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第三章
56話 信頼と連携の不協和音
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「アルヴァさんに、ボクのリーダーにそれ以上近づくなっ!」
黒髪の少女が火猪に向かって怒り叫ぶ。その声は僅かに震えていた。
それは当然だろう。クロノは魔物との戦闘経験が少ない。
冒険にはほぼ毎回荷物持ちとして同行させたが俺たちは彼女を戦力と見做していなかった。
だから魔物と戦っている姿なんて今日スライムを相手取る姿を見たのが初めてのようなものだ。
そんな段階の少女を死兵の凄みを持つ火猪と直接対決させるのは不味い。
倒せないが向うからの攻撃も微弱なスライムとは格が違うのだ。
死を覚悟しているからこそ、火猪は全てを捨ててでもこちらを殺そうとしている。
それにクロノはスライムとの戦闘訓練を延々と行い肉体も精神も疲弊している筈だ。
恐怖なんて感じている場合ではない。俺は魔物の意識をこちらに集中させようと口を開いた。
「おい、お前の相手はこの俺だ。死ぬ前に殺さなくていいのかよ……?」
「ブルル……」
どす黒く濁った液体が火猪の口から零れ落ち、その瞬間蒸発し悪臭を放つ。
それがポイズンスライムの体液なのか毒に侵された魔物の生き血なのかもわからない。
いずれにしろ火猪の命の火は消えようとしている。
だからこそこの魔物は最後の一撃を俺に食らわせようとタイミングを測っているのだ。
そして俺は絶対それを食らいたくない。
「クロノ、ノアはどうしたっ!」
火猪を睨みつけながら何とかしてくれそうな人物の名を叫ぶ。
先程見た限りだとクロノの近くにその姿はなかった。正直誰よりも居て欲しいのに。
「ノアさんは、確認したいことがあると言って別行動中です!でもボクがいます!」
だから安心してください。そう元気よく言われ俺は微妙な表情になる。
助けようとしてくれる気持ちは本当に嬉しい。
だが俺が今切実に求めているのは目の前の火猪を倒せる実力者なのだ。
残念だがクロノはまだそこまでのレベルではない。
そんな風に、思っていた。
「そろそろ行きますっ」
「おい、待てっ!」
宣言と共にこちらにクロノが駆け寄ってくる。制止の声を上げるが、止まる様子は無い。
そんな中で彼女が構えている剣が光を帯びていることに俺は気づく。
何かをしようとしているのだろう。
「グウウ……ブガッ?!」
クロノに突撃しようとした火猪の背中を自らの剣で切りつける。
本当は首を一刀両断出来ればいいのだが、そこまでの馬鹿力は俺にはない。
「余所見すんなって、言っただろ……?」
こちらを見上げた火猪がにたりと笑った気がした。俺は軽口を途中で飲み込む。
この魔物がクロノへと突進しようとしたのはフェイクだ。
俺が彼女を庇う為自分へ攻撃してくると予想しての。
そしてそれに引っかかったと気づいた瞬間俺に隙が出来た。
「ブゴッ!」
「いっ、」
火猪の全力の体当たりを食らう。更に倒れた上から覆い被さられ呻いた。
焼けた鉄板の下敷きになった気分だ。焼けた牙はまだ突き立てられてなかったが時間の問題だろう。
戦いというのは厄介だ。こんなにも簡単に優勢が入れ替わる。
今勝ちを確信しているのは火猪の方だった。
「グウウ……」
ご機嫌で灼熱の牙をこちらの顔になすつりけつようとしてくる。
嫌がって顔を背けるのを見て更に頬に当ててくる。嫌な音をして皮膚が焦げた。
そういう使い方をすんのかよと激痛に耐えながら、火猪に体が蹂躙されているのをうんざりと感じる。
胸や腹を短い脚で何度も触られるのは、どちらに牙を突き刺そうか悩んでいるのだろう。
そのまま悩み続け時間切れで毒で死んでくれないだろうか。
というか服がどんどん燃えていくのが地味に怖い。その下の皮膚なんて完全に火傷しているだろう。
ノアが居れば治療して貰えるだろうが。本当に、なんでここにノアは居ないんだ。
そんなことを恨めし気に考えつつ火猪の体を自分の上から退けようとする。
掌が毛皮で燃え立って今更だろう。
しかし相手も中々自分からどかない。変態に襲われるってこういう気持ちなんだろうか。
そんなことを熱と痛みで逆に麻痺した思考の隅で考えた。
「魔力封印」
氷のような声が聞こえると共に俺に伸し掛かっていた火猪が大きく震える。
大丈夫かと言いかけて、違うだろと自らに突っ込みを入れる。
今度は向うに出来た隙を利用し、その体の下から這い出した。
「こちらに、アルヴァさん」
「クロノ……」
剣を魔物に向けたまま黒髪の少女が俺に指示する。
「もうボクから離れないでください」
そう言いながらその剣を弱っている火猪に振り上げる。びっくりする位簡単にその首は胴体と離れた。
「お前……凄いな。そうか魔物だもんな、魔力、使ってたか……」
なんでそのことにもっと早く気づかなかったのだろう。
落ち込む気分を隠しクロノを褒める。彼女はそれに笑顔を浮かべることは無かった。
「あのイノシシ、燃えていたし、ミアンさんと同じ炎の魔力を感じたんです。だからそれを封印すればただの猪になるんじゃって思いました」
「なるほど、ミアンと同じか。良く見ると色々似てるかもな」
「ミアンさんに怒られますよ……いえ、怒って貰ってください。また、こんな無茶をして……」
動かなくなった火猪のことなど忘れたようにクロノは俺に縋りついてくる。
体は火傷で痛いし、火猪の口から垂れた毒で汚れてもいる。だから抱き着こうとすると二本の腕を拒んだ。
「ボクのこと庇ったからこんな風に火猪に襲われたんですよね……」
「そうだな、マジで余計な事したわ」
「貴方が庇おうと思わなくなるぐらい、もっと強くなりたい……!」
そうすればこんな風にボロボロのアルヴァさんを見なくて済むのに。
泣きそうな顔でクロノに言われる。
俺は彼女を未熟扱いし、その行動が勝利につながると信じなかった自分の判断を悔いた。
黒髪の少女が火猪に向かって怒り叫ぶ。その声は僅かに震えていた。
それは当然だろう。クロノは魔物との戦闘経験が少ない。
冒険にはほぼ毎回荷物持ちとして同行させたが俺たちは彼女を戦力と見做していなかった。
だから魔物と戦っている姿なんて今日スライムを相手取る姿を見たのが初めてのようなものだ。
そんな段階の少女を死兵の凄みを持つ火猪と直接対決させるのは不味い。
倒せないが向うからの攻撃も微弱なスライムとは格が違うのだ。
死を覚悟しているからこそ、火猪は全てを捨ててでもこちらを殺そうとしている。
それにクロノはスライムとの戦闘訓練を延々と行い肉体も精神も疲弊している筈だ。
恐怖なんて感じている場合ではない。俺は魔物の意識をこちらに集中させようと口を開いた。
「おい、お前の相手はこの俺だ。死ぬ前に殺さなくていいのかよ……?」
「ブルル……」
どす黒く濁った液体が火猪の口から零れ落ち、その瞬間蒸発し悪臭を放つ。
それがポイズンスライムの体液なのか毒に侵された魔物の生き血なのかもわからない。
いずれにしろ火猪の命の火は消えようとしている。
だからこそこの魔物は最後の一撃を俺に食らわせようとタイミングを測っているのだ。
そして俺は絶対それを食らいたくない。
「クロノ、ノアはどうしたっ!」
火猪を睨みつけながら何とかしてくれそうな人物の名を叫ぶ。
先程見た限りだとクロノの近くにその姿はなかった。正直誰よりも居て欲しいのに。
「ノアさんは、確認したいことがあると言って別行動中です!でもボクがいます!」
だから安心してください。そう元気よく言われ俺は微妙な表情になる。
助けようとしてくれる気持ちは本当に嬉しい。
だが俺が今切実に求めているのは目の前の火猪を倒せる実力者なのだ。
残念だがクロノはまだそこまでのレベルではない。
そんな風に、思っていた。
「そろそろ行きますっ」
「おい、待てっ!」
宣言と共にこちらにクロノが駆け寄ってくる。制止の声を上げるが、止まる様子は無い。
そんな中で彼女が構えている剣が光を帯びていることに俺は気づく。
何かをしようとしているのだろう。
「グウウ……ブガッ?!」
クロノに突撃しようとした火猪の背中を自らの剣で切りつける。
本当は首を一刀両断出来ればいいのだが、そこまでの馬鹿力は俺にはない。
「余所見すんなって、言っただろ……?」
こちらを見上げた火猪がにたりと笑った気がした。俺は軽口を途中で飲み込む。
この魔物がクロノへと突進しようとしたのはフェイクだ。
俺が彼女を庇う為自分へ攻撃してくると予想しての。
そしてそれに引っかかったと気づいた瞬間俺に隙が出来た。
「ブゴッ!」
「いっ、」
火猪の全力の体当たりを食らう。更に倒れた上から覆い被さられ呻いた。
焼けた鉄板の下敷きになった気分だ。焼けた牙はまだ突き立てられてなかったが時間の問題だろう。
戦いというのは厄介だ。こんなにも簡単に優勢が入れ替わる。
今勝ちを確信しているのは火猪の方だった。
「グウウ……」
ご機嫌で灼熱の牙をこちらの顔になすつりけつようとしてくる。
嫌がって顔を背けるのを見て更に頬に当ててくる。嫌な音をして皮膚が焦げた。
そういう使い方をすんのかよと激痛に耐えながら、火猪に体が蹂躙されているのをうんざりと感じる。
胸や腹を短い脚で何度も触られるのは、どちらに牙を突き刺そうか悩んでいるのだろう。
そのまま悩み続け時間切れで毒で死んでくれないだろうか。
というか服がどんどん燃えていくのが地味に怖い。その下の皮膚なんて完全に火傷しているだろう。
ノアが居れば治療して貰えるだろうが。本当に、なんでここにノアは居ないんだ。
そんなことを恨めし気に考えつつ火猪の体を自分の上から退けようとする。
掌が毛皮で燃え立って今更だろう。
しかし相手も中々自分からどかない。変態に襲われるってこういう気持ちなんだろうか。
そんなことを熱と痛みで逆に麻痺した思考の隅で考えた。
「魔力封印」
氷のような声が聞こえると共に俺に伸し掛かっていた火猪が大きく震える。
大丈夫かと言いかけて、違うだろと自らに突っ込みを入れる。
今度は向うに出来た隙を利用し、その体の下から這い出した。
「こちらに、アルヴァさん」
「クロノ……」
剣を魔物に向けたまま黒髪の少女が俺に指示する。
「もうボクから離れないでください」
そう言いながらその剣を弱っている火猪に振り上げる。びっくりする位簡単にその首は胴体と離れた。
「お前……凄いな。そうか魔物だもんな、魔力、使ってたか……」
なんでそのことにもっと早く気づかなかったのだろう。
落ち込む気分を隠しクロノを褒める。彼女はそれに笑顔を浮かべることは無かった。
「あのイノシシ、燃えていたし、ミアンさんと同じ炎の魔力を感じたんです。だからそれを封印すればただの猪になるんじゃって思いました」
「なるほど、ミアンと同じか。良く見ると色々似てるかもな」
「ミアンさんに怒られますよ……いえ、怒って貰ってください。また、こんな無茶をして……」
動かなくなった火猪のことなど忘れたようにクロノは俺に縋りついてくる。
体は火傷で痛いし、火猪の口から垂れた毒で汚れてもいる。だから抱き着こうとすると二本の腕を拒んだ。
「ボクのこと庇ったからこんな風に火猪に襲われたんですよね……」
「そうだな、マジで余計な事したわ」
「貴方が庇おうと思わなくなるぐらい、もっと強くなりたい……!」
そうすればこんな風にボロボロのアルヴァさんを見なくて済むのに。
泣きそうな顔でクロノに言われる。
俺は彼女を未熟扱いし、その行動が勝利につながると信じなかった自分の判断を悔いた。
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