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第三章
77話 名乗る亡霊
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無断で洞窟に入るというタブーを犯せば、その時点でアキツ村の住人に俺たちを罰する理由が出来てしまう。
どうしても洞窟に入りたいなら数日後にもう一度アキツ村にくればいい。俺はレックスに説明したが、ならば禁止されていない範囲で森を見回りたいと言い出した。
これ以上の譲歩は出来ないといった様子なので仕方なく武器と貴重品を持って俺も同伴する。
アキツ村の奥にある森は昼だというのに暗く湿った土の臭いがした。
レックスと歩きながら辺りを見回す。時々離れた場所に村人らしき人間を見かけた。
彼らは必ず洞窟に入るのかという台詞を俺たちに投げかけてくる。
「今日は入らないよ、俺の火傷が治ってからだな」
その度に俺はそう返し布の巻かれた腕を軽く振って見せた。
森の中を歩いている時点で洞窟に興味があると判断されてもおかしくはない。
入らない、興味ないという返事では疑われてしまうかもしれない。
だから条件をつけた上で今は入らないという意思を見せる。そうすると村人たちは頷きどこかへ消えていった。
そして完全に姿が見えなくなるとレックスが俺に小声で耳打ちをする。
「なんかよ、見張られてるみたいじゃないか?」
「実際そうなんだろ」
俺はあっさりと同意した。
村の中を歩くよりこうやって森を歩いている方が村人との遭遇率は高い気さえしている。
「ってことはやっぱり、洞窟の中には見られたくないものがあるってことか……」
「アホ、洞窟の入り口には村人たちの金で作った祭壇があるって言われただろ。それの見張りだよ」
俺は森の中に潜んでいるかもしれない村人たちに聞こえるようにレックスを叱る。
「盗まれるのが怖いなら、洞窟の前じゃなく倉庫とかに置いておけばいいのに」
「お前それ盗む側の理屈だからな?」
呆れたような目で青年を睨むと彼は慌てたように叫んだ。
「は?俺は盗みなんてしねえよ!」
「だったら祭壇の場所にいちゃもんほつけるな。洞窟内の安全を願うとかそういう意味があるかもしれないだろ」
俺がそうレックスに説教をしていた時だった。
「そうですね、意味はありますよ」
突然背後から男の声が聞こえる。
反射的に剣に手をかけ振り返ると、そこには茶色の髪と同色のローブを纏った男が立っていた。
耳元で囁かれた気がしたが実際に確認すると俺とは二メートル程離れている。腰には束ねた鞭が装備されていた。この時点で村人ではないと判断出来る。
「魔物が洞窟の外へ出てこないようにという願いと、魔物の犠牲になった人々への鎮魂の祈りがあの祭壇には込められているんです」
そう彼が口にすると同時に草むらからスライムが飛び出てくる。
思わず切りつけようとしたが、魔物は俺たちに攻撃することもなく男の足元まで跳ねて移動した。
「いや、出てるじゃねえか魔物……」
状況が呑み込めないながらもレックスがそう突っ込む。
指摘された男は苦笑いをしてスライムを軽く蹴った。もしかしたら爪先で撫でたのかもしれない。
「これは僕が使役しているスライムです、洞窟から逃げ出したものじゃありませんよ」
「スライムを使役する……?」
俺の呟きにローブ姿の男はそうですと頷く。
「僕はウィアード、銅級のモンスターテイマーです」
ぺこりと頭を下げて自己紹介する見知らぬ冒険者を俺はただじっと見ていた。
黒髪と濃い茶色の瞳、地味な顔立ちにガリガリではないが痩せ気味の貧弱な体。
中年の域までは達してないが青年と呼ばれるようになってから十年以上は軽く経過しているだろう。
不健康そうな肌色と張り付いたような眼の下のクマ。
