51 / 131
第三章
51話 自警団からの依頼と英雄による鬼特訓
しおりを挟む・・・ん?・・・朝?
もう、そんな時間?
何だか、温かいな。
それに、顔に何か当たってる?
何だろう。
もぞもぞ動いてみる。
まぁ、気持ち良いし、いいか。
ああ。でも、そろそろ鍛練を始める時間だから起きないと・・・
幼い頃から早朝鍛練に興味を持ち、お父様や護衛騎士の鍛練に勝手に参加していた私は早起きすること十四年。
体が勝手に目覚め、シャキッと動き出すというのに、どうも今朝は勝手が違った。
「シュガー、熱烈なのは大歓迎だが、そんなにひっついて呼吸されたり、もぞもぞされると流石にくすぐったいぞ」
頭のすぐ上から聞こえてくる、深みがあるのに甘く、吐息が混じった艶のある声に慌てて飛び起きる。
「ちょっ・・・、どうして人のベッドに!」
信じられないことに、アントニオが私のベッドで横になっている。
しかもその胸元ははだけていて、貞操の危機といったものが頭を過ぎる。
オロオロして自分の姿を確認すると、昨夜借りた見慣れない男性用の寝間着をきちんと身につけている事にほっとする。
「人を犯罪者のように・・・。
俺は呼び鈴が鳴ったからこの部屋に来ただけだ。
そしたら、魘されているお前が水を飲みたいような事を言ってるから、手を貸して飲ませた。
寝かせてやったら、今度は俺の腕を離さない。
というより、しがみついてきた。
仕舞いに抱きついてきて、今に至る」
どうだ、解ったか?
ベッドに肩ひじをついて横になったまま、なぜか嬉しそうに笑顔を浮かべている。
はだけた白いシャツの胸元からは逞しい身体が見えて、なぜか直視出来なかった。
落ち着かないので部屋を出て行ってもらうことにする。
「普通に起き上がれるみたいで良かった。
頬はその湿布薬を貼っておけば、腫れや痛みは治るはずだ。
朝食はここに運ぶから待ってろ。
ああそう。
三日はベッドで安静にするんだぞ。
後になってから、調子が悪くなる場合もあるからな。
間違っても鍛練なんてするな」
アントニオはガバッとベッドから起き上がると、私の頭を数回撫でて行った。
・・・湿布薬?
頬に触れてみると、確かに冷たいものが貼られていた。
しかも、痛みも腫れも引いている・・・。
昨夜、てっきり頬を冷やすものと思いきや、医師にはスースーする塗り薬を塗られた。
『アレは無いのか?』
アントニオが医師に聞いていたのは、この湿布薬だったのかな。
寝る前は貼ってなかったはず。
・・・ってことは、貼ってくれた?
呼び鈴を鳴らした記憶もなければ、水を飲みたいなんて言ったことも覚えていない。
でも、結果的に異性と同衾してしまった。
起こってしまったものは、しょうがない。
私はもぞもぞしたのが、実際にはアントニオに擦り寄っていたという恥ずかしい記憶を封印することにした。
「この湿布薬の効き目すごいですね」
朝食を運んできてくれたアントニオは、自分の分も持ってきたようで、分厚いベーコンを口に運んでいる。
私のベーコンは、食べやすいように薄く小さくカットされている。
「この国にはない湿布薬だ。
フレジアって国知ってるか?」
私は頷く。
フレジアは四方を海に囲まれた神秘の国。
フレジアの王族、そして一部の貴族は魔法や錬金術を使うと聞いたことがある。
「この国に来る前はそこで役者をしていた。
まぁ、フレジアでも一流だった俺は色々とツテがあるんだ」
「ヘェ~」
フレジアの魔法薬。
どおりで、あんな効果があったんだ。
「何だ、俺のすごさが解ったか」
アントニオはコーヒーに角砂糖を四つも入れて、それを飲み干す。
「・・・シュガー、そういえばお前、短剣を持っていただろう。
なぜ髪を切ろうとした時、出さなかった?」
「ああ、あれはですね、スパイスさんでしたっけ?
彼がこう、嫌な雰囲気を出してたので」
スパイスさんは私に警戒していた。
多分スパイスさんは、アントニオの護衛的な役割なのかも。
「そうか。
実は、お前が昨夜使った短剣が見つからなかった」
「・・・そうですか」
あの時、図体の大きい男の短剣と同時に飛んで行った。
辺りは暗かったし、見つからなくても仕方ない。
そう思った。
でも、あのライアン様から贈られた短剣が、翌朝騎士によって発見され、血痕のついた短剣が現在捜索願いの出されている私ジュリアナ・アッシュフィールドの私物であることが判り、捜索が拡大しているなんて、私は知る由もなかった。
もう、そんな時間?
何だか、温かいな。
それに、顔に何か当たってる?
何だろう。
もぞもぞ動いてみる。
まぁ、気持ち良いし、いいか。
ああ。でも、そろそろ鍛練を始める時間だから起きないと・・・
幼い頃から早朝鍛練に興味を持ち、お父様や護衛騎士の鍛練に勝手に参加していた私は早起きすること十四年。
体が勝手に目覚め、シャキッと動き出すというのに、どうも今朝は勝手が違った。
「シュガー、熱烈なのは大歓迎だが、そんなにひっついて呼吸されたり、もぞもぞされると流石にくすぐったいぞ」
頭のすぐ上から聞こえてくる、深みがあるのに甘く、吐息が混じった艶のある声に慌てて飛び起きる。
「ちょっ・・・、どうして人のベッドに!」
信じられないことに、アントニオが私のベッドで横になっている。
しかもその胸元ははだけていて、貞操の危機といったものが頭を過ぎる。
オロオロして自分の姿を確認すると、昨夜借りた見慣れない男性用の寝間着をきちんと身につけている事にほっとする。
「人を犯罪者のように・・・。
俺は呼び鈴が鳴ったからこの部屋に来ただけだ。
そしたら、魘されているお前が水を飲みたいような事を言ってるから、手を貸して飲ませた。
寝かせてやったら、今度は俺の腕を離さない。
というより、しがみついてきた。
仕舞いに抱きついてきて、今に至る」
どうだ、解ったか?
ベッドに肩ひじをついて横になったまま、なぜか嬉しそうに笑顔を浮かべている。
はだけた白いシャツの胸元からは逞しい身体が見えて、なぜか直視出来なかった。
落ち着かないので部屋を出て行ってもらうことにする。
「普通に起き上がれるみたいで良かった。
頬はその湿布薬を貼っておけば、腫れや痛みは治るはずだ。
朝食はここに運ぶから待ってろ。
ああそう。
三日はベッドで安静にするんだぞ。
後になってから、調子が悪くなる場合もあるからな。
間違っても鍛練なんてするな」
アントニオはガバッとベッドから起き上がると、私の頭を数回撫でて行った。
・・・湿布薬?
頬に触れてみると、確かに冷たいものが貼られていた。
しかも、痛みも腫れも引いている・・・。
昨夜、てっきり頬を冷やすものと思いきや、医師にはスースーする塗り薬を塗られた。
『アレは無いのか?』
アントニオが医師に聞いていたのは、この湿布薬だったのかな。
寝る前は貼ってなかったはず。
・・・ってことは、貼ってくれた?
呼び鈴を鳴らした記憶もなければ、水を飲みたいなんて言ったことも覚えていない。
でも、結果的に異性と同衾してしまった。
起こってしまったものは、しょうがない。
私はもぞもぞしたのが、実際にはアントニオに擦り寄っていたという恥ずかしい記憶を封印することにした。
「この湿布薬の効き目すごいですね」
朝食を運んできてくれたアントニオは、自分の分も持ってきたようで、分厚いベーコンを口に運んでいる。
私のベーコンは、食べやすいように薄く小さくカットされている。
「この国にはない湿布薬だ。
フレジアって国知ってるか?」
私は頷く。
フレジアは四方を海に囲まれた神秘の国。
フレジアの王族、そして一部の貴族は魔法や錬金術を使うと聞いたことがある。
「この国に来る前はそこで役者をしていた。
まぁ、フレジアでも一流だった俺は色々とツテがあるんだ」
「ヘェ~」
フレジアの魔法薬。
どおりで、あんな効果があったんだ。
「何だ、俺のすごさが解ったか」
アントニオはコーヒーに角砂糖を四つも入れて、それを飲み干す。
「・・・シュガー、そういえばお前、短剣を持っていただろう。
なぜ髪を切ろうとした時、出さなかった?」
「ああ、あれはですね、スパイスさんでしたっけ?
彼がこう、嫌な雰囲気を出してたので」
スパイスさんは私に警戒していた。
多分スパイスさんは、アントニオの護衛的な役割なのかも。
「そうか。
実は、お前が昨夜使った短剣が見つからなかった」
「・・・そうですか」
あの時、図体の大きい男の短剣と同時に飛んで行った。
辺りは暗かったし、見つからなくても仕方ない。
そう思った。
でも、あのライアン様から贈られた短剣が、翌朝騎士によって発見され、血痕のついた短剣が現在捜索願いの出されている私ジュリアナ・アッシュフィールドの私物であることが判り、捜索が拡大しているなんて、私は知る由もなかった。
18
お気に入りに追加
1,383
あなたにおすすめの小説
[完結]異世界転生したら幼女になったが 速攻で村を追い出された件について ~そしていずれ最強になる幼女~
k33
ファンタジー
初めての小説です..!
ある日 主人公 マサヤがトラックに引かれ幼女で異世界転生するのだが その先には 転生者は嫌われていると知る そして別の転生者と出会い この世界はゲームの世界と知る そして、そこから 魔法専門学校に入り Aまで目指すが 果たして上がれるのか!? そして 魔王城には立ち寄った者は一人もいないと別の転生者は言うが 果たして マサヤは 魔王城に入り 魔王を倒し無事に日本に帰れるのか!?

