71 / 131
第三章
71話 生贄のつくりかた
しおりを挟む
俺はずっと気になっていたことがある。それはトマスについてだ。
彼は元腕利きの冒険者で、結婚した後は自警団の副団長として働いていた。
思い込みが激しいが面倒見が良く周囲から慕われるタイプの人物だろう。
俺から見れば彼の立場は十分に勝ち組だ。
けれど実際のトマスはそうではなかった。
自警団連中から見下され息子は子供たちに虐められていた。
どうしてそうなったのか。原因は明確で彼の妻がふしだらな女だったからだ。
夫と子が居ながら堂々と浮気を繰り返し、最後は愛人と一緒に死んだらしい。
そんな女と別れもせず、自分と似ていない子供を育て続けるトマスを街の人間たちは嘲ったのだ。
気になったのはトマスの妻に対する想いだ。
妻の浮気癖を受け入れていたというよりは、急にそうなってしまった妻に彼女の死後も戸惑い続けている様子だった。
そして次にトマスの息子のマルコ、彼は巨大スライムに襲われて死にかけていた。
他の子どもたちからの嫌がらせで森の奥まで行かされたまでは理解できる。
だがその時偶然、本来生息する筈の無い巨大スライムが居て襲われるというのは後から考えると変だった。
ならばマルコを殺す為に何者かが予め魔物を配置しておいたのかと考えても、そこまでする理由がわからなかった。
相手は小さな子供一人だ、しかも人気のない森の奥にいるのなら殺すのに巨大スライムなんて使う必要はない。
だが、残された家族の心に闇を満たしたいなら話は別だ。
巨大スライムの中でゆっくり失われていく子供の命と、それを助けてくれない周囲。
寧ろあの子供は死んだ方が良かったとさえ自警団の仲間から言われる可能性もある。
結果、家族愛の強いトマスが感じる絶望は計り知れないものだろう。
献身の灰教団とやらが負の感情から復讐者を生み出すことを願うなら、きっと彼はその望みどおりになる。
そして復讐の対象は自警団や街の連中、そして妻をたらしこんだ俺になった筈だ。
いや、アルヴァだけでない。彼の所属する団のメンバーも命を狙われる羽目になっただろう。
実は斧を武器にした狂戦士を俺は知っている。小説内の敵の一人だ。
魔王復活後、大勢の魔族が街を襲う混乱の中でクロノを襲い返り討ちにされる人型の魔物。それが彼だ。
男は死ぬ直後に人間の姿に戻る。
クロノはその結果彼が顔見知りの自警団員だったことを知るのだ。
ショックを受けるクロノの前に一人の魔族が現れ、知り合いたちを魔物に変えたことを告げる。
その魔族は怒りと悲しみで新たな力に覚醒したクロノにあっさり倒される。
多分、その時クロノに倒された元人間の魔物の正体がトマスだ。
小説内では名前をクロノに呼ばれたかさえわからない程度のキャラクターだった。だから今まで関連付けもしなかった。
しかし人を魔物に変えられる魔族は人間に恨みを持っている者ほど強力な魔物に出来ると小説内で語っている。作者である俺がそういう設定にしたのだ。
別に深く練り込んだものでもなく、使い捨てに近い、ただ魔物にしましたでは物足りないからつけてみた程度の設定。今では後悔しかない。
だがこの世界の黒幕が俺の考えたその設定を忠実に守っているのならば、献身の灰教団は魔族と繋がっている可能性がある。
彼らは趣味嗜好だけで人を陥れ復讐者を生み出しているのではない。
強力な魔物になりそうな人間を選び、絶望させて魔物へと変えやすくしているのだ。
信徒が人間を用意して魔族がそれを魔物へと変える。そんな協力関係にあるのではないか。
この考察が事実ならある意味俺が今回の事件の元凶になる。強い罪悪感で頭の奥が鋭く痛んだ。
他者に話すことさえ勇気のいる内容だ。俺は言葉を慎重に選びながら自らの考えをノアに話した。
彼は元腕利きの冒険者で、結婚した後は自警団の副団長として働いていた。
思い込みが激しいが面倒見が良く周囲から慕われるタイプの人物だろう。
俺から見れば彼の立場は十分に勝ち組だ。
けれど実際のトマスはそうではなかった。
自警団連中から見下され息子は子供たちに虐められていた。
どうしてそうなったのか。原因は明確で彼の妻がふしだらな女だったからだ。
夫と子が居ながら堂々と浮気を繰り返し、最後は愛人と一緒に死んだらしい。
そんな女と別れもせず、自分と似ていない子供を育て続けるトマスを街の人間たちは嘲ったのだ。
気になったのはトマスの妻に対する想いだ。
妻の浮気癖を受け入れていたというよりは、急にそうなってしまった妻に彼女の死後も戸惑い続けている様子だった。
そして次にトマスの息子のマルコ、彼は巨大スライムに襲われて死にかけていた。
他の子どもたちからの嫌がらせで森の奥まで行かされたまでは理解できる。
だがその時偶然、本来生息する筈の無い巨大スライムが居て襲われるというのは後から考えると変だった。
ならばマルコを殺す為に何者かが予め魔物を配置しておいたのかと考えても、そこまでする理由がわからなかった。
相手は小さな子供一人だ、しかも人気のない森の奥にいるのなら殺すのに巨大スライムなんて使う必要はない。
だが、残された家族の心に闇を満たしたいなら話は別だ。
巨大スライムの中でゆっくり失われていく子供の命と、それを助けてくれない周囲。
寧ろあの子供は死んだ方が良かったとさえ自警団の仲間から言われる可能性もある。
結果、家族愛の強いトマスが感じる絶望は計り知れないものだろう。
献身の灰教団とやらが負の感情から復讐者を生み出すことを願うなら、きっと彼はその望みどおりになる。
そして復讐の対象は自警団や街の連中、そして妻をたらしこんだ俺になった筈だ。
いや、アルヴァだけでない。彼の所属する団のメンバーも命を狙われる羽目になっただろう。
実は斧を武器にした狂戦士を俺は知っている。小説内の敵の一人だ。
魔王復活後、大勢の魔族が街を襲う混乱の中でクロノを襲い返り討ちにされる人型の魔物。それが彼だ。
男は死ぬ直後に人間の姿に戻る。
クロノはその結果彼が顔見知りの自警団員だったことを知るのだ。
ショックを受けるクロノの前に一人の魔族が現れ、知り合いたちを魔物に変えたことを告げる。
その魔族は怒りと悲しみで新たな力に覚醒したクロノにあっさり倒される。
多分、その時クロノに倒された元人間の魔物の正体がトマスだ。
小説内では名前をクロノに呼ばれたかさえわからない程度のキャラクターだった。だから今まで関連付けもしなかった。
しかし人を魔物に変えられる魔族は人間に恨みを持っている者ほど強力な魔物に出来ると小説内で語っている。作者である俺がそういう設定にしたのだ。
別に深く練り込んだものでもなく、使い捨てに近い、ただ魔物にしましたでは物足りないからつけてみた程度の設定。今では後悔しかない。
だがこの世界の黒幕が俺の考えたその設定を忠実に守っているのならば、献身の灰教団は魔族と繋がっている可能性がある。
彼らは趣味嗜好だけで人を陥れ復讐者を生み出しているのではない。
強力な魔物になりそうな人間を選び、絶望させて魔物へと変えやすくしているのだ。
信徒が人間を用意して魔族がそれを魔物へと変える。そんな協力関係にあるのではないか。
この考察が事実ならある意味俺が今回の事件の元凶になる。強い罪悪感で頭の奥が鋭く痛んだ。
他者に話すことさえ勇気のいる内容だ。俺は言葉を慎重に選びながら自らの考えをノアに話した。
10
お気に入りに追加
1,346
あなたにおすすめの小説
異世界転生したので森の中で静かに暮らしたい
ボナペティ鈴木
ファンタジー
異世界に転生することになったが勇者や賢者、チート能力なんて必要ない。
強靭な肉体さえあれば生きていくことができるはず。
ただただ森の中で静かに暮らしていきたい。
この度異世界に転生して貴族に生まれ変わりました
okiraku
ファンタジー
地球世界の日本の一般国民の息子に生まれた藤堂晴馬は、生まれつきのエスパーで透視能力者だった。彼は親から独立してアパートを借りて住みながら某有名国立大学にかよっていた。4年生の時、酔っ払いの無免許運転の車にはねられこの世を去り、異世界アールディアのバリアス王国貴族の子として転生した。幸せで平和な人生を今世で歩むかに見えたが、国内は王族派と貴族派、中立派に分かれそれに国王が王位継承者を定めぬまま重い病に倒れ王子たちによる王位継承争いが起こり国内は不安定な状態となった。そのため貴族間で領地争いが起こり転生した晴馬の家もまきこまれ領地を失うこととなるが、もともと転生者である晴馬は逞しく生き家族を支えて生き抜くのであった。
~クラス召喚~ 経験豊富な俺は1人で歩みます
無味無臭
ファンタジー
久しぶりに異世界転生を体験した。だけど周りはビギナーばかり。これでは俺が巻き込まれて死んでしまう。自称プロフェッショナルな俺はそれがイヤで他の奴と離れて生活を送る事にした。天使には魔王を討伐しろ言われたけど、それは面倒なので止めておきます。私はゆっくりのんびり異世界生活を送りたいのです。たまには自分の好きな人生をお願いします。
異世界転移「スキル無!」~授かったユニークスキルは「なし」ではなく触れたモノを「無」に帰す最強スキルだったようです~
夢・風魔
ファンタジー
林間学校の最中に召喚(誘拐?)された鈴村翔は「スキルが無い役立たずはいらない」と金髪縦ロール女に言われ、その場に取り残された。
しかしそのスキル鑑定は間違っていた。スキルが無いのではなく、転移特典で授かったのは『無』というスキルだったのだ。
とにかく生き残るために行動を起こした翔は、モンスターに襲われていた双子のエルフ姉妹を助ける。
エルフの里へと案内された翔は、林間学校で用意したキャンプ用品一式を使って彼らの食生活を改革することに。
スキル『無』で時々無双。双子の美少女エルフや木に宿る幼女精霊に囲まれ、翔の異世界生活冒険譚は始まった。
*小説家になろう・カクヨムでも投稿しております(完結済み
転生したら唯一の魔法陣継承者になりました。この不便な世界を改革します。
蒼井美紗
ファンタジー
魔物に襲われた記憶を最後に、何故か別の世界へ生まれ変わっていた主人公。この世界でも楽しく生きようと覚悟を決めたけど……何この世界、前の世界と比べ物にならないほど酷い環境なんだけど。俺って公爵家嫡男だよね……前の世界の平民より酷い生活だ。
俺の前世の知識があれば、滅亡するんじゃないかと心配になるほどのこの国を救うことが出来る。魔法陣魔法を広めれば、多くの人の命を救うことが出来る……それならやるしかない!
魔法陣魔法と前世の知識を駆使して、この国の救世主となる主人公のお話です。
※カクヨム、小説家になろうにも掲載しています。
いずれ殺される悪役モブに転生した俺、死ぬのが嫌で努力したら規格外の強さを手に入れたので、下克上してラスボスを葬ってやります!
果 一
ファンタジー
二人の勇者を主人公に、ブルガス王国のアリクレース公国の大戦を描いた超大作ノベルゲーム『国家大戦・クライシス』。ブラック企業に勤務する久我哲也は、日々の疲労が溜まっている中、そのゲームをやり込んだことにより過労死してしまう。
次に目が覚めたとき、彼はゲーム世界のカイム=ローウェンという名の少年に生まれ変わっていた。ところが、彼が生まれ変わったのは、勇者でもラスボスでもなく、本編に名前すら登場しない悪役サイドのモブキャラだった!
しかも、本編で配下達はラスボスに利用されたあげく、見限られて殺されるという運命で……?
「ちくしょう! 死んでたまるか!」
カイムは、殺されないために努力することを決める。
そんな努力の甲斐あってか、カイムは規格外の魔力と実力を手にすることとなり、さらには原作知識で次々と殺される運命だった者達を助け出して、一大勢力の頭へと駆け上る!
これは、死ぬ運命だった悪役モブが、最凶へと成り上がる物語だ。
本作は小説家になろう、カクヨムでも公開しています
他サイトでのタイトルは、『いずれ殺される悪役モブに転生した俺、死ぬのが嫌で努力したら規格外の強さを手に入れたので、下克上してラスボスを葬ってやります!~チート魔法で無双してたら、一大勢力を築き上げてしまったんだが~』となります
転生して異世界の第7王子に生まれ変わったが、魔力が0で無能者と言われ、僻地に追放されたので自由に生きる。
黒ハット
ファンタジー
ヤクザだった大宅宗一35歳は死んで記憶を持ったまま異世界の第7王子に転生する。魔力が0で魔法を使えないので、無能者と言われて王族の籍を抜かれ僻地の領主に追放される。魔法を使える事が分かって2回目の人生は前世の知識と魔法を使って領地を発展させながら自由に生きるつもりだったが、波乱万丈の人生を送る事になる
【幸せスキル】は蜜の味 ハイハイしてたらレベルアップ
カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
僕の名前はアーリー
不慮な事故で死んでしまった僕は転生することになりました
今度は幸せになってほしいという事でチートな能力を神様から授った
まさかの転生という事でチートを駆使して暮らしていきたいと思います
ーーーー
間違い召喚3巻発売記念として投稿いたします
アーリーは間違い召喚と同じ時期に生まれた作品です
読んでいただけると嬉しいです
23話で一時終了となります
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる