序盤でざまぁされる人望ゼロの無能リーダーに転生したので隠れチート主人公を追放せず可愛がったら、なぜか俺の方が英雄扱いされるようになっていた

砂礫レキ

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第三章

60話 冷静でいられる距離

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 いや、違う。俺は唇を噛んだ。
 嫉妬したのは、悔しかったのは俺自身だ。
 火猪と戦い、劣勢に陥っていた所をあっさりと救われたこの俺自身がクロノに対し醜い感情を抱いた。
 ノアに言われた言葉を反芻する。

 どんどん強くなっていく彼女を俺が導けるのかと。
 リーダーである自分を追い越し勇者や英雄と呼ばれるようになる子供に悪心を抱かずいられるのかと。
 正直、自信は無い。そこまで清廉潔白な人間じゃないと思っている。
 俺は弱い。身も心も。だから前の人生では逃げてばかりいた。
 小説執筆という唯一の趣味を母親に否定されても戦わず、何度も傷つけられるのが怖くて家を出た。
 その後は忙しさに忙殺され、気づけばその大切な趣味さえ忘れ去っていた。
 でも、失敗だらけの人生だけど学びならあった。
 俺はこちらの言葉を待つノアに口を開く。

「もし俺の存在がクロノにとって有害になるなら、その時は距離を置く」

 そうだ、離れればいい。自分の感情に振り回され相手を傷つけてしまうなら。
 クロノと共にいることで傷つけられたくないなら。
 俺の返答を万能の英雄は肯定も否定もしなかった。

「そう、でもクロノが君と離れたくないと言ったなら?」

 続いてされた質問に俺は戸惑う。
 魔法剣士として大成した彼女がそこまで俺に執着するとは思えない。

「それは、その時に考える。だがクロノが一人でもやっていけるまでサポートはするつもりだ」

 彼女は今の状態でも火猪を単身で倒せてはいる。
 けれどその結果、力を使い過ぎて眠り続けていた。
 確かに強いが冒険者として生きていくにはまだ難しいだろう。
 巨大スライム、火猪と続いてボロボロになっている俺に言えた義理は無いのだが。

「……俺は今まで彼女に酷い扱いをしてきた。償いになるとは思わないけど剣士になりたいという夢の手伝いはしたい」

 そしてクロノの願いを叶えたいと思うのは罪の意識だけではない。
 子供がなりたかったものへの手助けを、大人である自分が行う。
 理由はわからないけれどその行為で俺の中の何かが救われる様な気がしている。

「つまり将来道を別つことはあるかもしれないけど、それまではクロノちゃんを頑張って育てていくと~?」
「……育てるというか、まあそうだな。戦い方に関してはノアに頼るかもしれないが、生活部分の面倒は見ていきたい」
「はは、それってなんか親みたいだね~」
「そこまで歳は離れてない……と思う」
「いやいいんじゃないかな。距離を置くことを視野に入れている冷静さが特に良いね~」

 俺は嫉妬なんてしないと断言されるよりずっといい。ノアは笑いつつどこか痛みのある声で呟いた。
 
「君の返答次第ではクロノちゃんは私が一緒に連れて行こうかと思ったんだけど~」

 その方が強敵との実戦経験を積めるだろうし。
 ノアの台詞に俺は小説内の二人の冒険を思い出した。
 短時間での猛特訓を終わらせた後ノアはクロノを連れて色々なダンジョンを回った。
 そしてそこのボスを倒させる武者修行を行ったのだ。
 魔王の封印が解け、ノアがそれを命がけで食い止めるまで二人の旅は続いた。
 
「でも君を見てたら、私の弟子にするのは違うかなって。きっと、クロノちゃんにも断られるだろうしね~」
「ノア、俺たちの特訓自体は……」
「それは続けるよ。暫くこの街にいるつもりだからね~私にも都合があるから断言はできないけど」

 二匹の魔物を放った人物について個人的に興味もあるし。
 そうノアがぽつりと口にした台詞に俺は出来る限り協力すると申し出た。

「ありがとう。そう言い出してくれるのは期待してたんだ。自警団とかギルドとかそっち方面の聞き込みお願いしたいな~」
「自警団、か」
「うん、正直まともに機能しているとは私には思えないけど。気になるならそこも含めて、ね~」
「……わかった」

 自警団には、巨大スライムの件以降あまり良い印象は抱いていない。
 だが火猪と戦う俺をサポートしてくれた人物も自警団だった気がする。
 どの道この街を拠点にして生きていくなら関りは持っておいた方が良い。
 頼りになるかならないかの見極めも含めて。俺は頷いた。
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