能力値カンストで異世界転生したので…のんびり生きちゃダメですか?
火産霊神
ファンタジー
私の異世界転生、思ってたのとちょっと違う…?
24歳OLの立花由芽は、ある日異世界転生し「ユメ」という名前の16歳の魔女として生きることに。その世界は魔王の脅威に怯え…ているわけでもなく、レベルアップは…能力値がカンストしているのでする必要もなく、能力を持て余した彼女はスローライフをおくることに。そう決めた矢先から何やらイベントが発生し…!?

最強の赤ん坊! 異世界に来てしまったので帰ります!
カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
病弱な僕は病院で息を引き取った
お母さんに親孝行もできずに死んでしまった僕はそれが無念でたまらなかった
そんな僕は運がよかったのか、異世界に転生した
魔法の世界なら元の世界に戻ることが出来るはず、僕は絶対に地球に帰る

異世界転生したらたくさんスキルもらったけど今まで選ばれなかったものだった~魔王討伐は無理な気がする~
宝者来価
ファンタジー
俺は異世界転生者カドマツ。
転生理由は幼い少女を交通事故からかばったこと。
良いとこなしの日々を送っていたが女神様から異世界に転生すると説明された時にはアニメやゲームのような展開を期待したりもした。
例えばモンスターを倒して国を救いヒロインと結ばれるなど。
けれど与えられた【今まで選ばれなかったスキルが使える】 戦闘はおろか日常の役にも立つ気がしない余りものばかり。
同じ転生者でイケメン王子のレイニーに出迎えられ歓迎される。
彼は【スキル:水】を使う最強で理想的な異世界転生者に思えたのだが―――!?
※小説家になろう様にも掲載しています。

大学生活を謳歌しようとしたら、女神の勝手で異世界に転送させられたので、復讐したいと思います
町島航太
ファンタジー
2022年2月20日。日本に住む善良な青年である泉幸助は大学合格と同時期に末期癌だという事が判明し、短い人生に幕を下ろした。死後、愛の女神アモーラに見初められた幸助は魔族と人間が争っている魔法の世界へと転生させられる事になる。命令が嫌いな幸助は使命そっちのけで魔法の世界を生きていたが、ひょんな事から自分の死因である末期癌はアモーラによるものであり、魔族討伐はアモーラの私情だという事が判明。自ら手を下すのは面倒だからという理由で夢のキャンパスライフを失った幸助はアモーラへの復讐を誓うのだった。

異世界転生したので森の中で静かに暮らしたい
ボナペティ鈴木
ファンタジー
異世界に転生することになったが勇者や賢者、チート能力なんて必要ない。
強靭な肉体さえあれば生きていくことができるはず。
ただただ森の中で静かに暮らしていきたい。

うっかり『野良犬』を手懐けてしまった底辺男の逆転人生
野良 乃人
ファンタジー
辺境の田舎街に住むエリオは落ちこぼれの底辺冒険者。
普段から無能だの底辺だのと馬鹿にされ、薬草拾いと揶揄されている。
そんなエリオだが、ふとした事がきっかけで『野良犬』を手懐けてしまう。
そこから始まる底辺落ちこぼれエリオの成り上がりストーリー。
そしてこの世界に存在する宝玉がエリオに力を与えてくれる。
うっかり野良犬を手懐けた底辺男。冒険者という枠を超え乱世での逆転人生が始まります。
いずれは王となるのも夢ではないかも!?
◇世界観的に命の価値は軽いです◇
カクヨムでも同タイトルで掲載しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる