は相手の顔に衝撃を受けていた。
三十年以上毎日見てきた顔だ。どれだけ凡庸でも見間違えるわけはない。
あの日死んだ筈の灰村タクミが「本人」の前にいた。
しかも通り魔に刺された時と同じぐらいの年齢だ。疲れ切った顔に胸がざわつく。
俺がひたすら無言で男を見続けていると相手の顔が徐々に強張ってきた。
そしてウィアードと名乗った男は下手糞な笑みを浮かべこちらに話しかけてくる。
「あ、あの、僕何かしたでしょうか……?」
でしたら申し訳ありません。そう自分が悪くないのにすぐ謝る姿を見て反射的に怒鳴りつけたくなった。
やはりこれは俺だ。昔の俺なのだ。
目の前から消し去りたくなる衝動を堪え視線を逸らす。傍らのレックスがそんな俺を不思議そうに見ていた。
「どうしたんだアルヴァ、具合でも悪いのか」
そう質問され俺は曖昧に頷いた。途端に自警団の青年は心配そうな表情を浮かべる。
「……大丈夫、火傷した部分が少し痛むだけだ」
そう布越しに腕を触ると予想以上に熱を持っていた。実感するとヒリヒリとした痛みが強くなる。
これを理由に森とこの男から離れてしまおうか。浮かんだその考えは結局捨てた。
アキツ村に行った冒険者たちの行方と、ローレルの街に突然現れた巨大スライム。
この二つの事件の両方に唐突に表れたこのモンスターテイマーは関与している気がする。
何も手掛かりを得ないまま別れるわけにはいかないだろう。
生前の俺とそっくりなこの顔だって何者かの作為が絡んでいるかもしれないのだ。
「それよりもだ、あんた随分と村の洞窟に詳しそうだな」
「え……はい、その、多少は」
「見たところ冒険者みたいだが、もしかして洞窟から出てきたところか?」
俺の発した言葉に反応したのはウィアードよりも自警団の青年の方が早かった。
「えっ、マジかよ!じゃあ他の冒険者たちはまだ洞窟にいるのか?無事か?」
「えっ、いや、あのですね」
レックスが男の肩を揺さぶる勢いで尋ねる。不健康そうな魔物使いは恐怖と嫌悪が入り混じった顔をした。
俺は連れの青年に落ち着けと声をかける。
「洞窟から出てきたっていうのは俺の勝手な予想だ。まだこいつは何も話してないだろう」
「あ、はい、洞窟には昔入ったことはあります。でも最近は無いですね……」
そう小さな声で言いながらウィアードは自分の足元にいるスライムを軽く蹴った。
「昔冒険者パーティーを組んでた時に一度入りました、でも僕スライムしか使役できなくてクビになっちゃったんですよね……」
だからそれ以来この洞窟には入ったことないです。
暗い顔で語るモンスターテイマーを前にレックスは申し訳なさそうに眉を下げた。
「そうか……悪かったな。嫌なこと話させちまってよ」
「いえ、別に……もう大分昔のことですから」
俺は二人のやり取りを聞きながら考える。
つまりウィアードはスライムしか使役できないことを理由に仲間たちから戦力外通告を受けたということか。
巨大スライムと死闘を繰り広げたせいで正直スライムを最弱とは思えなくなっているが、一般的には仕方のないことなのだろう。
それに彼の近くの地面を転がるように移動している小さなスライムが戦力になるとは思えない。
「そろそろ話を戻すが、ならあんたはどうして今こうやって洞窟の近くに居るんだ?」
「それは……山菜採りですね、夕飯のおかずにしようと思って」
僕はこの森に住んでいるので。ウィアードの言葉に俺は少し驚いた。
「つまり元冒険者の村人ってことか?」
「そうですね、今は森の中で暮らしています」
そう言いながらウィアードが指さした方角には小さな小屋らしきものが見えた。
村人というよりは隠者の方が近いかもしれない。
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