彼は、以前の俺が毎日鏡で見ていた顔と同じだった。
このウィアードと名乗った魔物使いは灰村タクミと瓜二つの外見をしていたのだ。
どうしても洞窟に入りたいなら数日後にもう一度アキツ村にくればいい。俺はレックスに説明したが、ならば禁止されていない範囲で森を見回りたいと言い出した。
これ以上の譲歩は出来ないといった様子なので仕方なく武器と貴重品を持って俺も同伴する。
アキツ村の奥にある森は昼だというのに暗く湿った土の臭いがした。
レックスと歩きながら辺りを見回す。時々離れた場所に村人らしき人間を見かけた。
彼らは必ず洞窟に入るのかという台詞を俺たちに投げかけてくる。
「今日は入らないよ、俺の火傷が治ってからだな」
その度に俺はそう返し布の巻かれた腕を軽く振って見せた。
森の中を歩いている時点で洞窟に興味があると判断されてもおかしくはない。
入らない、興味ないという返事では疑われてしまうかもしれない。
だから条件をつけた上で今は入らないという意思を見せる。そうすると村人たちは頷きどこかへ消えていった。
そして完全に姿が見えなくなるとレックスが俺に小声で耳打ちをする。
「なんかよ、見張られてるみたいじゃないか?」
「実際そうなんだろ」
俺はあっさりと同意した。
村の中を歩くよりこうやって森を歩いている方が村人との遭遇率は高い気さえしている。
「ってことはやっぱり、洞窟の中には見られたくないものがあるってことか……」
「アホ、洞窟の入り口には村人たちの金で作った祭壇があるって言われただろ。それの見張りだよ」
俺は森の中に潜んでいるかもしれない村人たちに聞こえるようにレックスを叱る。
「盗まれるのが怖いなら、洞窟の前じゃなく倉庫とかに置いておけばいいのに」
「お前それ盗む側の理屈だからな?」
呆れたような目で青年を睨むと彼は慌てたように叫んだ。
「は?俺は盗みなんてしねえよ!」
「だったら祭壇の場所にいちゃもんほつけるな。洞窟内の安全を願うとかそういう意味があるかもしれないだろ」
俺がそうレックスに説教をしていた時だった。
「そうですね、意味はありますよ」
突然背後から男の声が聞こえる。
反射的に剣に手をかけ振り返ると、そこには茶色の髪と同色のローブを纏った男が立っていた。
耳元で囁かれた気がしたが実際に確認すると俺とは二メートル程離れている。腰には束ねた鞭が装備されていた。この時点で村人ではないと判断出来る。
「魔物が洞窟の外へ出てこないようにという願いと、魔物の犠牲になった人々への鎮魂の祈りがあの祭壇には込められているんです」
そう彼が口にすると同時に草むらからスライムが飛び出てくる。
思わず切りつけようとしたが、魔物は俺たちに攻撃することもなく男の足元まで跳ねて移動した。
「いや、出てるじゃねえか魔物……」
状況が呑み込めないながらもレックスがそう突っ込む。
指摘された男は苦笑いをしてスライムを軽く蹴った。もしかしたら爪先で撫でたのかもしれない。
「これは僕が使役しているスライムです、洞窟から逃げ出したものじゃありませんよ」
「スライムを使役する……?」
俺の呟きにローブ姿の男はそうですと頷く。
「僕はウィアード、銅級のモンスターテイマーです」
ぺこりと頭を下げて自己紹介する見知らぬ冒険者を俺はただじっと見ていた。
黒髪と濃い茶色の瞳、地味な顔立ちにガリガリではないが痩せ気味の貧弱な体。
中年の域までは達してないが青年と呼ばれるようになってから十年以上は軽く経過しているだろう。
不健康そうな肌色と張り付いたような眼の下のクマ。
彼は、以前の俺が毎日鏡で見ていた顔と同じだった。
このウィアードと名乗った魔物使いは灰村タクミと瓜二つの外見をしていたのだ。
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