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第三章

57話 チート美形主人公はモテる

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「魔力で肉体強化を行いながら更に魔力封印なんて大技を使っちゃうと、まあこうはなるよね~」

 ベッドで死んだように眠るクロノを見下ろしながら万能の剣士が溜息を吐く。
 あまり深刻そうでない様子に安堵と苛立ちを同時に覚えながら俺はノアを睨みつけた。

「大丈夫だよ、魔族や精霊族とかと違って人間は魔力にそこまで依存してない。命に別状はないよ~」
「なら、どうして火猪を倒してからずっと目を覚まさないんだ」
「ずっとって、まだ二十時間程度でしょ?過保護だな~」
「過保護って、気絶するように倒れこんだんだぞ?医者に診せてもただの疲労じゃないかって言うだけで……」
「そうだよ、肉体的の疲れと減った魔力を回復する為に深く眠っているに過ぎない。……というか君の方が重症でしょ~?」

 利き腕を火傷した上に少量とはいえポイズンスライムの体液まで浴びたんだから。
 そう指摘しながらノアは俺の右腕を掴む。
 包帯が念入りに巻かれたその下は火傷と毒の両方で醜く爛れている。
 痛みが少ないことは救いだったが、それは毒の効能で麻痺してるからだと言われた。
 治ればいいが、治らなければ剣士としてやっていくのは難しい。

「火傷か毒か、どちらかだけなら治療も簡単なのに~」


 ノアが先程よりもずっと気難しい顔をしながら自身の後頭部を掻く。
 火傷により爛れた皮膚を魔術で再生しようとすると、毒による麻痺が残る場合があるらしい。
 その麻痺は後から治せないのかと訊くと、治療魔術で取り込んだものの除去は難しいと言われた。

「解毒魔術を使うと今度は火傷に対し回復魔術が効き辛くなるのが嫌な仕組みだよね~」

 だから治癒魔術とは別に魔術に頼らない医者という職業があるのだけれど。
 ノアの説明に俺はそういうものなのかとよくわからないまま頷いた。

「魔術も万能ってわけじゃないんだな」

 そう何気なく口にして、目の前の相手が万能の英雄であることを思い出す。
 けれどノアは特に気を悪くした様子もなくそうだよと同意した。

「ずっと昔はそうじゃなかったらしいけど、神様がわざと不便にしたっていう話は聞いたな~」
「わざと、不便に?」
「そうじゃないと魔力を持たない生き物たちが哀れだからって。子供の頃一度聞いたきりだから本当かはわからないけど~」

 だったら全ての生き物が魔力を使えるようにすればいいのにって思ったよ。
 俺の包帯をほどき、形容しがたい色の軟膏を塗りながらノアは言う。
 その言葉に俺は腕よりも胸に突き刺すような痛みを感じた。

 俺は魔術が使えない。そのことを今まで一度も悔しいと思ったことはなかった。
 前世の記憶を取り戻したばかりということもある。
 それにあの巨大スライムを倒した技は魔術ではなく俺のスライム斬りだった。
 使えたら便利だが、使えなくても他に方法がある。そんな楽観的な気持ちがあったことは否めない。

 けれど今回戦った火猪。全身に火を纏う厄介な魔物。
 クロノに文字通り一刀両断された最期を思い出す。
 俺はその火猪の炎が魔力で生み出されていることすら知らなかった。
 こいつは魔力封印さえ使えれば、ただの猪と変わらなかった。
 
 俺に魔力封印が使えていれば、こんな大怪我をすることもクロノが疲労で倒れることもなかった。
 ポイズンスライムを火猪に食わせることも、街が燃えないように戦うこともなかった。
 違う、今俺の心をじわじわと蝕んでいるのは。

「おっと、来客のようだね~」

 ノアの台詞の少し後に玄関のベルを鳴らす音が聞こえた。

「ボクが代わりに出て上げようか~?」
「何でだよ」
「何でだよ、って……」

 君が酷い顔色だからだよ。その言葉に返事もせず階段を下りる。
 扉を開けた瞬間、数人の少女が中を覗き込むように雪崩れ込もうとしてきた。
 全員知らない人間だ。街で擦れ違ったことならあるかもしれない。
 悪役のアルヴァを演じる必要もなく不機嫌そうな声が出てくる。

「おい、人のアジトに勝手に入ろうとするんじゃない」

「私たちぃ、クロノ君のお見舞いに来たんですぅ」
「アンタじゃなくて、クロノ様に会いにきたんだけど」
「お父さんに聞いたけど、女の子みたいに可愛いのに凄い強いって!」
「雑魚冒険者が苦労した化け物イノシシを剣の一撃で倒したって、素敵~」

 その雑魚冒険者とはもしかしなくても俺のことだろう。舌打ちをして扉を再び閉めた。
 不満の声と共にガンガンと外側からドアを叩く迷惑客たちに「クロノは今療養中だ!」と叫んで玄関から離れる。

 火猪との戦闘場所は街中だった。目撃者がそれなりにいてもおかしくはない。
 そもそも自警団の連中が数人程現場に残っていた。

 細身の美少女が暴れ狂う魔物を難なく無力化し、頭を切り落とした光景はさぞかしインパクトがあっただろう。
 誰かに話したくなっても仕方がない。
 そして、今更思い知ったがクロノは「灰色の鷹団の使い走りをしている美少年」として街の乙女たちに認識されていた。
 
 今まで気になっていた異性が実は大人さえ勝てない魔物を瞬殺できる凄腕剣士だった。
 この事実を知った少女たちによるお見舞いという名の唾つけ合戦に俺は今巻き込まれている。

 クロノの性別は女性だが、それを彼女たちにばらすつもりはない。
 もし話すとしてもクロノに確認を取ってからの方がいいだろう。
 しかしこのままでは将来有望な美少年の恋人の座を求める少女たちが連日押し寄せてきそうだ。
 
「ほとぼりが冷めるまで、俺たちもアキツ村に行ってみるか……?」

 精神的疲労を覚えながら俺は溜息を吐いた。

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